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(ライヴ体験記)05: saya 配信Live@京都ライブスポットRAG (Apr. 11 2021)

【次の領域へ】
【saya ×ディジュ×尺八 春の配信スペシャルライブ】

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正直、音楽ライヴの域を超えていた。まるで宗教の祈りやイニシエーションのようであり、音霊と人魂の融合のようだった。「魂の例会」とでも呼んだ方がいいか。なんとなく音楽を聴こうと思って手を出すと、恐らく想像以上に心の底を抉られて放心するかもしれない、重厚で荘厳な音世界がそこには構築されていた。

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まずメンツが恐ろしい。誤解を恐れずに言うと、sayaとsayaの師匠・塩入がマトモに見える程、その他の3人に慄いた。

松居和。イメージが固定化されがちな尺八のなんと自由な解釈であることか。一音の出し方ひとつとっても、曲調や場面において変えてくるのは当然のことだが、それをこの人は「音を出していない」。彼は「音を生んでいる」。尺八は、彼の内で生じた意思を音色に変換しただけ。まるで呪術師のような出立ちだが、それはあながち間違いではない。多くの映画音楽で重用されてきたという事実は、彼の独自性・特異性あればこそ。

Knob。その変わり様に驚いたが(皆知らないと彼は言ってるが、CHA-CHA=勝俣、西尾、桃太郎、中村。忘れるわけがない笑)、当時から柔らかい光のようだった中村が、精神世界により直接的に結びつきやすい音楽ジャンルに没入してKnobになったことは想像に難くない。ディジュリドゥも石笛も原始的で、修正された周波数ではない音波を発する。祝詞の声に邪念や濁りがない。身体全体から聴こえてくる音像はまさに「純」の具象化。

菅原裕紀。数多あるパーカッションを駆使してはいるが、彼のスタンスはたったひとつしかない。それは「色」。彼の匙加減で楽曲が極彩色に変化する。厳格、快楽、飛翔、深淵。太鼓の音色はリズムを刻んでなどいない、あれは時を刻んでいる。シュケレ(のようなもの)は聴こえるか聴こえないかのギリギリの音量で楽曲の裏側の映像を補う。機微を表現するのが音楽家の夢のひとつだとすれば、彼はその方法を知っている。

そんな猛者たちを包み込み、誘い、時に追い込み笑、コーディネイトする塩入俊哉。ライヴのそこかしこで見せる全体を俯瞰する眼は今日も健在。その軽過ぎる運指でなぜそんなにハッキリと音が鳴るのか。リズムの微妙な切り替え、ずらし、止めーテクニカルに魅せることは彼ならいくらでも出来るだろう。しかしそれを気づかせないレベルで粛々と遂行する。あくまで黒子に徹する音像たち彼のピアノには本当に、毎回痺れる。

sayaが「このライヴのハイライト」と言っていた”古事記(IAM)”。主役はKnobだが、演者4人が織りなす世界はミュージカルでも神話でもなかったように思う。あれはもう、空気。古代の空気を現代に再構築しようと懸命に汗をかく4人の、壮絶な仕合だった。

こうした演者たちをバックに従えたsaya。正直に言うがライヴ前、私はこう思っていた。

「sayaが埋もれるライヴにならないか?」

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和楽器やプリミティヴな楽器が多数入るとなれば、奏でられる音楽は自然とスピリチュアルに向かう。ましてや、saya以外の4人はIAM (Infinity Arts Mugen)のメンバーー塩入を中心に結成された、音を通して祈りを表現するパフォーマンス・ユニットだ。そうした世界観と、sayaの個性「中低音の響き」「西洋音に合った声色」「発音・発声のクリアさ」が融合するのか、疑問だった。

だがそんなこと、余計なお世話だった。sayaは確実に、次の領域に足を踏み入れた。声に魂を持ち始めた。大袈裟?いや、そうは思わない。

以前から彼女はノってくると魂を削るかのような歌い方を見せることがあった。オリジナル”窓のない列車”や”約束”、唱歌”この道”など。こちらが心配になるほどの絶唱ぶり。しかしそれは様々な条件が揃った時に自然発動するものであって、本人が意図的に発動させることは難しいように見えていた。

しかし今回のライヴ、実に硬軟・緩急、押し引きが見事だった。“君をのせて”での発声の美しさはいつも通りだが、あの余裕ぶりはこれまであまり無かった空気感。”月香夜”の世界観は、原曲時よりもグッと大人で艶やかに香っていたし、私的にハイライトだった“漂泊の旅路”は、これまで聴いた中では最も、sayaの歌声に祈りが乗っていたように思う。
もののけ姫”や”高砂”といった、いわゆるスピリチュアルで荘重な音世界に彼女が乗せてきたのは「純粋な心根と意思の強さ」だった。表現が難しいが、声の重量が間違いなく大きくなっていた。下手に触れれば崩れてしまいそうな世界観を、揺らがない重みを声に持たせてそっと愛でていくーこんなsaya、見たことない。

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そうか、sayaは歌い続けることで、歌に込めるべき想いの重さと熱を計れるようになった=声に魂を持ち始めたということか…。


正直、大仰に思える場面もあったし、ちょっと間伸びするシーンもあったと思う。しかしそれを遥かに上回る音像の深さ、シンプルな音の重ね着たちは、暖かくもあり肌寒くもある今の時節には程良い耳触りだった。とは言え、空気の震えや音の匂い、歌詞の味わいは、肌で感じたいですねぇ…もちろん今の時代贅沢は言えないし、配信の利便性や可用性は素晴らしいのだけれど。

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演者の皆様、会場スタッフの皆様、配信関係者の方々、お疲れ様でした。貴重で希少な音楽体験に感謝。
sayaさん、素晴らしいひとときをありがとうございました。
(前半のお召し物、100点。後半の巫女さん、似合い過ぎ笑)

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saya ×ディジュ×尺八 春の配信スペシャルライブ
(2021/04/11@京都RAG)

Members:
saya(Vo)
Knob (Didgeridoo・祝詞・石笛)  松居和 (尺八)
菅原裕紀 (Perc) 塩入俊哉 (Pf)

Set List:
1 遠き山に日は落ちて 〜新世界より〜
2 さくらさくら
3 アシタカせっ記〜もののけ姫
4 天城越え
5 古事記(IAM)
6 君をのせて
7 名残りの蝉時雨*
8 月香夜*
9 高砂
10 漂泊の旅路*
11 リンゴ追分

Encore
12 ジュピター 〜 「惑星」より

(*sayaオリジナル)
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saya
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