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感想 シンセミア上下  阿部 和重 こんな下品で暴力的な小説なのに、気がつくとむさぶるように読んでいた。何なんだ、この衝撃!!。


ここ最近読んだ下品小説の中で一番のインパクトだったのが本書です。
女性には推奨できません。トラウマになりかねません。
僕ですら読んでいる途中に挫折しかけた。
だが、気がつくと12時間ぶっ通しで上下巻一気読みしていた。

これは毒です。
身体や精神に好影響などを微塵ももたらさない小説です。
ただ、ただ、嫌悪と吐き気と理不尽がのしかかってくるだけなのです。

群像劇というスタイルをとっているため、登場人物がたくさん出てきて、最初はかなり混乱します。
でも、だんだん、盗撮サークルのボスの松尾と、そこから抜けたパン屋の倅と、少女趣味の変態警官の三人に話しは集約されていくのがわかります。そこから物語は楽しくなっていきます。

本書の舞台は神町です。
神町の現在と過去が語られており、その過去は敗戦直後の黒歴史をも連想させる陰鬱な出来事と繋がっていて、それは、この物語の実は背骨部分にもなっていたのです。

三つの事件が発生する
高校教諭の自殺
自動車整備工の事故死
農家の年寄りの行方不明
最後には、この三つの事件が町にどのように関係しているかというミステリー的な要素もわかります。

本書はエンタメ小説であり、破廉恥な話しなのです。少女たちは、戦後のパンパンみたいに性交にふけり、青年団の奴らは盗撮のサークルを作って変態的な監視活動をしています。人妻はドラッグ三昧だし、警官は幼児性愛者の変態、年寄りはUFOを信仰している。全員が異常な町なのです。

本書の優れた点は、たくさんの登場人物、数々のエピソードが、まるで水まきのように散布されているのですが、最終的には、あの三つの事件の真相が明らかになり、それでいて、過去の因縁というオチを落とし込み見事に完結している点にあります。

まず、この小説の破廉恥さを示そう
松尾という盗撮サークルのボスがいる。町全体を監視し盗撮しようと提案するが、パン屋のように妻や高校生の妹がいる人間からは抵抗を受ける。すると松尾は、母や祖母の撮影をし、その陰部映像をみんなに見せようとするのだ。この発想が、もう、やばい。俺には隠すべきものはないというのだ。いや、違うよ。それを見せられた人が困るよ。
パン屋の親友の警官は幼児性愛者なのですが、恋人である少女のはいてたパンティを奪い取り、それを頭からかぶり友達と電話するという変態
こういう読むに耐えない変態だよなという場面が多々出てきます。

激しい性描写を書くという点では、花村萬月さんや中上健次さんなどがいますが、本書はそういうのとは違い汚描写なのです。吐き気が出るような変態性を露わにしていて、この作者、これは絶対にド変態に違いないと僕は思いました。

ちなみに、本書の作者の妻は、作家の川上未映子さんです


吐き気がするほど強烈な嫌悪感がある文章にも関わらず、面白い続きが読みたいとなったのは、その予想もできないストーリー展開にあったと思う。
本来、主人公のはずである松尾は、女性の入浴を覗いている最中にバレて殺害されるし、パン屋も全体の探偵役として、松尾の愛人である変態女教師を追い詰め、これで濡れぎぬを晴らせるという寸前で女教師に殺害されるし、変態警官も事件解決に繋がりそうな動きをしてたのに、目をつけていた少女が怪我をしているのを見つけ父の虐待とカン違いし父親に暴力、その果てに汚職警官の上司を脅し罪を逃れようとするのだが殺害される、最後の日に人が大量に死にます。それも事件を追っている人、関係者ばかりがです。

なんだコレという怒涛の展開の末に、大団円というのか、強引に結末と謎解きというのか真相が提示されて終わります。力業というのか、計算ずくというのか、とにかく凄いとしか言いようがない。

印象としては、全体の一割の描写が変態内容だったという感じです。
しかし、よくわからんが面白かった。

2024 3 11



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