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【完結】攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

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【9月度月間小説】 2023年9月10日〜執筆投稿開始。2023年9月30日完結 全28話 ジャンル:ファンタジー 勝手なテーマソング:カルマの坂、悪霊少女、証言(いずれもポルノ… もっと読む
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最終話 攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

最終話 攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

エレナは女王を一年務め退位した。
次の王は港町のハイドランドの町長だった男が選ばれた。
エレナの築いた土台の上で、政策も草案として残していたものを上手く活用してくれてる。
俺達はというと、旅に出た。
これはエレナたっての希望だ。
王を務めた褒賞金でそう不自由なく生活できるが、一つの場所に留まるのは嫌だとのことだ。
そして、アルマの娘であるカレンも旅に同行させた。
王宮での給仕はほとんど必要なくなっ

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㉖攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉖攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

「ええい!」

リュカの跳び蹴りがミモザに炸裂し、ミモザは壁際まで吹き飛ばされていた。
それを見たジェフは俺とリュカにも動かないよう指示をする。

「竜人族の娘か。だが何の解決にもなっておらん」

ジェフに囚われたエリー。身動きの取れない俺達は、為す術がなかった。
いや違う。何か考えろ。動けなくても頭は動かせるじゃないか。
ここまで来て、こんな最後はない。王都へ来てまで結局エリーを守れなければ、俺

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㉕攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉕攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

全員でリュカの背中に乗り、一気に王都を目指す。

「た、高い……」

ミモザは意外にも高いところが苦手なようだ。
そのせいか、ずっと俺の腕にしがみついてる。

「しばらくの辛抱だから、我慢して」

「で、でも……」

下を見て慄くミモザはいっそ強くは俺の腕を抱きついた。
王都が見えてくると、その傍に着陸し、そこからは徒歩で向かうことになった。
入口付近に近付くと、以前に来たときと同じ衛兵がいた。

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㉔攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉔攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

リュカは瓦礫のそばに降り立つ。

「皆さん、無事なのでしょうか」

「とにかく手分けして生存者確認だ」

俺達は別々の方へ走り出した。
俺は荷馬車であっただろうところを隈なく探す。
転がっている車輪と放たれた馬車馬。どうやら怪我はしていないみたいだ。
盗賊の仕業だとしても、派手にやりすぎではないかと疑う。
とにかくこちらに人影はなく、他の者と合流しようとする。

「ん? 生き残りか?」

煽り成分

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㉓攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉓攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

朝目覚めると、何故かエリーは俺のベッドに潜り込んでいた。
そう言えばアリンガムのアルマのところの宿では一緒のベッドで眠ったなと思い出していた。
それよりも、何故こっちのベッドにいるのかが先に気になった。
俺はエリーに背を向けているが、その背後に同じ向きにエリーが眠っている。
寝息を後ろの首筋から肩にかけて感じてる。
外は新しい日が射しているというのに、俺は昨日の続きのような気がしていた。
眠気とい

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㉒攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉒攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

「ルカ、少しいいか?」

「なんですか? ってめちゃくちゃ酒臭い……」

酔っ払ったルシアは千鳥足で部屋に入ってくる。
恐らく風呂上がりに一杯ひっかけたのだろう。
俺に近づいてくると、つまづいて俺を押し倒すようにベッドに伏せった。

「んん……」

「ね、寝てる」

寝息が首筋に当たるたびに、腹の底が騒ついていた。
そして間が悪いことに、またもノック音が部屋にこだまする。

「失礼致します。そのお

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㉑-②攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉑-②攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

リュカの腕が、腹の底まで抉ったような感覚だった。
自分の体がまるで、二つに分かれたような衝撃だった。
だが、何故か生きている。エリーが気を失っている。ルシアが腕を抑えている。
俺はリュカの背に乗りどこかへ連れて行かれている。
どこに向かうんだ?
俺はエリーと一緒に王都へ向かわなかればいけないんだ。離してくれ、降ろしてくれ。

