見出し画像

(音楽話)92: Mad Dogs and Englishmen “Honky Tonk Woman” (1970)

【ズルい】

Mad Dogs and Englishmen “Honky Tonk Woman” (1970)
(Joe Cocker)


英国は、定期的にソウルフルなシンガーってのが世に出てきます。古くはTom JonesやSteve Marriott、Steve Winwood、Rod Stewart…比較的最近ではLeona Lewis、Amy Winehouse…Adeleもソウルフルと言えるでしょう。

米国のソウルフルなシンガーたちは、比較的明るく派手なサウンドで熱唱するスタイルなのに対し、英国は少しブルース寄りでシンプルなサウンドの中絶唱するスタイルが多い…いや、先入観は良くないですね失礼しました。

…そんなことが言いたいんではなくて。英国出身ソウルフル・シンガーとして、後世に語り継ぐべきシンガーがいます。その名は、Joe Cocker

1944年英国サウス・ヨークシャー州シェフィールド生まれ。Ray CharlesLonnie Doneganに影響を受けて、10代の頃からRayやChuck Berry、さらにはJohn Lee HookerMuddy Watersなどのブルースを歌っていました。
一旦はDecca RecordsからデビューしてBeatlesの”I’ll Cry Instead”(選曲シブすぎ…しかもレコーディングでギターを弾いたのは若かりし日のJimmy Page)を歌うも不調、即解雇。ようやく日の目を見たのは68年、「Joe Cocker and the Grease Band」として売り出した”With a Little Help from My Friends”ーBeatlesのシャッフル・ビートの曲を思いっきりブルースに振り切った、素晴らしいカヴァーでした。

Joe Cocker and the Grease Band “With a Little Help from My Friends” (1968)

翌69年のWoodstock Festival出演で彼の人気は決定的となり、ツアーに明け暮れますがそんな生活が嫌になったのか、同年末に彼はバンドを突然解散します。しかし既に米国ツアーはブック済。急いで米国人たちと結成されたバンドが、今回の「Mad Dogs and Englishmen」でした。バンド、といっても都度メンバーが入れ替わる器のようなもので、総勢20人以上が名を連ね、バンドリーダーはLeon Russellー”A Song for You”でお馴染みのあの人。ドラムスはJim GordonJim Keltner(私のドラムスの神様!)といった、後にロック界を代表するドラマーたち。すごく豪華なメンツでした。このバンドで米国48都市を回り、ライヴ・アルバム「Mad Dogs and Englishmen」がリリースされヒット(1970)。しかしこのツアーでメンバーは疲弊、特にLeonとJoeはそれぞれ神経衰弱になり、Joeは重度のアルコール中毒も患います(結局バンドはこのツアー限りで消滅)。

その後のJoeは、アル中と鬱病、さらにコカイン中毒にも陥って、それらと闘いながら音楽制作もライヴもコンスタントに行い、浮き沈みはありましたが”You Are So Beautiful”(1974)、”Up Where We Belong”(1982。Richard GereとDebra Wingerの映画「An Officer and a Gentleman/愛と青春の旅立ち」主題歌)、”Unchain My Heart”(1987。Ray Charles 61年のヒット曲)などの大ヒット曲を生み出していきました。2014年、肺癌で逝去(70歳)。

Joe。ハスキーというよりガラガラ声。発音ちょっと独特。平坦に歌ってそうで細かく押し引いてる声量…カッコいいですねぇ。

歌う際の立ち姿、特に身体を痙攣させながら歌う姿は「えっ、え!?だ大丈夫!?」と思っちゃいますが、実際、病がそうさせた部分も多々あったことは間違いありません。でも、どこか達観したような透明感が、ガラガラ声の向こう側にあるように思えます。その動きや顔つきを見るとイカついけど、とても澄んだ人だったのかなぁと。

Honky Tonk Woman”はご存知The Rolling Stonesの有名曲(1969)。原曲は音数が少なく、カウベルのスコンと抜けた音とKeith RichardsのオープンGのギターが心地良い。彼らのブルース寄りなロックンロールに、スカやレゲエの匂いを上乗せした感じ。

The Rolling Stones “Honky Tonk Woman”(1968。シングル版)

これをJoeたちは、4つ打ち&ブラス&コーラスで、派手で粘着質なサウンドに変えてカヴァー。要は「腰に来る妖艶サウンド」。これが実にカッコいい。
前述「Mad Dogs and Englishmen」ライヴでの演奏ですが、2ドラムスでパーカッションも入ったリズム隊はタイト、(風貌が妙にイカしてる)Leonのギターはブルースで太いサウンド、ブラス隊もコーラス隊も要所要所で入ってきて都度オイしく掻っ攫っていく。ヒラ歌部分は4つ打ち、サビは8ビート…肉体性を持った野太いアレンジは英国人だけでは中々出せない。これは米国人メンバーが大多数なバンドだったから、かしら…おっとこれも偏見ね、失礼笑

こういう、肉感的、直接身体に響いてくるようなサウンドを鳴らしたライヴの、なんと心地良いことかーコロナ禍な世界でその想いは日々強くなります。随分おかしな時代になりましたが、こんな「ズルい音楽」を一日でも早く、身体で聴きたいですね。

良い週末を。

(紹介する全ての音楽およびその画像・動画の著作権・肖像権等は、各権利所有者に帰属いたします。本note掲載内容はあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?