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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(13)

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〈13〉私は私とはぐれるわけにはいかないから

食べ始めると、終わりが訪れるのは必然だが、私は刹那の如く食べ終えてしまった。
理由としては美味しすぎたから。
カツオのたたきサラダは、大根と玉ねぎにレタス、そこにポン酢をかけるだけのシンプルなもの。
メインの豚の生姜焼きは甘辛いタレがご飯と合う。
少しマヨネーズと一味唐辛子をかけての味変も絶品だった。
そして味噌汁に素麺が入ってた所謂煮麺というものを初めて食べた。
九州ではよくされるようだが、私は食べたことがない。
玖美子さんは最近、九州の料理にハマってるらしく、醤油もわざわざネットで九州の甘い醤油をかっているらしい。

「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした。食べるの早いのね」

「あー、現場で合間に食べたりする癖がついてるんで……」

「すごい、芸能人みたいなこと言ってる!」

「まあ一応、元芸能人ですから……」

「そうよ清隆。でも不思議ね。あのテレビで見てたひなちゃんが一緒の食卓囲っているのって」

玖美子さんは目を輝かせながら言う。
そして、私は食器を流し台へ持っていった。

「そもそも割と近所に住んでたのが驚き」

「まあ遠い昔に美夜子と遊んだことあるんですけどね。あの大きい猫の滑り台のある公園で……」

「思い出した!あの転がり落ちて大怪我した子でしょ?」

「あ、そうです」

玖美子さんはそれを鮮明に覚えていたらしく、美夜子に友達ができたことを喜んでいたらしいが、それ以降公園に来ることもなくなり、名前も聞きそびれていたから酷くざんねんだったらしい。

「それこそ運命の赤い糸なんじゃない?」

「ですかね……あの時美夜子のこと、男の子って思ってましたし」

美夜子は淡々と食事を摂っており、相変わらず、所作が美しい。

「お母さんの具合はどうなの?」

「だいぶ良くなってきました。週明けには退院かなって感じです」

「そう、大変だったわね」

「まあ、色々あったんで、なんというか……私のせいでもあるから」

「陽菜ちゃんのせい?」

「いや……その、言いづらいんですけど……入院の原因は自殺未遂だったんです。その原因が私というか……家族関係の拗れみたいな……」

「そう……色々あるのはわかるけど、自分のせいだって分かっただけでもいいじゃない。改善することができるから」

「でも、私だけの責任でもないんですよね……父の不倫とか」

私は口を滑らせたことにハッとした。
それを聞いた玖美子さんは少し驚いていた。

「それはお母さんも、たまったものではないわね。でも、それがなんで陽菜ちゃんの責任になるの?」

「不倫相手、私に付いていてくれてたマネージャーさんなんです……。だから、ずっと私が芸能界に入りたいだなんて言わなければ、こうはならなかったんじゃないかって思って」

「そんなことは絶対ないと思う。そんなの結果論じゃない」

「同じことを美夜子にも言われました」

私はそう言って美夜子を見やると、美夜子は目を逸らした。

「あらそうなのね。でも、陽菜ちゃんの中で解決できてそうならいいけど」

「そうですね……色々考えて、だいぶ解決に向かってるかなって感じです」

私は出されたお茶を飲み、ホッと一息つく。

「ただ、ここ数日で色んな事があり過ぎて、少し疲れてるかもしれないです」

「だった、今日泊まっていく? 誰かと一緒の方がいいでしょ。それとも一人の方が落ち着くかしら」

「え、だって着替えとかないし……」

「だったら取りに行きましょ。私車出すし」

玖美子さんの押しに負けて、私は泊まることにした。
着替えを取りに自宅まで車で送ってもらうため、駐車場へ向かうが、なぜか美夜子も付いてきた。

「美夜子さん?」

「私も行く」

頑なに引こうとしない美夜子に驚きつつも、二人並んで後部座席に座った。
いつもの光景だ。左を見ると窓際の美夜子がいる。
私は特に何も考え事もせず、光の流れを目で追っていた。

「何か考え事?」

「ほぇ?」

「なんて声出してるのよ」

「いや、何も考えてなかったから……」

「そう」

美夜子とまともに話すのが久しぶりに感じた。
学校ではまともに口を利いてくれないし、今日の登校時に少し話した程度か。
前に愛の告白を受けたが、それ以来そういうことをすることもない。

