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【映画感想】ニンジャ、ダイナソー、そしてニンジャ「必殺!恐竜神父(2017)」

敬虔な牧師ダグは自動車の爆発事故で両親を失い、傷心の旅で中国を訪れる。そこで忍者に追われる謎の女性から牙の化石を受け取るが、その牙は人間を恐竜に変身させる力を秘めていた。強大な力を得たダグは娼婦キャロルと協力し街のために悪人退治を始めることとなる。彼らは悪党たちとの戦いの末にチャイニーズ・ニンジャ軍団が全ての黒幕だと知る事になるが…。
           出展:https://www.amazon.co.jp/dp/B0918WR9WW

≪まえがき≫

 インターネットの海を泳いでいると、時々よくわからない存在に出くわす時がある。それは同時出現数の上限が三体のキノコ人間とか、ダンボールで作られた迷宮(ラビュリンス)だったりするのだけれども、今回は友人から「お前は必殺!恐竜神父を見なければ全身がヴェロキラプトルになり死亡する」との宣告があったので受けて立つことにした。タイトルの圧が半端じゃない。恐竜と神父だけでも既に合体事故を起こしているのに必殺!と来ている。殺すの?神父が?必殺ダイナソー空手で?人を?神父が?その上あらすじにも新たなるワードのチャイニーズ・ニンジャ集団が潜んでいた。畳の縁を踏んだら下からニンジャが刀を刺してきた感じだ。




≪あらすじ≫

 敬虔な牧師のダグは自動車の爆発事故

VFX:炎上する車

(画面上にはVFX:炎上する車としか書いてないので何が起きてるのかわからないが、あらすじ曰く爆発事故らしい)によって両親を目の前で失ってしまう。

 傷心のダグは先輩牧師の勧めでアメリカの東にある神に見放された土地、中国(本人談)を訪ねることに。しかし今度は謎の女性(オリエンティックな服装)が全然しなってない弓と全然張ってない麻縄みたいな弦でもって、目の前で射殺されてしまう!

 なんか意味深なことを言い残しながら女性はダグへ牙の化石を残して息絶える。そして牙の化石で手のひらに傷を負ったダグは昏倒し……次の瞬間アメリカのいつもの教会へ戻っていた……(間がスキップされただけで普通に帰国したらしい。なんだよ!)。

 アメリカに帰国したダグは時折、猛烈な飢餓感に悩まされるようになる。夜道を歩くダグは、娼婦のキャロルをいじめる典型的な小悪党に遭遇。咄嗟に庇いに入ったダグはもみ合いの中で気を失い……目覚めたときにはベッドの中だった。聖職でありながら姦淫を犯したと激しく狼狽し、挙句キャロルを詰りだすダグ(どうなんだよ人として)。ところがキャロルの話はダグが恐竜になって人を食ったなどという荒唐無稽な話にエスカレート、さすがのダグも常識を疑い始め、現場に赴くことに。現場を改めて、ダグは恐竜に変身した自身が悪党を食殺した恐るべき現実を受け止める……。

 それはそれとして、自らが食人恐竜変化人となってしまったことに苦悩しながら牧師として復帰したダグ。告解室に入ると、そこには頭髪が奇妙な男フランキーの姿が!微妙に要領を得ない発言で殺人や放火を告白していくフランキー、最終的に聞いているダグを愚弄しはじめる始末。何しに来たんだよ。ところが、フランキーが直近の放火殺人を自白し始めると状況は一変……そう、フランキーこそがダグの両親を焼き殺した張本人だったのだ!
 あくまで牧師として、告白したフランキーを許そうとするダグだったが、自慢げに放火殺人を語る態度にだんだんと体が恐竜になっていき……ついには恐竜アームでフランキーを突き殺してしまう!

 とうとう自分の意思で殺人を犯してしまったダグ……キャロルの言っていた「牧師である貴方は、相手が殺人犯だろうと、強姦魔だろうと告白されれば許すしかない」という言葉を思い出し、殺人の正当化染みた考えを進ませるようになる……。

 ところ変わって、たぶんアメリカの荒地っぽいどっかではニンジャが修行をしていた。ニンジャ組織首魁のウェイ・チェンは側近のサムに語る……予言に記されし竜の戦士が現れた!あと最近のコカイン売買について

 礼拝や懺悔室をさぼりながら裏で悪人を食いまくっていたダグを先輩牧師は心配し、悪魔祓いに掛けようとする。言い争いになる中でとうとう「神は殺人を望んでいない、その逆なのでは?」とかとんでもないこと言い出したダグ。先輩はこりゃ普通のエクソシストには手が負えんわと判断、知り合いのドラァグな感じの呪術師を頼ることに。

 始まった悪魔祓い……催眠の中で思い返す家族の思い出……一人っ子の自分……優しい父……飢える恐竜……。現実では恐竜神父の恐竜部分が大暴れしていた!先輩牧師大量出血で瀕死!呪術師逃亡!恐竜神父逃亡!混乱の中で逃走したダグにキャロルは優しく語り掛ける……あなたはモンスターじゃない……。ガッツリ姦淫を決めながら、家族の思い出とキャロルに支えられ、ダークヒーロー恐竜神父として生きること決意したダグにニンジャの魔の手が迫る! 

