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(音楽話)48: ハイ・ファイ・セット “雨のステイション” (1977)

【過去】

ハイ・ファイ・セット “雨のステイション” (1977)

いわゆるコーラス・グループは現代、あまりお見かけしなくなりました。近年支持されているのは、日本ならゴスペラーズLittle Glee Monster、海外ではPentatonixAHMIRあたりでしょうか。日本では一時期「ハモネプ」ブームでやたらアカペラが流行ったこともありましたが、気づけばグループとしてコーラスを特徴にしている存在は、今ほとんどいないかも。

時代の流れとともに、歌のスタイルが「和音の響き」重視より「メロディの響き」もしくは「音楽全体のリズム感」重視に変わったこと、楽器類は最早ほぼ打ち込みで事足りるのでバンドやグループでなければならない理由はなく、より「自由な」音楽の組み立てが「個人単位」でできるようになったこと、歌詞を「聴き取る」のではなく歌が音楽の一部として心地良く「鳴っている」ことがポイントであること、などがその背景にはあるように思います。
良い・悪いではありません。今はそういう時代。しかしだからこそ、音楽は「単なる消費財」になってしまった。「自由」に「個人単位」で「音感重視」な音楽はインスタントに次々と生まれては消えていく。人間は感情移入したり感動することでその曲を覚えていくものですが、そのスパンは非常に短くなったし、ずっと覚えていることも少なくなっていく。だから過去を歌い継ぐことはほとんど無くなってきている。そんな傾向は、私にはとても残念に映ります。「最近のシンガーがカヴァー・アルバムを出してること、よくあるじゃん?」という意見がありますが、その多くは一過性のもの、契約都合のものであって、そこに愛情や思い入れを感じることはほとんどないーと言ったら、それは言い過ぎでしょうか?

音楽はここ数百年以上、人間のそばにいました。その時代を取り込んで、その時代を鳴らしてきました。触れたら、その時代がなんとなく分かるものーーー時代は地続きですから、過去を知ることで現代への道程をも知ることができる。過去は、現在であって、未来へ繋ぐもの。私がよく昔の楽曲を皆さんに紹介している理由のひとつは、そんなことを念頭に置いているからです。そこかしこで輝いた昔の曲を、今聴いて、昔を感じ、未来へ向かってほしいからです。

さて、ハイ・ファイ・セット。3人組のコーラス・グループ。一番有名なのはユーミン作の”卒業写真”(1975)や、洋楽になかにし礼が歌詞を書いた”フィーリング”(1977)ですが、”観覧車””幸せになるため””冷たい雨””スカイレストラン”など、女性1・男性2の落ち着いたコーラスワークとメロディアスで切ない歌詞が特徴の、とても穏やかで素敵なグループでした(92年解散。山本俊彦は2014年逝去)。メイン・ヴォーカルの山本潤子の声がとても魅力的で、ソフトで少し気怠い、でも滲む意思の強さ。

雨のステイション”は、77年のアルバム「ラブ・コレクション」収録。これもユーミンの作品です。2月に紹介するには季節外れで申し訳ないですが、陰鬱な今の時代を少しでも宥めてくれるようなサウンドと歌詞なので、あえて今ご紹介します。コーラスの美しさ、メロディの美しさ、歌詞の切なさ、情景の浮かびやすさ…ご堪能ください。タイムレスな歌世界は現代でもきっと、あなたのどこかの思い出と結びつく…はずです。

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新しい誰かのために
わたしなど 思い出さないで
声にさえもならなかった あのひと言を
季節は運んでく 時の彼方
六月は蒼く煙って
なにもかも にじませている

雨のステイション
会える気がして
いくつ人影 見送っただろう

霧深い町の通りを
かすめ飛ぶ つばめが好きよ
心縛るものをすてて かけていきたい
なつかしい腕の中 今すぐにでも
六月は蒼く煙って
なにもかも にじませている

雨のステイション
会える気がして
いくつ人影 見送っただろう

雨のステイション
会える気がして
いくつ人影 見送っただろう

(ハイ・ファイ・セット “雨のステイション”)

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