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7.一番いいところで、湯たんぽかよ!

ばあちゃんが最初の脳梗塞で倒れて、リハビリ施設から戻ってきた年の瀬。
私はほとんどばあちゃんの見守り介護で、夜はいつもばあちゃん宅に泊まっていました。
泊まることについては特に問題なかったけれど、ちょうどその時期はフィギュアスケートの各種大会がテレビ放映される季節。
浅田真央さんや髙橋大輔さんのファンである私は、どうしてもフィギュアスケートをテレビ観戦したくて、家で録画予約はしといたものの、やはりリアルタイムで観たくて、ばあちゃんにお伺いを立ててみました。

「ばあちゃん、今晩、フィギュアスケート観たいんだけど…」

ばあちゃんは、ひとつ返事で快諾。

「いいよ、おばあちゃんもスケート好きだから一緒に観よう」

そう言ってくれました。
あの頃は、家でお風呂も入れたし、トイレも一人で行けていたし、寝るのも21〜22時の間ぐらい。
私はただ単に一緒にいるだけ見守るだけって感じでした。

ばあちゃん仕様の早めの夕ご飯を一緒に食べ、とりあえず洗い物を終えて、2人でこたつに入ってテレビを観始めたまではよかったのですが!

フィギュアスケートをお好きな方ならおわかりかと思いますが、トリノオリンピックで荒川静香さんが金メダル獲得されて、浅田真央さんたちが脚光を浴びて、有能な選手がどんどん出てきて爆発的な人気スポーツとなったフィギュアスケート。
有能な日本人選手が多いということは、必然的に日本人の登場は後半になっていきます。
当然のことながら、ばあちゃんはだんだん疲れて眠くなる時間帯に突入していきます。

推し選手がいる訳でもないばあちゃんにとって、テレビでフィギュアスケートを観ることは、推しがいる私ほど重要課題ではありません。
ですから、【見守り介護】という任務を忘れて、画面に釘付けの私に向かって、この一言が出ました。

「あのさ、寝るまでに布団あったかくしたいから、今から湯たんぽ作ってくれや」

本当に何気なく頼んだのか、自分そっちのけでスケートに夢中な孫にイラついたのか、もう本人がいないのでわかりません。
しかし、その一言に私はムカッときて大声を上げました。

「なんで!なんで今言うん!今から日本人の選手が滑るってんに、なんで今、湯たんぽ作れっていうん!」

大声過ぎたのか、耳の遠いばあちゃんもビクッと飛び上がりました。
そして、しばらくの沈黙した後、消えるような小さな声で言いました。

「…おばあちゃんな、もう寝る」

「なんで寝るん!これから浅田真央ちゃんが出るんに!ばあちゃん、スケート好きって言ったが!」

「はー、いい。寝る…」

もそもそと立ち上がって部屋を去ろうとしたので、結局、大慌てで湯たんぽを作って、布団の中に入れてあげました。
その後、浅田真央さんの演技までに間に合ったかどうかといえは、どうせ私のことだから無理矢理間に合わせて観たと思いますが、記憶が定かではありません。

あの、私の大声にビクッとした時のばあちゃんの顔は覚えてるのに。

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