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10クラ 第44回 古都の織りなすもの

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第44回 古都の織りなすもの

2022年10月27日配信

収録曲
♫イサーク・アルベニス:グラナダ(スペイン組曲 作品47より第1曲)

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 古都、というと情景反射的に川端康成の文学作品が思い浮かぶが、遠からず特有の美を感じさせる言葉と思う。風情があり、どこか切ない人間ドラマがあるような。
 今回の作品の舞台はスペインの古都、グラナダである。とはいえアルハンブラ宮殿にまつわるような歴史の生々しい情景がここに描かれているとは思えないけれど。どちらかと言えば、景色―陽の傾きや映りゆく色、佇む人々やふとした表情の陰り―そのような繊細な描写があるように思う。
 イサーク・アルベニスは天才少年と名高く、スペイン出身ではあるもののヨーロッパ各地で活躍していたので「ヨーロッパ人」という感じだ。多少ドイツでの研鑽は積んだものの、ラテン系の土地柄での活動のほうが多い。自分自身の謎の武勇伝を人々に語っていたというのだから、おそらく…オヤジギャグが好きだったのでは?なんて想像してみたり。1860年生まれなので、作曲家ならグスタフ・マーラーと、ピアニストなら(ポーランドの首相でもあったが)ヤン・パデレフスキと同い年。出来事で言えば、一番わかりやすいのが桜田門外の変で井伊直弼が討たれた年だ。そしてこの『スペイン組曲 第1集』が作られたのは1886年、アルベニス26歳(若いのに大人びた作風…)の時である。この年はフランスの神童サン=サーンスがオルガンやピアノ連弾を交響曲に組み込むという大胆な作品『交響曲第3番』をイギリスにおいて初演している(このオケ中ピアノ連弾は私も参加したことがあり、なんとも贅沢な舞台だと思ったものである)。
 クラシック音楽のみを時代ごとに追うのももちろん大切なことだが、作曲者周辺で何が起きていたか、その時社会情勢はどのようなものだったか、ということも作品のアプローチには重要なことと心得ている。なぜなら如何なる人も、その時代の流れのなかで生きているから。そしてやはりヨーロッパで起きていることと日本で起きていたことはどうしても分離しやすくなってしまうが、この時日本は何をしていたんだろう?と思うともっと面白い。演奏会に足を運んでくださる方々は本職が音楽以外であったりする。どこか共通の糸口があったら、個々に新たな楽しみを見つけてくれるのではないか…密かにそのような興味も抱きながら、演奏をしてみている。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/