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ストレイ・キャッツ 1989 / Stray Cats Blast Off

アメリカのロカビリー・バンドのストレイ・キャッツの再結成アルバム

1984年10月バンドを解散後3人はロカビリーから遠ざかってしまった。
結果、心の底から楽しめる瞬間が無い空虚な時間が過ぎて行った。。
過ぎ去りし青春を遠い目で眺めていた。

時が経過し、1988年にギター・ゴッドのレスポールのトリビュート・コンサートで3人のメンバーが集結し演奏する。これを機会にバンドは再結成する。

ブランクを埋めるかのような、以前に増して骨太でエネルギーに溢れたアルバムが発射「Balst Off」された。

メンバー

ブライアン・セッツァー ギター&ボーカル
リー・ロッカー コントラバス
スリム・ジム・ファントム ドラム
デイブ・エドモンズ プロデューサ

曲目

Blast Off
Gina
Everybody Needs Rock'n'Roll
Gene And Eddie
Rockabilly Rules
Bring It Back Again
Slip, Slip, Slipin' in
Rockabilly World
Rockin' All Over The Place

曲目感想

Blast Off

いきなり10カウント・ダウン、タイトル名を3人の雄叫びの連呼で発射「Balst Off」する。
ブライアン・セッツァーのボーカルも以前より遥かに増した骨太なボーカルで畳みかけていく。抑えきれない衝動で前のめりな演奏はギター・ソロでも、隙間なく詰め込んだ眩いロカビリー・リックが炸裂している。

グレッチのギターのオーバー・ドライブの歪みはギブソンにもフェンダーにもない焦げ付いたサウンド。ギターのポテンシャルを最大限に引き出している。

Gina

カントリー風でポップで軽快なロック・ナンバー。
絶妙なイントロのギターグレッチのリバーブ感とかデティールでデイブ・エドモンズのプロデューサーの手腕と存在が反映されている。
3人の一枚岩のバンド・サウンドもキラキラしている。
メロディアスに歌うブライアンのボーカルも以前より魅力の幅が増している。

Everybody Needs Rock'n'Roll

メンバーが再び集まった喜びがタイトルから伝わる。1950年代のエルヴィス・プレスリーのサウンドのエッセンスを感じるナンバー。
デイブ・エドモンズはサン・レコード時代の録音技術を長年詳細に研究しているノウハウが発揮された空間や残響、エコーが絶妙だ。

ブライアン・セッツァーの歌はエルビス・プレスリーの様にしゃくり上げて歌ういわゆるヒーカップであったり、ギターに関してもスコッティー・ムーアのジャズとカントリーが混在したリックを披露したり本家に近づこうとしている。
併せてスネアのドラムとリムショット、ウッド・ベースの音の配置やエコー、残響感も心地良い。

ロックンロールとロカビリーの愛が詰まっている。

Gene And Eddie

ジーン・ヴィンセントとエディ・コクランのナンバーのクールなフレーズと歌を交互に織り交ぜていく。
「ビーバップ・ルーラ」のアカペラから始まり2人のロカビリアンのサビと象徴的なフレーズがメドレーで突き進む。

ギターのフレーズはしっかりとしたフィンガリングと全ての曲の完コピしたお手本テクニックが全て聴ける。
ギター・ソロ部分ではペンタトニックで使用頻度の多いフレーズ、適正な音数、メロディの良さ、指板のスケールもハイ・ポジションからロー・ポジションの展開、フィニッシュ時の味付け的なアーミングに至るまで身に着けたくなる要素が詰まっている。またはエア・ギターをしたくなる衝動感がある。
ブライアン・セッツァーは、ジーン・ヴィンセントとエディ・コクランをカッコよく歌って弾ける唯一のアーティストだ。

本作品のハイライトであり再結成の意義とテーマを象徴している。

Rockabilly Rules

ツイードのフェンダー・ベースマン・アンプとローランドのテープエコーにグレッチのG6120(オレンジのホロボディギター)に搭載されいるビグズビー・アームをイントロでグイグイと鋭角的にアーミングしている。ギターを弾いててカッコよくキメたくなるプレイが目に浮かぶ。