 イヤーッ!と、アンブッシュで寝室に攻め入ったニンジャ集団を難なく返り討ちにしたダグとキャロル瀕死のニンジャに話を聞こうにも有益な情報は得られない…ところ変わって”ニンジャマスター”ウェイ・チャンは回復した先輩牧師に語る……コカインをばらまいたあと締め上げて自分たちの運営する療養施設にアメリカ国民を駆け込ませるジュラル星人張りに回りくどい気がする恐るべき計画を!それなんで何の面識もない先輩牧師に明かした?そしてウェイ・チャンに刺され先輩牧師は死亡!なんで何の面識もない先輩牧師に言ったの?

 いろいろあったが、絶え間なく襲い来るニンジャたちを返り討ちにし、インタビューすることで情報を集めたダグとキャロルはとうとうチャイニーズ・ニンジャ集団の本拠地へ攻め入った!もはや心身ともに恐竜神父と化したダグを待ち受けるのは……「兄 弟」の額あてと先祖代々の剣で武装したマスター・ニンジャ、サム!そしてサムは語る……自分こそ、何を隠そう恐竜神父の実の弟であると……そう、ダグがよりどころにしていた家族との思い出は無いものとして扱われていたサムの存在あってのものだったのだ!だが、ダグとサムが実の兄弟であるということは即ち先祖代々の剣はダグも使えるということ!先祖代々の剣(マジでこれ以外に細かい説明がなんもない、なんなんだよ急に出てきたこの剣は)を奪い合う壮絶なイクサの末に、軍配が上がったのは……ダグだった。

 一方、キャロルの前に立ちふさがるのは身の丈は7尺を優に超え、脇差のように刀を振り回すビッグ・ニンジャ、ゴリアテ!あまりのプレッシャーと威圧感の前に直前までモブニンジャに無双していたはずのキャロルは身動きがとれず、ゴリアテに切られて絶命!ナムサン!

 キャロルの最期を看取ったダグは怒りに身を任せ、人間の部分を一切残さない完全恐竜モードに変貌しモブニンジャを殺戮!ナムアミダブツ!
 だがダグの大量殺忍劇は唐突に終わりを迎える……そう、チャイニーズ・ニンジャ・グランド・マスター、ウェイ・チャン抗毒恐竜封印矢を放ったのだ!ウェイ・チャンは語る、これまで数多くの恐竜人が人類を支配しようとした……時には支配したこともあった……だがニンジャはこの抗毒素をもって恐竜人たちを退けたのだ。そうして組み伏せたダグを痛めつける。だがダグは……恐竜神父としてではなく、キャロルを殺された人としての怒りをもってウェイ・チャンの首を引っこ抜き、見事このニンジャ組織首魁を打ち倒した!

暴力を捨てることだけが
世界平和を達成する唯一の道である。

 生首を掲げながら勝利の方向をするダグ、その背景に画面に引用されるガンジーの言葉。彼は反例なんですよね?そうなんですよね?

 短いエンドロールのあと、ポストクレジットシーン。病院の待合室でダグは医師と会話していた。そこで明かされた真実……

SHE’S FINE

 そう、キャロルはニンジャとの激戦を経て、生きていたのだ!

 回復したキャロルを連れてダグは去っていく……ニンジャたちを血祭りにあげ、先輩牧師の殺害もダグの仕業として扱われた……教会はエクソシストを派遣し、恐竜神父を追い続けるだろう……。ダグの戦いは、始まったばかりなのだ!(この映画の教会って、そんな感じの組織だっけ?)


≪感想≫

 インターネットの海を泳いでいると、時々よくわからない存在に出くわす時がある。恐竜神父は完全に「よくわからない側」の存在ではあったのだけれど、この映画は間違いなく製作の愛とか、意思とか、そんな感じのものを強く訴えてくる作品なことは間違いない。正直、映画単体としてみると、完全にスカム映像を楽しむつもりじゃないと肩透かしを食らうし、マトモかと聞かれると首を横に振らざるを得ない。でも、僕はこの映画が好きだ。それはやっぱり、作っている側の熱意とか愛を感じるからなのだろうか?

