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怖いもの知らずの19歳がはじめて一人旅をした話

ホストファミリーの家に足を踏み入れた時のことは、今でもよく覚えている。ぽっちゃりしてるけど笑顔がチャーミングなお父さん、明るくてしっかり者のお母さん、お父さんと笑顔のよく似たおばあちゃんが大歓迎してくれて、送ってくれたコーディネーターのおばさんとフィリピンの家庭料理を食べた。バナナの煮物ははじめてだったが、私はバナナが嫌いなためろくに食べなかった。彼らはフィリピン系アメリカ人だった。


一人でアメリカに行くきっかけは、なんとも適当で、「ただの好奇心」からだった。

大学1年生、秋。国際科という学科に所属していた私のまわりでは、短期留学に行く友人がどんどん現れていた。もちろん、大学から公式に海外の大学へ派遣する留学制度もあったが、それに合格するには優秀な成績をおさめ、教授の推薦状をとり、もろもろ準備が必要になる。そんな煩雑な手続きをカットして、1か月~6か月の短期留学をするのが学科の中では流行っていた。

で、私も多分に漏れず、短期で海外経験を積んでみたいと思った。

私は捻くれた奴なので、「短期の語学留学とか遊びでしょ遊び。私は語学学校に通うんじゃなくて、インターンする!実務経験積んでやる!」と非常に短絡的にインターンという選択肢を選んだ。

「海外 短期インターン」とかで検索して上の方に出てきたエージェントを適当に選んで適当に申込み、適当に期限を決め(安いから1か月にした)、適当に国を選んで(欧米の中で一番安いロサンゼルスにした)、とにかくまあとんでもなく軽い気持ちで一人海外の土を踏んだのである。

海外は高校時代に1回行ったことはあったが、一人で飛行機に乗るのも、海外に行くのも初めてだった。不安でたまらない、英語もままならない私をホストファミリーは温かく迎えてくれて、肩の荷が下りたのを覚えている。

インターンは楽しかった。1か月という短期なので、大きなプロジェクトは任せられなかったが、それなりに楽しく働いた。というか、19歳の私は完全に遊び感覚でインターンに臨んでいた。


というわけで、インターンではたいした学びを得なかった私だったが、日常生活ではいろいろな学びがあった。

2月のロサンゼルスの夜は寒くて、持ってきたトレンチコートがまったく役に立たないこと(見かねたホストマザーがあったかいコートを貸してくれた)。嗅いだことのない臭いがすると思ったら、それは大麻の臭いだということ。アメリカ人は毎週日曜に教会に行くこと(ホストファーザーは牧師さんだったので、なおさらだ)。教会ではバンド演奏で神をたたえる歌を歌っていて、そういうのもアリなんだということ。ロサンゼルスにはいろんな人種がいて、親切な人もそうでない人もいる。

実際に行ってみなければ、それらはすべて知ることができなかった。

失敗もたくさんした。

バスに乗るのもおぼつかない。「Passport」の発音がなかなか通じなかった。トイレを探して見知らぬ建物に入ったら、中から扉を開けれなくなって知らないおじさんに助けてもらった。

これらも全部、私のかけがえのない学びだ。


英語もスキルもまったくつかない1か月だったが、この経験は私の世界を確実に広げてくれた。私のあたりまえは、みんなのあたりまえじゃないんだ。文字にすれば「そりゃそうでしょ」と言われそうだが、私はこの言葉を身をもって実感できたのだ。

時々、「〇〇人ってこうなんでしょう?」とか「海外ってこうなんでしょう?」という声を聞く。そういう人はたいてい、その国・地域にいったことのない人だったりする。そこの人とコミュニケーションしたことなかったりする。

私は、自分でたしかめるまではそういうレッテルは信じこまないようにしたい。実際は、いつの間にかレッテルを貼っていることがたくさんあって、なかなか難しいのだけれど。

どうせこの人は…、どうせこの場所は…とレッテルを貼りたくなった時に、この記事に戻ってきて、「自分の目でたしかめる」んじゃなかったっけ?って、自分に待ったをかけよう。


自分への戒めと、あの時の学びを思い出すために。



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