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会話リフレクション

1. はじめに

皆さん、はじめまして。日本語教師のスミトです。私は東京の日本語学校で約3年ほど非常勤講師をやり、現在はオンライン日本語教師として海外の方に日本語を教えています。さて、私の自己紹介はこのくらいにして、今回はこれから、皆さんに、「会話リフレクション」という新たな日本語教授法の提案をしたいと思います。「話せるんだけど、もっと自然な日本語で話せるようになってもらいたい」、そんな中級・上級の学習者さんを教えている方におすすめの方法です。特殊なツールは一切使いませんし、やり方もそこまで複雑ではないので、誰にでもできると思います。ご安心ください😉

2. 作ろうと思った理由

では、早速その教授法ついて話していきたいのですが、まずその前に私がなぜこのアイデアを生み出すに至ったのか、その理由について少し説明させてください。先ほどお話した通り、私は今オンラインで日本語を教えているのですが、一般的に中級・上級学習者へのオンラインレッスンと言えば、ただ単に会話をするフリートークのレッスンが多いようです。しかし、私はこのやり方ではレッスンをしたくないと思っていました。なぜなら、単に話す機会の提供で終わってしまい、自然な日本語で会話ができるようになるというところまで学習者を導いてあげることが難しいと思ったからです。その理由としては、まず単に会話をする中では、発話は流れしまうので、なかなか学習者の発話を逐一チェックすることができず、文法や発音に関する効果的なフィードバックができないという問題があります。仮に、学習者の間違いを見つけて、指摘できたとしても、学習者自身がそのような間違った日本語を言ったという自覚がなければ、自分の問題として認識されず、学習者の意識を変えるような効果的なフィードバックにはなりません。それから、もう一つの理由としては、フリートークでは、学習者はたくさん話す練習をしたいと思い、そして、教師も学習者にたくさん話す練習をしてもらいたいと考えるので、どうしても「教師が質問し、学習者が答える」という形になり、学習者が質問の練習をする機会が少ないという問題があります。自分が経験したことや考えていることを語るというのは総じて楽しいものです。ですが、それは自分だけではなく、相手も同じです。片方が自分の話をし続け、片方が聞き続けるというのでは、雑談会話においては多くの場合、聞き続ける方に不満が溜まるでしょう。なので、雑談会話では、ときどき聞き手になって質問をし、相手に話させ、お互いが会話を楽しみ、お互いが満足することが大切だと思います。しかし、中級・上級の学習者を見ていると、一方通行の会話しかできないような学習者が非常に多く見られます。おそらく聞き役の練習をしてきていないので、その結果、聞き手をやる上で非常に大事な「質問をする」というスキルがあまり身に付いていないことが一番の原因だろうと思います。ですので、こうした問題を解決し、中級・上級学習者の日本語力を一気に引き上げるレッスンをしたいなと考えたとき、「会話を録音し、その会話を文字に起こし、それを見ながら録音を聞き、そして、教師のサポートを得ながら、学習者が自分自身の日本語を振り返え、見つめ直す(reflect)」というレッスンのアイデアがひらめきました。

3. 会話リフレクションのやり方

それでは、本題の会話リフレクションのやり方に入っていきたいと思います。まず使用ツールですが、必要なのは、① Zoom(Skypeでも大丈夫です)と② ワードのディクテーション機能(Google documentにも音声入力があるので、大丈夫ですが、ルビ機能がないので、できればワードの方がいいです)の2つだけです。そして、以下のようなステップで行います。

1. 話題を決め、学習者と会話をする(2分ぐらいがちょうどいいと思います。ストップウォッチで測ると良いでしょう)
2. 会話中、その会話をZoomの録画機能で録画する(オンラインの場合、Zoom上で録音しないと、相手側の音質が悪くなってしまうので、録音は必ずZoom上でしましょう)
3. 会話が終わったら、録画を止める
4. 録画を停止すると、パソコンの中にZoomのファイルが現れるので、それを開いて、変換する(Zoomだと、1分ぐらいかかります)
5. 変換すると、音声ファイルが出てきます
6. 音声ファイルをGoogleドライブなどに移す
7. 開いておいたワードを画面共有して、ディクテーション機能のボタンを押す
8. スマホでGoogleドライブを開き、先ほど移した音声ファイルを音量最大で再生する(スピーカーがあると便利です。あと、このステップで学習者は自分の日本語をもう一度聞くことになるので、流す前に「ここ変だなとか、こう言えばよかったとか、考えながら聞いてください」と伝えましょう)
9. すると、ワードがスマホからの出てくる音声を聞き取り、自動で文字起こししてくれる(精度は60〜70%ぐらいと言ったところでしょうか)
10. ワードを画面共有する
11. パソコン上で一文ずつ or 切りがいいところまで音声を流して、その都度、学習者に「何て言いたかったのか?」、「もっと自然な言い方は何か?」などと問いかけ、できるだけ考えさせながら、話し言葉として自然な日本語になるよう直す(文字化の間違いは教師側で直す)
12. 全ての発話を自然な日本語に直したら、最後はそのスクリプトを使って、会話&発音練習をする(結果を求めるなら、直した会話のセリフは全て丸暗記してもらうのが良いと思います。その場合は、覚えるのを宿題にしたり、短期記憶で覚えてもらい、スクリプトを見ずに読む練習をしたりするのが効率的なやり方だと思います)