 特にサムは凄い「家族から居ないものとして扱われていた弟」、「兄である主人公の回想の中に実はずっと潜んでいた」、「温情深いニンジャ師範との疑似家族的関係」、「兄に執着し先祖代々の剣とか持ち出す」、と敵にいる弟キャラとしてあまりにも盛り込みまくっている。初登場のやたら長すぎる上に三、四回繰り返す下手すぎる笑いのシーンも、経歴の伏線になってるのだから妙なところでうまくできている。というかこの映画は、よくできた部分とおざなりな部分であまりにもムラがあるというか、熱意の注ぎ方が極端すぎるのだ。
 ダグが最初に自らの意思で殺人を犯すシーンなどもよくできていて、懺悔室の中で相対するフランキーとダグの顔を隔てていたワイプ枠を、ダグの恐竜アームが突き破る演出は本当に良い。ダグが自ら選択した殺人と、懺悔室の閾を牧師が突き破る行為、人と恐竜の境目が壊される瞬間、いくつもの一線を超える瞬間が象徴的に描かれている。
 あらすじの欄では省いたが先輩牧師の回想も見どころ盛りだくさんだ。従軍していた彼に良くしてくれた先輩兵士、その直後にフラグ回収して死ぬ先輩兵士。ベトナムの前線まで出てきて前線基地から歩いて三歩くらいの位置のベトコン地雷で四散する恋人。あまりにも尺が足りてなさすぎるが「やりたかったであろうこと」はビンビンに伝わってくる。四散した恋人の肉片を先輩牧師が被るところなんかは明らかに他のシーンに比べて血糊のやる気が違う。というかほかのところもそんな絵具丸出しみたいな血糊やめてよ!
 ラストも、それまで属していた教会から追われながらもヒロインと二人ダークヒーローを続けていく主人公。など、映画見たりコミック読んだり夜、ベッドに入って天井見ながら想像している妄想巨編に出てきそうな要素がガンガンに盛り込まれている。
 面白いのは、ダグがキャロルの死に慟哭するシーンでビッグ・ニンジャのゴリアテがちらちら腕時計を気にしたり、ダグに襲い掛かるモブニンジャが瞬時に走馬灯と思考をレイザーにボール投げられた時のゴレイヌ張りに高速再生したり、ある種冷笑的とすら言えるカットを盛り込んでくる所だ。映画や創作ではお約束となるシーンや演出へツッコミを入れながら、決してお約束の様式美そのものをおざなりにしない。製作から恐竜神父に込められた映画そのものへの愛が過剰すぎるまでに伝わってくる。

 キャストの面々もメインヒロイン含む一部を除いて皆名演で、特にメインヴィランとなるウェイ・チャンを演じるヤン・ジーチャンは父性あるニンジャ・グランド・マスターとしての面、アメリカ裏社会に君臨するニンジャ組織の首魁、竜の戦士に対抗するニンジャと様々な面を持つキャラクターを説得力ばっちりに好演している。恐竜神父誕生のきっかけとなったフェルナンド・パチェコ・デ・カストロ演じるフランキーも憎らしく薄汚い小悪党を余すところなく表現しきっている。殺されるシーンではモチベーションの上がっていくダグと観客が完全にシンクロしていき、そして一線を越えた瞬間には引き戻される。この名シーンが成り立っているのはフランキーと演技によるところが大きいだろう。

  一方で恐竜神父その人はとんでもないサイコ野郎だ。一応神職の筈なのに殺人食人姦淫のコンボをがっつりキメてくるし、教義を再解釈しながら悪人や犯罪者を夜な夜な食い殺す恐竜神父生活を続ける様は、自己正当化しながら人を食い殺すモンスターにしか見えない。映画冒頭で反キリスト的内容につき成人指定とか、ラストにガンジーの非暴力の話を引用してくるあたり、意図的にサイコ恐竜モンスターにしているのだと思いたい。

 さて、そんなわけだから、改めて僕はこの映画が好きだ。子供のころのおもちゃ箱をひっくり返して、今の技術で組み立てて出来上がったような内容も好きだし、随所から伝わってくる映画への愛や、それに裏打ちされたツッコミありきのシニカルなギャグも僕の琴線に触れてくる。でも、人に勧められるかっていうと全然そんなことはないからね!



≪余談≫

好評につき続編製作決定!





あとこれはぼくの書いた恐竜神父(想像図)

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