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その13池田凛3

神様

あなたは世界を創造したらしいですね
そして、人々はあなたに救いを求めるらしいですね

じゃあ、
俺の願いも叶えてくれよ

俺の小さな願いを叶えるくらい訳ないだろ

【次のニュースです。昨日の日曜日の深夜、都内の雑居ビルから若い女性が転落しました。被害にあった女性は、〇〇○さん、22歳。その雑居ビルの飲食店に勤務していました。警察の調べにによると、屋上の鉄柵が経年劣化のため崩れ、そこにもたれかかっていた女性がそこから転落したと見られています。】

いつものうどん屋の無機質なテレビの中で話す女性を見ながら、天井に向かってため息を一つついた。

【2か月前】

「りんさーん!どこにいますー!?こらー!出てこーい!」

遠くから、いつもの心地よい声が聞こえる。

「はいはい、ここにいるから。大きい声出すなよ。何か用事か?」

「いた!もう!いつも目を離すといなくなるんだから!」

俺は子犬か?
んで、お前はご主人様か?

ふふっと笑いながら、そんな事を思っていると、

「今日は他に仕事ありますか?そろそろ時間なんで、もう一つのバイトに行きますよー?」

「今日はもういいよ。おつかれさん。」

「わかりましたー、じゃあいつものお弁当をここに置いていきますね?お利口さんで、ちゃんと野菜も残さず食べんるだぞ♡」

「わかったわかった。ありがとう。」

「わかったは一回でしょ!?ちゃんと食べれたら褒めてあげますからね。」

池田はピースサインを彼女に向けた。

「よろしい!じゃあ、お疲れ様でした!」

そう言うと、真っ白な上着を手に取り、部屋から出て行った。

【カチッ】

一人残された部屋で池田はライターを鳴らし、タバコを吸い始めた。

お利口さん、、、
褒めてあげる、、、

池田が一人暮らしで、彼女もいなく、ロクでもない食生活をしてると知ると、それから毎日お弁当を作って来てくれる様になった。

しかし、それは申し訳ないと伝えると、では毎月三回美味しい食事に連れて行ってくださいね?と、契約を持ちかけられたので、それに合意したのだ。

あの子にとって、俺は子犬に見えてるのかもな、、、


でも、、、

子犬は、ご主人様に褒められたいと思っていると言うけれど、わからなくはないな、、、

そんな事考え、唇の端を上に上げて、少し遠くの机の上にある黄色の可愛らしい布に包まれている弁当を見ながら、タバコを吹かした。



【1か月前】

ここ数日雨が降っており、何となく重たい日々だ。

何かがおかしい、、、


最近、彼女に元気がない。


体調不良なのか、寝不足なのか、顔色が悪く、声にも元気がない。

いつもの弁当は用意してくれるのだが、ノルマを二回消化して、残っているあと一回の食事に誘いもない。

どうする、、、
踏み込んでもいいのか、、、
俺が踏み込めば全てはわかるのだが、、、

「全力で自分の大切なものを守りなさい。」


不意に先日雨宿りのために入った喫茶店で赤いコートの女に言われた言葉が頭の中に蘇った。


この事か?

あの女、、、
まさか、、、


「りんさん。これで上がります。お疲れ様でした。」

ペコリと頭を下げて、部屋を出て行こうとする彼女に、

「おい。」

池田は話しかけた。

「はい、、、何かありましたか?」

「いや、、、、、、おつかれさん。」

彼女は、半身で頭を下げて、ドアから部屋を出て行った。

池田には、それが地獄の門が開き、黒い時の中に進んで行く様に見えていた。


やめておけ。人と関わるとストレスなんだろ?


どれだけ裏切られて来たのかを忘れたのか? 

自分を大切にしろ。

心の中の青く冷たい自分が池田に問いかける。

そうだな、、、

彼女の何を俺が知っていると言うのだ。

名字は阪田。それ意外は他愛もない内容の事だけに止めて来たじゃないか。

それでいいんだ。

そう思いながら、タバコを吸うためにライターを取り出した。


【カチ、カチ、、、カチッ】


三回目にやっと火がついたライターを見つめ、自分の中にある気付いてないフリをしている気持ちに、何とか火をつけようとしている事を忘れようとしていた。




【日曜日】


今日も雨か。

外も何となく暗い。
気持ちが晴れないから余計にそう思うのかもな。

池田は休日だが忘れ物を取りに、会社に向かっている。

傘をさしてはいるのだが、それは気休めにしかならないくらいの土砂降りの中、何とか会社に辿り着き自分の部署のドアを開けた。


「ん?」

誰かいる。


薄暗く電気も付いていない部屋だが、誰かがいる気配がする。

電気をつけようとすると。

「りんさん、、、」


聞き慣れた声が聞こえたので、そちらの方を探ると、いつも所に阪田が座っていた。

「どうした、何してるこんなところで。」 

そう言って電気もつけずに、阪田の方に歩み寄る。 

阪田の真正面に座ると、池田は目を見開いた。


「何だ!お前!どうした!ずぶ濡れじゃないか!それに、何だその顔!誰にやられた!?」


阪田の顔は傷があり、至る所に腫れている箇所やアザがある。
明らかに怪我ではなく、誰かに殴られたものだ。


「ちょっと待ってろ!動くなよ!」

「すみません、、、迷惑をかけて、、、」

「黙れ!動くな!これは命令だ!いいな!?」


そう言うと、池田は部屋から飛び出して行った。





隣の部屋にあるタオルを持って来た池田は、それを阪田に渡すと、ゆっくりと隣の席に座った。


「すみません、、、」

阪田はそう呟くと、タオルで濡れている頭を乾かし始めている。

池田はポケットから雨で濡れたタバコを取り出して、何とか火をつけ、尋ねた。


「何があった?」

「いえ、、、大丈夫です、、、」

「じゃあ一つづつ聞くぞ。何故濡れている。」

「大丈夫です、、、」

「二つ目だ。顔はどうした。」

「大丈夫、、、、、」


そう、阪田が答えると目から涙が溢れた。

【やめておけ。】

池田の青く冷たい心が忠告を与えている。


【大切なものを守りなさい。】

赤いコートよ女の言葉が蘇る。


どうしたものか、、、

池田は気休めになればと、側にあったラジオに電源を入れた。

REBECCAの【virginity】が流れている。

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