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食とエンタメからアメリカで成功する日韓の違いを考察

2020年はパンデミックによって目立った注目作がなかった映画業界。ハリウッドの特にインディペンデント映画は完全に停滞中だ。仮に低予算作品で撮影中に感染が広がってしまうと、現場の責任を負うプロデューサーの金銭的リスクが大きすぎるというのが理由のひとつであるらしい。

そんな中でもアカデミーのロビー活動は着実に進行中のようだ。昨年のサンダンスでグランプリを獲得したMinariの評価は、アカデミーも確実ではという噂をずっと耳にしていた。12月にアメリカで限定公開したようだが、おそらくアカデミー規定の最低限の劇場公開をクリアするための施策だろう。現在はロサンゼルスのいたるところでアカデミー選考を意識した試写会をしている。

Minariはアメリカ移民となった韓国人家族のお話。5年前だったらこういった内容の作品がアカデミーの本選に入る可能性はなかっただろう。メインキャストがアジア人のみのロマンスコメディ「クレイジーリッチ」の大ヒット、続いて超低予算ながら話題をさらったアジア人主演のスリラー作品「search/サーチ」によってハリウッドでは確実に何かが変化していった。その流れは昨年のアカデミー作品賞を獲得した「パラサイト」への追い風にもなっていることは疑いがない。

エンターテイメントコンテンツにおける韓国の強さはもはや世界が知るところだが、韓国人映画監督の夫とLAに住んでいる日本人の私が感じた、日韓の違いを食とエンタメを通して考察したいと思う。

食ブランディングに強い日本人の気質

Japanese FoodもKorean Foodもアメリカでポピュラーだが、大きな違いは日本料理はSushi、Wagyuに代表されるように確立されたブランド力がある。RamenやMatcha(抹茶)も大人気だ。日本レストラン=高級、ヘルシーというイメージも強い。

一方韓国料理はポピュラーでありながらもブランド力となるとほとんどないのではないか。韓国料理には私たちに馴染みが深いキムチやビビンパ、チゲ等だけでなく沢山の種類がありどれも素晴らしく美味しいが、Korean Foodという括り以外では知名度はほどんどない。

海外に行くとチャイナタウンやコリアンタウンは大きくジャパニーズタウンは比較的小さい。これは移民の数の違いだけではなく国民性の違いであるとも思う。異国の地で同胞が寄り集まって協力しながら生きていく意識が韓国と日本では大きく違うように感じる。LAでも韓国レストランは主にコリアンタウンに密集しており、その街に多くの人が集まってきて全体で共生していくような雰囲気がある。日本レストランは大通りなどに単独で店を構え勝負するような傾向がある。そこで生き残るためには、クオリティはもちろんブランド力やマーケティング力も必要だろう。

この気質の違いが、日韓ともに海外での食ビジネスに与えている影響は少なくないと思う。

エンタメに強い韓国人の気質

韓国人の同胞意識は日本人のそれよりも非常に強く、誰かの成功はみんなの成功という力になりやすいと感じる。そのエピソードを2つあげてみる。LAのあるレストランで食事をしているとき見た目は欧米人に見える若いウェイターの男の子が突然韓国語で「韓国の方ですか?ボクも韓国の血が入っています」と話しかけてきた。英語のフランクな話し方から韓国語の上下関係がはっきりした敬語使いに変わって驚いた。自分のルーツでもある韓国人が来てくれて嬉しいと言っていた。こういったことは日常茶飯事でLAで韓国人もしくは移民子孫のコリアンアメリカンに出会うと夫が韓国人というだけで打ち解ける速度が全く違う。一方で日本人同士が出会っても日本人というだけでもう仲間だ、のような意識をお互いが向けることはほとんどないと思う。できれば日本人にはあまり会いたくないという意見もよく聞く。

「クレイジーリッチ」が製作されているときからハリウッドの東アジア系移民は大盛り上がりだった。身近の韓中の移民子孫の知人たちは仲間に声を掛け合い、大勢で何度も劇場に行き作品を応援していた。このときの彼らから感じたものは、自分のルーツがどの国かよりも「我らアジア人」という意識となって作品を応援していたことだ。そこに日本人が参加している気配はほとんど感じなかった。

このように韓国の同胞意識が生み出すパワーは、圧倒的な数の力が必要なエンターテイメントでの成功に少なからず関係しているはずだ。韓国の大手エンターテイメント企業のLA支社長の話を聞いていても、自分たちの企業の成功だけではなく「韓国人」の成功を見据えた価値観を当たり前に持っている。アカデミー賞獲得には作品性だけではなく大きなロビー活動、PR活動が必須であり「パラサイト」の成功には韓国の同胞パワーも大きく寄与している。「万引き家族」もパラサイト同様にカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得してからアメリカへ上陸したが、結果に大きな差が出たのはその作品性の違いだけではないと思う。

日本がエンタメでもアメリカで成功するために

食の世界では先に述べたように、日本のブランド力は圧倒的である。一匹狼的に乗り込んでも現地に受け入れられる味とマーケティング力があれば世界中のセレブリティが憧れる店にすることも不可能ではない。ノザワカズノリ氏がプロデュースする海苔巻きだけのカウンターレトランがLAとNYに数店舗あるが、高価格にも関わらずコロナ前は順番待ちの若者で溢れかえっていた。国をあげて日本食の普及とブランディングに力を注いだ結果というよりも、日本食で世界を開拓してきた個々人の偉業が日本食文化自体のブンディングに貢献してきた、と言えるのではないかと思う。

LAで和菓子ブランドをローンチし瞬く間に話題となりキム・ガーダシアンとのコラボや映画スタジオドリームワークス本社での販売も実現した日本人女性もいる。

ハリウッドでも多くの日本人プロフェッショナルが活躍しているはずだが、彼らのほとんどは単独で勝負しているので、どこで日本人が活躍しているのかも簡単には見えてこない。成功を掴んでもそれは本人の成功であり日本の映画・エンタメ業界全体が押し上がるような現象は起きない。本人が努力した結果であるので当然ではあるのだが、逆を言えば海外進出への一番の近道は本人が努力すること、というのが現在の日本エンターテイメント国力の実情だろう。

ハリウッドで実写化が決まった「君の名は」は先に紹介したMinariのリー・アイザック・チョン氏が監督することが決まっている。日本原作のハリウッド進出はめざましく喜ばしいことではあるが、それがアメリカにおいて日本エンターテイメント全体の押し上げになっている肌感はない。

世界中に愛されている映画のインスピレーションが日本コンテンツにあったという作品も枚挙にいとまがなく、エンターテイメントでもアメリカで成功する実力は十分あるはずだ。そのためには日本食の成功体験とは違うアプローチが必要であり、その一つが国を上げたバックアップだが日本はその点がまだまだ弱い。単に予算の大小だけではなく、手法から考える必要があるだろう。

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