"Il paesaggio che c'è gatto ~猫のいる風景~ Scena 7 ”Tabacco non si addice ad un gatto.(猫にタバコは似合わない)"
深夜。
寝付けないまま夜を過ごしていた私は、無性にタバコを吸いたくなってベッドを抜け出すと、眠くないというのに出てくるあくびを噛み殺しながらキッチンに入って換気扇のスイッチを入れ、換気扇の羽がぶうん、と動き出すのを確認してから、炊飯器のランプの明かりを頼りに革製のタバコケースを手に取って、中からセーラムを一本取り出し、ケースに入っていた百円ライターで火をつける。
――と。
ライターの火に照らされたキッチンの向こう側。ダイニングテーブルの上で、ケインズがじっとこちらを見つめているのが見えた。
ライターの火が消えた後も、オリエンタル特有のその切れ長の目はキラリと、まっすぐに私を見ているのがわかる。
「ケインズ、どうかした?」
私は換気扇に向けて煙をふう、と吐き出してからそう尋ねたけど、当然のように返事はない。
夜目が利くようになってかぼんやりと見え始めたダイニングの、その大半を占めているテーブルの中央で、その細くてしなやかな前脚をピン、と伸ばしながらお座りしている彼は、いつものように無言のまま私を見つめている。
そう、いつものように。
「……あなたまで責めるの、私を」
思わず口から洩れた私のいらだつような声に、私の中にくすぶっていた何かがざわめく。
「仕方なかったじゃない。あの人しか私を見てくれてなかったんだもの」
続けて漏れた自分の言葉が情けないくらいむなしくて、でもそれを認めたくなくて言葉を重ねる。
「わかってる。後悔だってしてる」
ならどうすればよかったの、とか、誘ってきたあの人が一番悪いんじゃないの、とか、私の中でくすぶり続けている言葉があふれそうになったけど、もうすべて意味のない戯言でしかないこともわかっている。
すっかり消えてしまっていたセーラムを灰皿に押し付けながら、もう一度ケインズへと目を向けるると、ケインズはもうそこにはいなくて、何もないダイニングテーブルだけが残されていた。
Muturo Narazaki PRESENTS
"Il paesaggio che c'è gatto ~猫のいる風景~
Scena 7
”Tabacco non si addice ad un gatto.(猫にタバコは似合わない)"
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