まくしたてて歌う「I Said Rockabilly Rules OK!!!」

は完全に吹っ切れた終身ロカビリー宣言である。

Bring It Back Again

イントロのグレッチのクランチ(ちょっとだけ歪む)なコード・ストロークが気持ち良い、トーンもブライト加減も完璧。

3人のタイトルのコーラスがカントリー・タッチで軽快でポップなロックナンバー。解散前の作品よりもお互いが寄り添い、演奏の喜びを分かち合っている様が自然と伝わってくる。

Slip, Slip, Slipin' in

チャールズライト&ボブベルリー作曲。マック・カーティス(MAC CURTI)Sのバージョンでの作品中唯一のカバー曲。
演奏のオリジナルに忠実に沿って演奏している。
後半のテンション高めのシャウトを連呼し、ギターも同様にテンションの高いソロ。再結成後、この作品から出て来る「凄み」が以前には無かった点だ。

Rockabilly World

ダークだけどソリッド感のあるマイナーコードのロカビリー・ナンバー。
肩の力が抜けた地に足がついている演奏だ。
再結成後の3人の演奏フィジカルは格段に上昇して筋肉質になっている。
骨太で緩急もはっきりするブライアンのボーカルは迫力と同時に艶も増している。
グレッチのギターのリバーブ感と単音フレーズのピッキングの太さも
聴いてて気持ち良い。

音の空間の隙間も配分が絶妙で、バンドが成熟したこそマイナー・スイングした曲も映えるし、前のめりな曲が多い中、アクセントになっている。
演奏のグルーブ感も充実しているので腰を振って踊れるナンバーだ。

Rockin' All Over the Place

この曲はプロデューサーのデイブ・エドモンズのソロ作品にも通じるような
ロックンロール・ナンバー。

ギター・ソロはフィンガー・ピッキングも混ぜており、ロックンロールですぐに使いたい実用的なフレーズが沢山詰まっている。

オーバー・ダビングが無い3つの楽器と歌だけで重厚なバンド・サウンドを成立させることが出来る。実力のあるロック・バンドだと改めて認識できる。

Nine Lives

マイナーキー、スローのジャズ・ナンバーはファースト・アルバムの「Stray Cat Strut」のオルタナ・バージョン、続編的な位置付けイメージをさせる。
ギター・ソロのフレーズと構成も踏襲に近い。音を詰め込まないタイム感の良いソロが良い。

曲のタイトルは海外の老舗キャット・フードの名前であり、作品の裏のジャケットの猫のイラストは商品のパッケージなのかと勝手な想像をしてしまう。。

30分弱のあっという間の10曲で終了。

総論

デビュー・アルバムから関わりのあるデイブ・エドモンズが手を差し伸べる

ロカビリーを最高の形で仕上げてくれる人物であり、今回の作品も4人目のメンバーと言って差し支えないサポートを行ってくれている。

デイブ・エドモンズ以外にエルヴィスのサウンドを知り尽くしている者はいないし、逆に能力を本気でぶつけるグループも限られているとも言える。
つまり相思相愛の協力関係とブランクを感じさせない人間関係も作品を聴いて感じ取れた。

たまらなくロカビリーが演奏したかった

「ジムとリーだったらこういう風に演奏するんだけどなぁ」とブライアン・セッツァーはコメントしている。

再会するきっかけとなったレスポールのトリビュート・コンサートでの3人のステージの収まり具合は極めて自然で、存在するだけで絵になるし、倍増した波長(バイブレーション)が伝わってくる。

当然ライブの演奏もブランクがあっても身体が覚えていた。

ブライアンセッツァーがエディ・ヴァンヘイレンをステージに呼び、一緒に
ギターを弾いてる時なんかは、3人で演奏できる嬉しさが滲み出ていた。終わってしまうのが惜しいというのが伝わってきた。

ロカビリーをまた出来るこの上ない喜び、ロカビリーを終生演奏することが自らの使命だと認識できた重要なステージだった。

3人が抱き合って号泣したかもしれないくらい、復縁できた喜びがそのまま凝縮されたロカビリー愛に溢れた作品。


終わり


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