「……!」

ベッドの上。よくもまあ、何度も目覚めたらベッドの上というこ

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㉑攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

㉑攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

その凄惨な様子がそうさせていた。
腹にぱっくり開いた傷。生きているのが不思議なくらいだ。
目を逸らしたくなるその光景を、私はそうすることなく、ジッと涙を流しながら見つめていた。

「エリー!ちょっと来てくれ!」

ルシアが私を呼ぶ。
ルカのそばに行くと、ルカは意識はなく、生きているのが本当に不思議な状態だった。

「正直外から施せることは全部やった。あとは内から治すしかない」

「どうすれば……」

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⑳攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑳攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

ルシアの提案は飲めない。
さらに過去に戻ってどうするというのだ。
そもそもの生まれの根幹を変えてしまうと、ルシアの存在すら危うい。ましてや、私やルカもどうなるかわからない。

「無論、無謀ではある。そもそも今のこの世界に与える影響を考えれば、到底実行しようとは思わない」

「ではどうしますか?」

「ルカを助けに行く」

「どうやって?」

「とっておきだ」

ルシアはそう言うと私の手を取り、魔力

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⑲攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑲攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

「まあ、どうであれ次は王都だ。あと二日ボスウェルにいるが、そっからは直行する予定だ」

ジェフはそういうと、無駄にルカの髪をぐしゃぐしゃにした。

「全く、ここまで面倒だとは思ってなかったぞ」

ジェフは露店の開店準備に向かい、ミモザもそれを手伝いに行った。

「まあ、デイビッドの倅が生きておったのは驚きじゃ。して、当のデイビッドはどうしておる」

ウィルにデイビッドのことを伝えるルカ、そうか、私

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⑱攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑱攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

慌てて外へ出てみると、広場には人集りができており、その円状になった人の塊の真ん中でからその音は聞こえていた。
男達の野太い声に、女達の甲高い声が入り混じり、耳が痛くなりそうだった。

「あれは……」

音のする方を見てルカはそう言った。
甲冑姿の二人が剣を交えている。
一人は老練の騎士と言ったところか、白髪混じりの髭を蓄えている。
もう一人は若い騎士。精悍な顔つきの男前と言われる部類の騎士。
その

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⑰攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑰攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

「どうした? そんな鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして」

そこにいるルシアに疑問しかない。
私もルカも、彼女が消えた瞬間は目にしている。私の中に溶け込んだような現象だって、事実私が感じた違和感もあり認められている。
もしかしたらルカに何かしら危機が迫っているのか?

「ああ、私が現れた理由が知りたいのだろう今回は色々あってな。あ、もちろんルカは無事だ。ただ……」

「ただ、何ですか?」

「未来

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⑯攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑯攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

数日間、私とルカでジェフの身辺警護を担当した。
特にゴロツキなどは近寄ることなく、平和な日々だった。
私が店頭に立つことで、集客率が上がるからと、ジェフは私を店先に立たせていた。
ルカは裏でつまらなさそうに木箱に座り、ボーッと空を眺めていた。
この平和な時間が、ここ暫くの張り詰めた気分を和らげてくれる。
が、そう思ったのも束の間。
ボスウェルの街に滞在してかれこれ五日目。
夕食を終えて酒場に飲みに

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⑮攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

⑮攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

朝、目が覚めると少しスッキリした気分だった。
まだ気持ち良さそうに眠るミモザを置いて、私は部屋を出た。
一つ二つ伸びをして、深く呼吸をする。
そうして脳に酸素を、魔導石に魔力を送り込み、目を覚ますのだ。
窓の外には朝日が見える。
空はスッキリと晴れ渡っている。まるで絵の具のような青さと、少しだけ浮かんでいる真っ白な雲のコントラストが清々しい。

「あ、おはよう」

ルカが食堂のテーブルでコーヒーを

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