見出し画像

ポコポコしたカボチャ

人生の夏休みとも言われる大学生時代を十勝で過ごした僕は、ひたすらバイトをしていた。
24時間営業のラーメン屋の深夜帯を軸に、十勝っぽいバイトから変なバイトまで色々やった。

その中でもよく覚えているバイトとして、野菜の直売所のバイトがある。

始まりは先輩からの一本の電話だった。

先輩「明日の日中暇?」
僕「朝の5時までラーメン屋のバイトですね」
先輩「じゃあ、暇だね」
僕「…そうですね」
先輩「野菜の直売所のバイトあるから、行って!」
僕「…はい!」
先輩「場所は〇〇のカーブの横みちを真っ直ぐ行って、直売所ののぼりが沢山立ってるとこだから!」
(住所は一切教えてもらえなかった)
「8時からね!ちなみに俺もよく知らない農家さんのやってる直売所だから、俺の名前出しても意味ないからね!じゃ!」
僕「え」
(後から聞いた話だと先輩の友達が持て余したバイトだった)

そういう訳で0〜5時のラーメン屋のバイトが終わり、夏の終わり白み出した空を見ながら、眠ることを諦め、レッドブルを一気飲みした。

住んでいたアパートから直売所まで車で1時間かからないぐらいだったと思う。
近くもなく遠くもない。いや、今考えると遠い。

直売所に着いて、一緒に働くであろうおばさんに挨拶し、だいたいの商品は一袋もしくは一本もしくは一個で100円と教わった。
そして、おばさんは
「他の商品積めてるから、あとはよろしくね」
と言って、裏に消えていった。
開始5分でワンオペがスタートした。
(途中で知った話だと、そのおばさんも数回しか、直売所で働いたことないらしかった)

お客さんは途切れず来た。
おどおどしてても仕方ないので、堂々と働いてみることにした。
すると、お客さんはそこの農家の高校生の息子が夏休みだから働いてると思ったらしく、色々聞かれる結果となった。
面倒なので特に否定もしなかったし、適当に答え続けた。

客「このナスはどうやって食べたらいいの?」
僕「炒めたりしたらいいですよ!」
 ナスは3種類くらいあった。当時あんまり自炊もしていなかったので、炒める以外の調理法も知らなかった。

客「どの辺で川が氾濫したの?」
 どうやら、この数日前の大雨で直売所の近くの川が氾濫したようだった。
僕「あっちの方です!(遠くを指さす)」

客「トウキビの皮剥いてちょうだい」
 皮を剥くのに手こずる。
客「しっかりしろよ、息子!笑」
僕「すいません、久しぶりで…(息子じゃないし)」
 見様見真似で、皮を剥き続けた。

客「ポコポコしたカボチャを選んでちょうだい!」
僕「(ポコポコ…??)はい!」
 適当に選んだ。
客「違う!違う!これとかこれでしょ!」
僕「(自分で選べや)すいません、すいません!」 

お昼ごろにそこの直売所を経営してる農家さんが現れ、カップラーメンを渡しながら、
「関取の孫って聞いてたけど、意外と普通の体の大きさだな!」
って言われた。色々話が湾曲して伝わっていた。
面倒なので、否定はしなかった。

16時ぐらいに仕事は終わり、1万円を渡され、好きな野菜を好きなだけ持って帰っていいと言われた。
長ナスを2本頂いた。
食べた記憶は曖昧なので、たぶん冷蔵庫に入れて数週間後に変わり果てた姿で見つかったのだろう。

この1日で愛想笑いと、嘘をつくのと、トウキビの皮を剥くのが上手くなった。
しかし、ポコポコしたカボチャは結局よくわからなかった。
あれから約10年経った今でもポコポコしたカボチャはよくわからないし、ポコポコって言葉もあれ以来聞いてない。

もしかしたら、人生はポコポコを探し続けるものなのかもしれない。(そんな訳ない

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?