あと、会話について補足すると、最初の段階では「教師が質問をし、学習者が答える」という形で練習して大丈夫ですが、ある程度自然な話し方で話せるようになってきたら、役割を交代し、「学習者が質問をし、教師が答える」という形で、学習者に質問をする練習も混ぜていきましょう。もちろん、この場合も上記の手順通り、会話を録音し、文字に起こし、自然な日本語に直しましょう。

4. 指導を通して目指すねらい

次は会話リフレクションの指導を通して目指すねらいについて解説していきたいと思います。先ほど上で説明した通り、会話リフレクションでは、単なるフリートークとは違い、いきなり一方的なフィードバックはしません。フィードバックの前には、必ず「録音した自分の会話を聞き、文字化したスクリプトを読み、そして、自分の日本語の間違いや不自然なところを考える」という作業が入ります。このプロセスを一言で言うなら、自己モニタリングをするということです。自己モニタリングとは、簡単に言えば、第三者の目になって、自分のことを客観的に見て、観察することです。中級レベルで留まってしまっている学習者というのは、多くの場合これができていないと思われます。そのため、彼らは自分の言いたいことが通じていると感じれば、表現に問題はないと思い込み、間違った、あるいは、不自然な日本語を使い続けてしまうのだと思います。そうして、その変な日本語が自分の中で自然になり、自動化・無意識化されてしまうという悪循環が起きるのでしょう。私の考えでは、これから抜け出すためには、まず間違った、あるいは、不自然な日本語を使ってしまった根本の認識を正しいものに変える必要があります。そして、それには、やはり自分の日本語と向き合い、一つずつ「これは文法的に正しいのか?」とか、「これは自然な言い方なのか?」などと確認する自己モニタリングが必要になります。しかし、当然のことながら、今まで自分の日本語と向き合ってこなかった学習者にとってはすごくハードルの高いことだと思います。そこで、教師の出番です。会話リフレクションの自己モニタリングでは、教師のサポートによって、学習者は気楽に、安心して自分自身の日本語の振り返りが始められ、自分の間違いや癖への気付き、さらに、正しい文法の理解を得ることができます。そして、このステップを経たら、最後はこの自己モニタリングを普段、日本語を話すときからもするように仕向けなければいけません。なぜなら、今まで慣れ親しんできた文法や単語をリセットし、新しく得た正しい認識を自分の無意識に落とし込み、より自然な日本語を自動化する必要があるからです。そして、それには、速くたくさん話したいという気持ちをグッと抑え、変な日本語を言いそうになったら、逐一自分でストップをかけ、適切な日本語が出せるよう、頭の中で「インフォーマルに話したいから、これを使う」とか、「こういう気持ちを込めたいから、これを使う」というような感じでルールを考えながらゆっくり話すことが必要になってくると思います。次章では、そのルールとも関連する具体的な指導のポイントについて説明していきたいと思います。

5. 具体的な指導のポイント

会話リフレクションが一番適しているのは中級・上級学習者に対する日常会話の自然な話し方の指導です。特にまず身に付けさせたいのは、多くの場合、上下関係の差はあまりないが、初対面、あるいは親しくない人同士が日常会話で話す日本語、つまり、タメ口ではなく、且つ、フォーマル・丁寧過ぎない話し方でしょう。ですので、まずはそれを基準に学習者の発話を直していくのが良いと思います。以下に、実際に私が指導する中で重要だと思っているポイントを5つ挙げておきました。ご参考ください。

