見出し画像

感想 寂聴源氏物語  瀬戸内寂聴 色男に惚れてはいけない、それは不幸に続く道なのです。平安の色男の一生をわかりやすい言葉で、大切なところだけを取り出したまとめ本です。源氏物語は、この一冊でいいと思います。


大河ドラマ 光る君へ で注目の紫式部ですが、彼女の書いた源氏物語は「世界最古の長編小説」と呼ばれています。
本書は、瀬戸内版源氏物語計10冊を一冊にまとめたもので、その読みやすさ、魅力は他を圧倒しています。

以下の物語で構成されています。

桐壺   夕顔より 若紫より 紅葉賀より 花宴より  葵より 賢木より 須磨より 明石より 澪標より 薄雲より 蛍より  藤裏葉より 若菜 上より 若菜 下より 柏木より 御法 幻より 解説(高木和子) あらすじ 主要人物紹介 主要人物系図 


与謝野晶子や、谷崎潤一郎など有名作家が競って訳文を出している源氏物語ですが、この物語、原文に近いほど読みにくいと言われています。それ故、桐壺の話しを読んだだけでリタイアした人の多さは数知れず、という僕もその仲間なのですが、そんな僕でも唯一、最後まで読めたのが瀬戸内版源氏物語計10冊でした。その名場面だけが読めて、あらすじと解説で全体も把握できるというのが本書です。

瀬戸内寂聴さんの源氏物語は読みやすく面白いです。テンポもいいし、物語の中で多様される短歌の使い方がシンプルで、その歌を歌った人物の心情が読み手に溶けてくる形式が取られています。

改めて源氏物語を読んでみて感じたのは、平安時代の貴族は、とくに光る源氏は恋愛依存症ではないかということです。
まるで、アル中の患者が酒を求めるが如く、切れると手を出すという感じです。平気で二股もします。平成の時代に、こんなエネルギッシュな人たちはなかなか出会えません。その情念たるは岩をも突き通すのではという勢いです。

光源氏の妻の女三ノ宮という人がいますが、彼女をずっと柏木という貴族が恋していました。源氏には、紫の上という女性がおり、その人が重病になり女三ノ宮は遠ざけられます。これは若菜という話しに出てくるのですが、この柏木、どちらかというと嫌われていたのに、この女三ノ宮と一夜を過ごし、さらに子まで妊娠させます。その後、源氏にばれて、それで心痛から病気になり死にますが、この恋は生命がけなのです。こんな生命がけの恋に突撃できる人はなかなか最近ではお目にかかれません。

話しを源氏に戻しますが、彼は色男で数々の女性に恋をし捨ててきたのですが、一番不幸だった女性は六条御息所かと思えます。身分の高い彼女は気位も高かったようで、 葵より という話しの中で生霊として現れて正妻である左大臣の娘葵が妊娠すると嫉妬し、彼女を呪い殺してしまいました。

色男との恋は、不幸に続く道だと思います。そんな彼を独占できるわけがないのです。

光源氏の最愛の女性は、紫の上ですが、 若紫より のエピソードは強烈です。なんと彼女と源氏の出会った年齢は幼女時代なのです。恋愛が何かもわからない幼女の若紫を母親が死ぬと自分の家に連れ帰ってしまうのです。
幼女趣味としか思えない、この行為は、今だと逮捕されます。拉致監禁に近い所業です。

僕は、この瞬間感じました。
光源氏は、マザコンなのではないかと思ったのです。
というのも、この若紫、後の紫の上は、父である帝の愛する妃である藤壺の中宮の姪なのです。
さらに、衝撃の事実、この藤壺の中宮に源氏は憧れ恋慕し、彼女を妊娠させています。
父の妻をです。その子が、後の帝である冷泉天皇です。この重大な秘密は隠されてしまうのです。

桐壺の話しによると、父の帝は、源氏の母の桐壺をことのほか溺愛し、その死を悲しんだあまり、桐壺の若い頃に似ていた藤壺。つまり、後の藤壺中宮を妃として迎えたのです。

源氏の藤壺の妃への愛は、母への愛と言えると思います。源氏との子が出来てしまった藤壺中宮は源氏を遠ざけた。その身代わりが藤壺の姪の若紫という幼女でした。それは源氏が、ずっと母の面影を追い求めているということです。俗っぽい言葉で言うとマザコンです。

光源氏は恋愛依存症で、マザコンで誰にでも優しい人だと本書を読むとわかります。
でも、その見せかけの優しさが、女三ノ宮を潰し柏木を病没させたのかもしれない。
母に似た紫の上にしか興味はなかったのに上皇の娘である女三ノ宮を下賜され、丁寧に扱うしかなかった。それでも、紫の上が死にかけたとなると、そうもいかない。源氏は紫の上の看病につききっきりになる。その隙に付け入った柏木。その柏木も自分の不義密通がばれたのはわかっている。それなのに叱らない源氏。
この外面の良さが柏木を狂い死にさせたと思うのです。

本書を読んでいて、一番引き込まれたのは和歌の部分かと思います。
昔の人は、その時の気持ちを歌にし、相手に送ります。普通の手紙と違い、和歌を中に入れると、そこには付加価値が加わり、とても上質な思いがそこにあるように読み手には思えます。
ただの恋愛物語ではなく、物語の中に深みを感じるのは、その和歌の中に込められた感情なのだと思うのです。
その思いの伝え方は、とても上品であり、今の時代のようにラインスタンプを送付する、それとは雲泥の差があると感じました。





2024 1 31
+++++



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?