「あ、あそこに見えてるマンションです」

「あれ? 流石ね、この辺で唯一のタワーマンションに住んでるだなんて」

「ギャラ全部これに使いました」

玖美子さんは車で待つといい私と美夜子二人で自宅まで上がった。

「そういえば初めてだよね」

「うん」

「ちょっと散らかってるけど……」

「大丈夫」

エレベーター内での会話が少し覚束ないのは、私が誰かを部屋に入れ慣れていないからだ。

「さ、上がって」

玄関の扉を開けて美夜子を招き入れる。
美夜子はそのまま奥へ入っていくが、私はあることを思い出した。

「ちょっと、ごめん美夜子!」

「……っ!」

ソファーに突き刺さったままのダイニングチェア。
昨日ぶん投げたまんまになっているのを思い出した。

「あーこれはなんというか……」

その瞬間、美夜子は私を抱き締めた。

「昨日うちに来たのってもしかして……」

「うん。昨日ね、お父さんが来たんだ。謝りたいって。それで帰った後もう、むしゃくしゃして……」

「なんで言ってくれなかったの?」

「だって、私がそう言って美夜子のところに行くと都合よく使ってるみたいなるじゃない」

「それでも……言って欲しかった」

「なんで美夜子が泣いてるのよ」

制服の襟元が涙で濡れる。
そして雫が溢れるたびに、美夜子の力は込められていき、私はいよいよへし折られるのではないかと思った。

「これからは、辛い時、美夜子を頼るね。これは絶対」

「うん」

「もう、いつもと違って美夜子が子供っぽいじゃん」

「だって……こんなの見たら」

「そう……これも含めて私。外ではいい顔してるけど、実はそうじゃない。黒い部分も含めて私なのよ」

美夜子は抱擁を解き、私の顔を見つめる。

「……正直、安心した。陽菜も普通の人間なんだなって」

「それはこっちのセリフ。普段は鋼鉄のロボットみたいな美夜子がこんな顔するなんて」

私は美夜子の唇に自分の唇を重ねる。
ベランダから月明かりが注ぎ込まれる。
美夜子の唇と舌が私に伝わるそのキスは、脳髄から溶けるようなキスだった。
本当の意味で、私たちは恋人関係になれた気がした。

「んふふ……美夜子、なんて顔してるの」

「だって……」

蕩けたような美夜子の顔がとても愛おしい。
このままもっとめちゃくちゃにしたい……。
されるがままの美夜子にさらにキスを重ねる。
とても長い時間、そうしていた気がするが、時間にすれば数分も経ってない程度だった。
それほど濃密なキスだったということだ。

「そろそろ支度しなきゃ、玖美子さんに怒られちゃうよ?」

「もっとしてたい……」

「また後でね」

以前とは完全に立場が逆転していた。
しかし、獰猛に、本能的に求めてきたのは変わらず美夜子である。
リュックサックに着替えを詰め込み、私はリビングで待ってる美夜子の元へ向かう。

「美夜子?」

「陽菜……これって」

家族写真を見て美夜子は何やら慄いてる。

「あ、そこに映ってるのがお母さんと元父親」

「陽菜のお母さんって恭子さんだったんだ……」

「なんで知ってるの?」

「一時期うちの道場に通ってたから……娘に教える為に護身術を身に付けたいって」

遠い記憶、中学に上がる頃だったか、お母さんが武術を習いに行くと言っていた記憶が薄氷のようにあった。

「そういえば……」

「そっか、恭子さんが陽菜のお母さんか……」

「何か粗相でもした?」

「ううん、よく組み手してたから。それに殆ど私が手ほどきしたし」

「へぇ。じゃあ私より先にお母さんと……」

冗談のつもりでそういうと、なぜか美夜子はしゅんとなった。

「そういうつもりじゃないけど……」

「いやいや、冗談だって。私こそ、そういうつもりないから!」

私達はとりあえず部屋を出た。
戸締りを確認しエレベーターを呼び出す。

「そういえばなんでついてきたの?」

「……言わなきゃダメ?」

「あ、もしかして私と一緒にいたかった?」

「うん、そう」

「嬉しいこと言ってくれるなぁ」

今度はきっと不純な気持ちで付き合うことはないだろう。
私はそう信じて美夜子の手を取りやってきたエレベーターに乗り込んだ。


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