見出し画像

感想 リラの花咲くけものみち  藤岡 陽子 ひきこもりの少女が、祖母の庇護の下、獣医になっていく物語。獣医学校という特殊な世界が魅力的に描かれている。

僕は、中年の女性作家の描く作品があまり得意ではない。
理由は、ときどき描写や主人公の態度が感情過多になるからだ。

本書では、祖母の死の後の父とのやりとりに見られた。
過去に色んなことがあったにしても助けの手を差し伸べてきたのに、恨み言を言うのは違和感がある。
感情的過ぎるし、大人の態度じゃない。
そういうシーンが、この作品には多々あった。


主人公は、ひきもりだった女性である。
義母との関係が悪かった。母の死後、父は再婚し、義母に子が生まれると、彼女の母の匂いがする物たちが捨てられ、さらに犬までアレルギーだからという理由で捨てられかける。
学校に行っている間に犬が捨てられることを恐れた彼女は、ひきこもりになる。

これ変に思う。いくら何でも犬のためにひきこもりになるのか。
中学になつた時、祖母が訪ねてきて、悪臭漂い、中学なのに小学生の服を着ている孫を見て、すぐに自宅に引き取るのだが、この祖母の態度も感情的だ。

獣医の大学の寮で、同室の女性に嫌われる。部屋をかわりたいというのだ。
その理由は、彼女が隠していた箱の中身にあった。そこには、あの犬の骨があったのだ。それもケーキの箱に入れていた。
普通に考えて、犬の骨を持ち歩いている同室の女がいたら気味悪いと思う。

しかし、この同級生は、彼女の打ち明け話しに同情し親友となっていく。

実は、この物語、獣医になっていく少女の成長物語であるとともに、違う側面もある。
それは、この主人公の女性の神経質で感情的な側面を、反転させて武器にしている点にある。意図してそうしているのでなく、結果、そうなっているのだが、それがいい。

普通は、獣医なんだから、研修先で辛い動物の死とかに遭遇するのは当然なのに、逃亡し祖母のところに逃げたり。
好きな男の子に告白しようとしたら、先輩の女性とラブラブなのを見てしまい逃げて、雪にダイブし埋もれたりと、かなり奇行が目立つ。

犬の骨のこともそうだが、父との関係も感情的だ。この予測不能の反応が面白い。
普通なら、女性作家のこのような感情過多な表現はダメなのだが、この作品は、なぜかうまく転がっていて、災い転じて福となすという感じなので良い。だって、こんな不思議な反応をする主人公は珍しいんだもの。次は、どんな反応をするのかが読んでいるうちに楽しくなってきた。

残念なのは、、後半のくだくだだ。無難にまとめようと必死過ぎてダメだ。面白くない。
いっそ、祖母の死と父に対する悪態を述べたところ。あの終盤の盛り上がったところで終わりにしたほうが良かったのかもしれない。

それでも、私は一人で生きていく、獣医になりたくさんの動物を助けるとかのたまい、父に永遠のさよならを宣言するなんてインパクトの強いラストも悪くない。祖母の遺灰を投げつけるのも彼女ぽくていいかもしれない。


2024 2 21
++++


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?