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#62 東亮汰『Piacere~ヴァイオリン小品集』

鈴木さんへ

 オリヴィア・ロドリゴと言えば、私の中では昨年のグラミー賞で、応援していたというか、ライナーノーツなどで関わりがあったジョン・バティステに最優秀アルバム賞を獲ってほしくて、「ロドリゴちゃんは、まだ若いし、次のチャンスがあるから、今回はジョンに」なんて内輪で言っていた記憶があります。その次なるチャンスが早くもこの2作目で来たと思います! 
 その魅力はいろいろだけれど、まずはいろんな感情を表現できる彼女の声をあらためて好きだなぁと。1曲目『all-american bitch』冒頭の透明感あるヴォーカルに聴き惚れていると、いきなり叫んだり。『lacy』の囁くような高音の声もいいけれど、高速トーキングには力強い意志が感じられるし。
 そして歌詞、たとえば、『ballad of a homeschooled girl』にたとえシチュエーションが違っても共感できる10代の女の子、きっと大勢いるんだろう。葛藤を受け止めてくれる避難場所になるんだろうなと……。
 先週テイラー・スウィフトのコンサート・フィルムを観たんだけれど、10代でデビューした彼女が作品ごとにそれぞれ異なる風景を描いてきたことを再認識させられた。オリヴィア・ロドリゴもまだ20歳。これから等身大を映しつつ、どんな作品を作っていくのか、その期待値が高まる新作ですよね。

東亮汰『Piacere~ヴァイオリン小品集』

 桐朋学園大学音楽部を首席で卒業したヴァイオリニストのデビュー作。NHKのEテレで放映中のアニメ『青のオーケストラ』の主人公・青野一のヴァイオリン演奏も担当しているという。
 私は、クラシックの専門家ではないので、解説のようなことは出来ないけれど、ヴァイオリンの音色に感情が揺り動かされて、理屈抜きに幸せな気持ちになれるので、ぜひ紹介したいと思った。これぞ音楽の力。心からそう思うので、普段クラシックと縁遠い人にこそオススメしたい。

 タイトルに「小品集」とあるように、ヴァイオリンの有名な定番曲10曲を演奏している。そのなかには知ったかぶりして「またこの曲か」なんて思ってしまったエルガーの『愛の挨拶』や、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の『愛のテーマ』があるんだけれど、その知っている曲に心が昂るというか、あらためて深く感動させてくれる素晴らしさ。また、クライスラーの『中国の太鼓 作品3』では演奏に合わせて、体が自然に踊る楽しさがあって。
 現在23歳の若々しさもあるし、「何を思い、何を込める」とこういう音色が奏でられるの?と聞きたくなってしまう演奏。もちろん高い技術力があるからこその演奏だけれど、技術力だけでは奏でられない音色と、聴き手に伝わる力……。演奏の背景にあるもののひとつは、イタリア語で”歓び”という意味のタイトル『ピアチェーレ』だろう。でも、どうしてこんなにも、と思うことで、ますますその演奏に引き込まれてしまう。
                           服部のり子




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