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10クラ 第54回 恋と幻想のドラマ

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第54回 恋と幻想のドラマ

2023年3月24日配信

収録曲
♫マニュエル・デ・ファリャ:恐怖の踊り(組曲『恋は魔術師』より)

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 エクトール・ベルリオーズの『幻想交響曲』やカミーユ・サン=サーンスの『死の舞踏』は本来見えないはずのものをスリリングかつ妖艶に描き出し、現在に至るまで人気の高いプログラムになっている。ベルリオーズは自身の大失恋をもとに「ある芸術家の生涯の出来事」として5つの場面で作品を構成している。舞踊のリズムも多彩にあり、甘美な歌も大いにある。愛していた女性を「魔女」とみなして亡霊の踊りを表したり、聖歌「怒りの日」を取り入れて混沌とした怒りをぶちまけているのは、だいぶ発狂状況と思えるものの、こうして心の整理をつけていったのだろうか。さまざまに革新的な要素を取り入れたこの楽曲はのちに多くの作曲家を刺激し、音楽史上でも重要な位置を担う作品となってしまった。作曲者にしてみれば何が本意かはわからないが、自身を語られるとき、永遠にこの失恋も語り継がれるということ。本人が知ったらどう思うのだろう。一方サン=サーンスは幻想的な墓場での舞踏を表すアンリ・カザリスの詩からインスピレーションを得て作曲をしている。真夜中に踊り狂う幻想世界への一種の憧れ、ファンタジー…踊る音、鐘の音、ニワトリの鳴き声など、細やかな状況が視覚的に感じられ、「怒りの日」による心理的恐怖-好奇心にも似た胸のざわつき-を誘う巧妙な作りである。
 このような音楽がフランスで生まれ演奏されていたところに、ファリャはスペインからやってくる。ドビュッシーに憧れ、ラヴェルやプーランクとも親交を持ち、フランスの作曲現場に直に触れた。その彼が描く幻想性は、フランスで行われてきた巧みな表現技術に加えて、独自性の高いスパニッシュな色彩感と強い情熱に満ちている。ハッピーエンドの作品のなかで象徴的にスパイスを加える『恐怖の踊り』は、ひとつの素材を存分に使い切るラヴェルの手法(『ボレロ』の代表される)も垣間見えるようだ。
 多くの物語で悪役が登場すると、ひとつの盛り上がりが起こる。例えばモーツァルトの「夜の女王」のアリア、チャイコフスキーの「黒鳥」の舞は花形の存在だ。『恋は魔術師』では主人公である美女カンデラと、相手役カルメロの恋を阻む唯一の存在が「カンデラの元夫」の亡霊である。普通なら目には見えない幻想の世界を繰り広げ、この一点のみに悪を絞り、最後はジプシーの悪魔祓い(『火祭りの踊り』)で成就して幕を閉じる。シンプルで清々しい物語に『恐怖の踊り』もまた、大きな盛り上がりを与える存在となっている。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/