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(音楽話)15: Frank Sinatra feat. Ella Fitzgerald “The Lady Is A Tramp” (1967)

【痛快】

Frank Sinatra feat. Ella Fitzgerald “The Lady Is A Tramp” (1967)

邦題”レディは気まぐれ”。”Tramp”は基本的に「浮浪者」という意味。スラング的には「身持ちの悪い女」なんて意味もあったりします。タイトルだけだとなんともヒドいですが、この曲の邦題は上手だと思います。こういう言葉の選び方、先達の方々は本当にお洒落で素晴らしい。
あ、決して”Trump”ではないのでご注意を。もしTrumpだったら”気まぐれ”なんて洒落た邦題付きませんねきっと笑

この曲は元々1937年、ミュージカル「青春一座 (Babes in Arms)」のためにLorenz Hart & Richard Rodgersのコンビが描いた劇中歌です(彼らは”Blue Moon”や”My Funny Valentine”を生み出した超売れっ子コンビ)。様々なシンガーが持ち歌としていますし、2011年にはLady GAGAとTony Bennettが歌ってちょっと話題になりました。

歌の主人公の女性は大らかな気持ちと快活な性格で、ニューヨークあたりで遭遇した様々な出来事を豪快に笑い飛ばし、当時の米国上流社会を皮肉っています。古くさい慣習やしきたり…自由の国という言葉とはある意味真逆な実態を風刺した歌、と言えると思います。

Frank Sinatraは57年のミュージカル映画「夜の豹 (Pal Joey)」の中でこの曲を歌い大ヒット。そしてElla Fitzgeraldもレパートリーにしていて、その二人の奇跡の競演がこの映像。SinatraとEllaが2-8小節の幅で交互に歌う。Ellaは主人公と同性なので違和感ありませんが、Sinatraは「彼女は●●でさぁ」「XXなことも平気なんだよ、彼女」と歌詞を変えて歌っています。そこに違和感はなく、テンポ良く交互に歌うことで目まぐるしく変わる視点はまるで、「ノロノロ考えてるからダメなんだよ、もっとテンポ良くいかなくちゃ」と、既存概念を嘲笑っているように思えます。
驚きなのが、歌詞のリフレイン部分で、歌う箇所が1度目と2度目で入れ替わるという実に難しいことをいとも簡単にやってのけること。しかも二人の表情から察するに、その場のノリで阿吽で割り振っている気がする…バケモノです。
余裕、自信、風格、円熟、経験、技術ーーーその全てを内含しているからこそ溢れる二人のオーラ。Sinatraはアメリカン・ショービズ界の王様で象徴なのでこれくらい当然ですが、Ellaがその彼に真っ向対峙し、アドリブやスキャットもカマしながら堂々渡り合っている様子はさすが”The First Lady of Songs”、「歌のファースト・レディ」。なにより二人とも歌唱が軽快。しかも憎たらしい音程で歌ってみせたり、合いの手も絶妙。

この映像、TV番組収録みたいですがクレジットの「1967年」が収録年と考えると、当時Sinatra・52歳、Ella・50歳…それだけで私は震えと興奮が収まりません。悲喜交々な人生な、50代の彼らが豪快に高らかに固定概念を笑い飛ばす。実に痛快。そして実にカッコいい。

こういう大人になれるんでしょうか?ちょっと焦ってます私。

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