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昆虫食愛好家から見た「コオロギ騒動」を、書いていこうと思う

スパイクのごとく、評価が乱高下した昆虫食


「若者に、映えるコオロギスイーツを流行らそうとするな!」

2023年3月19日。東京・新宿アルタ前広場。右翼団体による、街宣演説の中で叫ばれていたコメントです。私は一体どこの世界線に来てしまったのかと、一瞬だけ異世界転生気分が楽しめました。

私が虫を食べ始めたのは、2008年。その当時は日本における郷土食としての昆虫食は存在感が薄く、ほとんどの場合「ゲテ食」として異質な光を放っていました。と思ったらFAOの報告書をきっかけに、SDGs消費として「虫を食べると環境に貢献できる」といったようなポジティブな雰囲気へと急に押し上げられていきます。ところがそれが世間の感覚と乖離を起こし、今度は大批判の嵐。その中には、おかしな「昆虫食陰謀論」までが紛れ込んでいる始末です。昆虫食周辺は今、四方八方から石が飛んでくるかのような、叩いていい悪者ポジションへと急降下しています。

そして冒頭のコメントが放たれた、「昆虫食反対デモ」が発生するまでに至りました。


街宣準備の風景をみていたら衝動的にお話してみたくなり、愛国市民団体「日の丸街宣倶楽部」代表様にご挨拶させていただいた。氏によると「問題は補助金や牛乳廃棄といった点。趣味で食べるのは全く問題ない」とのこと。

そんな中で火を放たれているのは、主に食用コオロギです。過去には害虫退治のために火を放って家屋を燃やす羽目になったり、虫よけスプレーを噴射したら引火&爆発したリアル燃焼事件もありましたが、今のSNSでは「権力者が利権を貪るため、国民がコオロギ食を押し付けられている」というストーリーが燃料です。こうした話が拡散されているのは、多くの人がすでに耳にしているでしょう。

昆虫食本に見る、世の反応

これまでに発行されてきた昆虫食の書籍といえば、生態人類学者である野中健一氏による『虫食む人々の暮らし 』(NHKブックス)をはじめ、昆虫料理研究家・内山昭一氏の『楽しい昆虫料理』(ビジネス社)、そしてレジェンド・三橋淳氏の『世界昆虫食大全』(八坂書房)など、昆虫食文化に真正面から取り組むものが主なテーマでした。その後はSDGs、フードテックといったビジネス視点の書籍が続き、そして今は次のようなラインナップ。Kindleで確認できる昆虫食本のノリから、不穏な空気が伝わってきませんか。

『ゾッとするような歴史的食文化革命: ほんとうは怖い昆虫食産業』
『禁断の昆虫食: 昆虫食は、世界を救う解決策か、偽善的な罠か?』
『昆虫 食べますか?食べませんか?: それを考えるよりも今ある食材を無駄なく食べる方法教えます』
『chatGPT VS 河野太郎』※表紙にコオロギのイラストがバーン。
『昆虫食の不都合な真実』

YOUTUBEをチェックすれば、数十倍衝撃的なタイトルがわんさか掘り出されることでしょう。

昆虫食を全力で楽しんでいた10年前の私なら、通り魔にバールのようなものでぶん殴られた気持ちになったかもしれません。でも大丈夫。「昆虫食は闇の支配者である爬虫類人間の食べ物だ」とか、「コオロギを食べると体が電池化して、5gに接続して操られる」とか。少し前からSNSで散見されていた濃厚な陰謀論によって耐性ができていたので、心穏やかに今の騒動を眺めています。ゲテ食時代の昆虫食暗黒期ともまた異なる様相ですが、良くも悪くも活性化はしているでしょうし。

私は今まで「どの虫をいつどうやって食べるか」ばかりを考えていたけれど、虫を食べない人たちの視点や発想は、昆虫食愛好家たちには思いつかないものばかりで刺激的。「そういうのもあるのか」です。デマだ! と憤慨する気持は少なく(多少はある)、食べない人たちの意見や気持ちをこれほどまでに見聞きする機会はあっただろうかとソワソワしまくっています。また、昆虫食がどのように不安を煽る燃料にされているのかも知っておいて損はないはず。

そんな今の昆虫食まわりの個人的な出来事や雑感をこのnoteに記録していきますので、ご興味あるかたはどうぞよろしくお付き合いください。


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