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道ばたで「今日帰る場所がわからない」と言われて、「警察に行きますか?」と言ってしまった

私は自転車に乗っていた。
車椅子に乗っている方が車椅子の後ろにある荷物を取ろうと格闘されているようだった。
勢いで通り過ぎてしまったから、自転車を歩道の端に止めて戻ろうとした。

そのときに、ふと目があった人がいた。
「こんにちは」と言われた。
うん、絡まれそう、、?と一瞬思ったが、そうではなさそうだった。

「こんにちは」と返した。
自転車を止めるのは躊躇されて、自転車に乗ったままそこに留まった。

「こんにちは」とまた言われた。
「こんにちは」とまた返した。

その人はさっきと逆方向に進もうとした。
背負っていたリュックにヘルプマークが見えた。

私はそこに留まっていた。
その人はまた逆方向に、もとと同じ方に進もうとした。

「今日帰る場所がわからない」と言った。

私は咄嗟に「あ、わからないですか。警察行きますか?」と返した。
返してしまった。

きっと私がいきなりその人の歩む道に現れて、目が合ってしまって、普通じゃないことがおきて、混乱されただけではないかと思う。

にもかかわらず、「警察」なんて言葉を私は発した。
「警察は?」とは暴力的だし、
一市民としての意識がかけらもなく、困ったら警察へとかいうくそみたいな思考がそこにあらわれていた。
あー、私はこんなこともできないのか、そんなくそみたいなことを言うのかと思った。

わからないんですね、と受けとめる言葉を出す。
どこからいらっしゃったんですか、と記憶を一緒にたどる。
一緒に考えませんか、と寄り添いたいと意思表明してみる。
お名前は?、とまずはコミュニケーションを始めてみる。

もっと適当で正しい反応があっただろう、と思う。

その人は「思い出した」「わかる」と言って、
もとの道を辿り始めた。

私は背中を見送ることしかできなかった。
さっきの車椅子の方はとっくに荷物を取り出して、前に進み始めていた。

私もひととして前に進まねばならん。



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