縮約形に直す:雑談会話は縮約形の宝庫です。「〜てしまう」は「〜ちゃう」に、「〜なければならない」は「〜なきゃいけない」に、他にも「〜ている」は「〜てる」になります。もちろん会話で「〜てしまう」と言っても、間違いではないです。ですが、ネイティブなら、「フォーマルに話したかったら、"〜てしまう"、インフォーマルに話したかったら、"〜ちゃう"」のように非縮約形と縮約形をいとも簡単に使い分け、そして、特に雑談会話でしたら、縮約形をより多く使うでしょう。学習者も中級ぐらいまで行けば、こうした縮約形は耳にしているはずです。しかし、彼らの多くはなかなか縮約形を実際の会話で使えません。おそらく学習の初期に勉強し、慣れている非縮約形を使っておけば、自分の言いたことも、ニュアンスも伝わるので、それに満足してしまっているのです。しかし、よりネイティブライクな日本語を目指すなら、縮約形は理解レベルを越え、使いこなせるレベルにまで高めていく必要があります。ですので、まだ縮約形で話せない段階では、基本的に非縮約形は全て縮約形に直させて、その使用を促していくのが良いと思います。

接続詞を直す:話し言葉への理解が足りない教科書やGoogle翻訳のせいで、不自然な接続詞を使う学習者はものすごく多いです。特に学習者の日本語を聞いていて、すごく不自然に感じるのは「そして」と「あとで」です。これらの接続詞は "and" や "and then"、それから、"so" と言いたいときに使ってしまうようです。もちろん単に他の情報を加えたいときは、書き言葉的で堅い「そして」ではなく 、「あと」や「それから」といった接続詞を使った方が会話では自然でしょう。それから、"and then" の意味で時間的に次の行為のことを言いたいときは、「そして」や「あとで」ではなく、「そのあとは(after that)」や(接続詞ではないですが)確定条件の「〜たら」を使うのが普通です。最後に、"So" の意味で使ってしまう「そして」ですが、これは結果や結論を言うために使っているので、「なので」や「ですので」といった接続詞を代わりに使うように指導していくと良いでしょう。

復文に直す:中級学習者の多くは「〜ます。〜です。〜ました。…」のように、単文を連続させて、話すことが多いです。当然のことながら、多くの場合は、先行文と後続文の関係に応じて、「〜ので」、「〜んですけど」、「〜て」、「〜たら」、「〜し」のような復文を作る文法を使った方が自然です。特に、いわゆる前置きの「〜んですけど」は、会話では頻出です。例えば、会話の例ではないですが、こちらの橋本環奈さんのインタビュー動画を見てみてください。

いかがでしょう?わずか2分程度の動画ですが、「〜んですけど」が4回も使われています。初級・中級ぐらいの学習者ですと、「〜ます。でも、〜ました。」のように2文で言ってしまうところをネイティブスピーカーは、このように「〜んですけど」を使って、文を終わらせずに後続発話に繋げます。「〜んですけど」が上手く使えるだけで、一気に印象が変わり、自然な日本語になってくるので、レッスンでは最重要課題として、「〜んですけど」で繋げられるところは繋げるよう指導していってください。

④ 副詞を加える
:ネイティブの日本語と学習者の日本語を比べていると、副詞の使用に大きな違いを感じます。ネイティブは要所要所で副詞を加え、動詞や形容詞の意味を上手く調整しています。一方、学習者はそもそも副詞の使用自体が少なく、その結果、座りの悪い文を言ってしまうことがよくあります。それから、種類に関しても、大きく異なります。例えば、「とても」、「よく」、「多分」などの基本的な副詞は使えますが、

・「結構」、「なかなか」(程度副詞)
・「たまに」、「普段」、「ちょくちょく」(頻度副詞)
・「ずっと」、「しばらく」(継続の副詞)
・「確か」、「もしかしたら」(可能性の副詞)
・「つい」、「うっかり」(非意図を表す副詞)

といったような副詞を使いなこなしている学習者はあまりいません。ですので、会話リフレクションの際は、学習者の発話の中で副詞を入れても良いようなところがあったら、できるだけ「どんな副詞が使える?」と問いかけ、使える副詞を増やし、その使用を促していくのが良いかと思います。

⑤ 発音指導:学習者の発話を全て自然な日本語に直したら、最後はその会話を使って、発音指導をするのがおすすめです。発音指導の際に伝えるべきポイントはいくつかありますが、私の経験上、最も重要なことは口を大きく開けずに、口を小さくして発音させることです。どうしてこれが一番大事なのかいうと、より自然な日本語として聞こえるようにするためには、全体的に軽く、ソフトに、フラットで、そして、速く発音しなければいけないからです。例えば、「わたしはねこがすきです」という文があったとき、日本語を勉強し始めたばかり学習者だと、

