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[ちぐはぐ!?おかしなお菓子教室]で沼のなんたるかを知った

がんばり屋の女とストイックな女が互いに親近感を抱き、傷を舐めあい、惹かれ合う関係性が生まれる瞬間を目の当たりにした時、沼の真理を見た。


沼の入り口

[ちぐはぐ!?おかしなお菓子教室]とはBanG Dream!ガールズバンドパーティに存在するイベントである。私は令和にあってSwitch版からバントリというコンテンツに触れた人間であるが、風の噂でこのイベント、ひいては[さよつぐ]という深く深い沼があるということだけは知っていた。事実このイベントを読み終えた際、その沼の本質を知った。これは確かに化け物イベントだと。
ちなみにSwitch勢なのでシーズン2以降の供給については語る術を持たない。あくまでも[ちぐはぐ!?おかしなお菓子教室]だけの話である。

ある程度は事前情報がある前提で話を進めるが、大まかな説明をする。
この話のメインの登場人物は二人。羽沢つぐみと氷川紗夜。前者はがんばり屋で、後者は努力家でストイックである。今まであまり関わりのなかった二人だが、二人はお菓子教室でのクッキー作りという作業における関わりの中で互いに親近感を覚え、仲良くなっていく。本人にとってはコンプレックスである部分を相手が肯定してくれる。そんな関係性がお互いにとって心地よくこれからも仲良くしたいなと感じる、といったのが大まかなストーリーである。


二人の関係性

重要なところはこの二人はお互いに努力家で似た者同士であり、それに少しづつ気付き、徐々に親近感を覚えて仲良くなっていくというところである。更に核となるのは、お互いに自己肯定感が低い。自己肯定感が低いから人より努力をしている二人なのだというところ。
先ほどこの二人の説明で言葉を変えたことについてだが、あえて紗夜の方にはキツめの表現を使った。がんばり屋とストイック、この二つの表現に何が違うのかというとその答えは属性である。
前者はポジティブで後者はネガティブ、もっと言えば光と闇である。本質的な意味合いとしては同じものを持っているのだ。が、この二人は似た者同士でありながら、光と闇の対照的な性格なのである。だからこそこの二人は惹かれ合うのである。
似た者同士であるのに裏表。尊敬できるのに親近感を持つ。親近感を覚えるが相手のことをすごいと思えるように自分のことをすごいとは思えない。ではなぜ親近感を覚えるというかと、同じ心の闇があるからだ。同じ闇を持っているからそこへ親近感を覚える。

この二人の関係性において、その果てになにがあるかではなく今ここになにがあるかを重要視しているかのように受け取れる。特に紗夜に関してはRoseliaという居場所、あるいは日菜の隣という居場所においては前者を重視している。だがつぐみとの間に置いて、少なくともこのイベント間において重要視されているのは後者である。この関係性のその果てに何があるのかがまるで見えないのだ、この二人においては。

互いにとっての大切な居場所


お互いにとっての一番の居場所は別にあるがお互いにとって絶対的唯一無二の居場所はここにある。どちらかが成長してしまえばこの均衡は崩れるしどちらも成長していけば今この瞬間の関係ではなくなってしまう。そしてお互いにこのまま変わらなければ、成長しなければ各々のバンドという居場所はなくなるであろう。あまりにも刹那的にして破滅的すぎる関係性。相手のコンプレックスを肯定することがひいては自身の肯定に繋がっているのではないかと思えるほど似た者同士のやり取り。これを敢えて傷の舐め合いと呼びたくなる。それほどまでにこの話は圧倒的に陰鬱なのだ。ストーリーの雰囲気も明るく、暗い展開もないのだが本質的に退廃的なのだ。ものすごく後ろ向きに明るい二人である。だからこそ沼という存在を感じられた。この遠い未来、あるいはすぐにでも崩れさりそうな脆い心の闇で繋がった二人の関係性が美しい、ここにこそ沼の本質があると感じた。

沼の底

このイベントストーリーは読んだ時点では圧倒的に他のイベントストーリーと比べて異色だった。同時にだからこその唯一無二なのだと。少ない供給で深い沼へ落とす、匠の業を感じた。少なくともバンドリというコンテンツの性質上、このイベントのような前向きな暗さを感じられるものは貴重であろう。

質が良く、供給の少ないものこそ人を堕とす沼として良質なものだと私は考える。

[ちぐはぐ!?おかしなお菓子教室]にはそのなんたるかが存分に詰まっている。決して手放しで人へ勧められるような明るく前向きなものでないが、その背徳感もまた甘美なものなのである。

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