見出し画像

「陸」と書いて「おか」とよむ

漁業にはたくさんの陸仕事(おかしごと)がある。
つまり、海に出て魚をとること以外に発生する陸(おか)でのあれこれ。

***

漁業種類によるけれど、代表的なのは「網仕事」とか。
漁のときに壊れた網を修理したり、古くなった部位を取り替えたりする。大きな網を修理するときはまさに1日仕事。岸壁に200メートルぐらいの網を広げて、端から順番に直していく。
子どもの頃は、よくこの網仕事の現場に連れて行ってもらって、働く家族のBGMみたいに周りでちょろちょろ遊んでた。
たまに「ここをもってて」と、手伝いをお願いされると、役に立っている自分がなんだか誇らしかった。
店屋物の出前を頼んで、皆でお昼ご飯食べたのも良い思い出。
「幸丸ですー。中之作の岸壁ですー。」ぐらいで配達してもらえるって、ある意味でウーバーより画期的な仕組みだったと思う(笑)

船底のおそうじ

他にもビッグな作業として、「船底清掃」がある。
船を造船所にあげて、船底をゴシゴシ掃除をしたり、ペンキを塗りなおしたりする。これは、2日間ぐらいかかる大仕事。
船底清掃をするとき、漁師は「船をひく」という。「今日は〇〇丸が船ひいでっから、手伝う」といった感じ。
一人でできる作業ではないので、だいたい誰かが手伝ってくれたり、作業中に缶コーヒーもって様子見に来てくれたりする。
些細なことだけど、誰かが気にしてくれてるって、なんかうれしいよね。

***

水揚げ(船から魚をあげて市場に出す)作業もまさに陸仕事。いわきでは水揚げ作業は女性たちがとても活躍する。
こまかい陸仕事になると、氷を買いに行ったり(これは「氷をしこむ」という)。漁船に燃料を入れたり(これは「油を仕込む」という)。時化にあわせて船を非難させたり、ロープで固定したり。
他にもたっくさん。とにかく、普段の生活の端々に、漁業にまつわる動きが登場する。
いまだに「えー、そんなことまでしてんのー!?」という発見があるぐらい。

漁師のおしりとゲンバ

ちなみに、漁協や各漁業種類ごとにある部会・協議会はとにかく集まりが多い。
話し合いで合意形成を図ることが前提の協同組合の宿命なのだろう。
漁師がいつもよりはおしゃれをして、この寄り合いに向かうのも陸仕事の一つだ。

***

漁師の子どもが漁師になるときって、多分こういういつも見えている陸仕事のお手伝いが入り口で、自然な流れで海に出ていくようになるのだろうな。
一度地元を離れた私には、その自然な流れを作るのがちょっと難しくなっている。

海に出て魚を獲ると聞くとすごくハードルが高い仕事に感じてしまうけど、陸仕事に関わることは私でも手を貸すことができ、役に立つことができるかな。
陸サーファーならぬ、陸漁師(おかりょうし)。

漁業って、特に沿岸漁業って、老若男女、何かしら役割がある。
その包容力がすてきだよね。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?