1) わたし は ねこ が すき です

のように一単語ずつゆっくりはっきり読む感じで言います。しかし、もちろんこれはネイティブの普通の話し方ではありません。ネイティブでしたら、

2) わたしはねこがすきです

のように、これくらい短い文でしたら、一息で一気に言うでしょう。あるいは、「わたしは ねこがすきです」のように「わたしは」の後に短いポーズを置くかもしれません。いずれにしても、一単語ごとではなく、フレーズごとに素早く読むでしょう。ピアノで例えるなら、学習者は「タンタンタン タン タンタン タン タンタン タンタン」と鍵盤を一つずつゆっくり強く叩いているという感じで、ネイティブは「タララララララララ」とソフトタッチで鍵盤を滑らせて音を出すような感じでしょう。もちろんフレーズごとに速く話すためには、必ず口を大きく開けずに話さなければいけない、ということではありません。口を大きく開けて話している日本人もいると思います。ですが、日本語は口を大きく開けてはっきり発音する必要のある母音がなく、単語にストレスも置かないので、性質的には口を大きく開ける必要のない言語だと言えるのではないかと思います。そして、大きく開ける必要がないなら、人間は基本的に楽な方に行くので、より楽な「口を大きく開けない」方法で話すことが多いのでないかと考えています。以上はあくまでも私の仮説ですが、この「口を大きく開けずに、口を小さくして発音させる」という指導法は清華大学や北京大学で教鞭をとられた笈川幸司先生も実際に実践し、勧めているやり方で(↓にYouTubeにあった笈川先生の講演動画も載せておきました。よかったら、お時間あるときに、ご覧ください)、本当に学習者の発音が劇的に変わるので、ぜひ試してみてください。

6. 多人数授業での実践の可能性

最後に多人数授業での実践の可能性についても触れておきたいと思います。まだ実際に試したことはないので、想像ですが、直感的には多人数でも行けるのではないかと思っています(もし実際に試された方がいらっしゃいましたら、その際のやり方や感想など、ぜひ教えてください🙏)。例えば、やり方としては次のようなものが考えられると思います。

1. 話題を決め、学習者と教師、あるいは、学習者同士が会話をする
2. 会話中、その会話をスマホで録音する
3. 会話が終わったら、録音を止める
4.
開いておいたワードをプロジェクターで写して、ディクテーション機能のボタンを押す
5. 先ほどスマホで録音した音声ファイルを音量最大で再生する
6. すると、ワードがスマホからの出てくる音声を聞き取り、自動で文字起こししてくれる
7. スマホにある音声ファイルをパソコンに移す
8. ワードを画面共有する
9. パソコン上で一文ずつ or 切りがいいところまで音声を流して、その都度、学習者に「何て言いたかったのか?」、「もっと自然な言い方は何か?」などと問いかけ、できるだけ考えさせながら、話し言葉として自然な日本語になるよう直す
10. 全ての発話を自然な日本語に直したら、最後はそのスクリプトを使って、会話&発音練習をする

ただ、ツールに関しては、やはり多人数クラスなので、みんなで同じものを見るためにはパソコンの画面を映せるプロジェクターは必須かと思います。あと、スマホやパソコンの音量が小さいなどの問題が出てくるかもしれないので、スピーカーも必要になってくるかもしれません。

7. 筆者からのお願い

皆さん、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます🙇‍♂️最後に私から皆さんへお願いがあります。まずこの会話リフレクション、面白いな!と気に入ってくださったら、ぜひお知り合いの日本語教師の方にも広げてください🙏あと、この会話リフレクションはまだまだ発展途上です。「考えさせるための上手な促し方」や「シンプルで分かりやすい文法説明」など改善の余地はまだたくさんあります。でも、この記事を読んで、「やってみようかな」と思ってくださいましたら、ぜひ迷わずトライしてみてください!何か困ったことがあったら、いつでもお気軽に私にお悩みを寄せていただいて大丈夫ですので(下に私のメアドとツイッターを載せておきました)、ぜひ一緒にJLPT&書き言葉偏重の中上級日本語教育に革命を起こしましょう👍

メール:myjapanese.jp@gmail.com
ツイッター:@myjapanese_jp(スミト🦥日本語教師)

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