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哲学対話「愛すべき娘たち」(よしながふみ)

1冊の本を、それをテーマに哲学対話をします。
架空の哲学対話BAR「Sole e Luna」でその店のマスターと哲学対話をする哲学対話小説です。

それではどうぞ。


風が冷たくなる中、ぼくは馴染みのBAR「Sole e Luna」の扉を開けた。
壁にかけられたアンティークの時計が時の流れを示す中、マスターが静かに振り返り、微笑んで迎えてくれた。

ぼくが席につくと、マスターは選ばれたお酒を前に置き、そっとグラスを磨きながら言った。

マスター:「そう言えば、最近の読書会はどうでしたか?」

ぼく:「大変考えさせられるものでした。愛すべき娘たちというよしながふみの短編漫画で、特に若林莢子という人を好きなることができない女性が主人公の第3話が印象的で、結婚相手をみつけるためにお見合いをするのですが、結局人を好きになれないという話でした。」

マスター:「それは、難しい話ですね。」

ぼく:「そうですね。それよりも難しいのは、彼女の周りの人々の言葉が、彼女にとって重荷となっているように感じました。彼女の心を縛るような、その言葉たちが…」

マスター:「他人の言葉が呪いとなる…それは、私たちが気づかないうちに他人の期待や、それを通じて感じる社会の規範に囚われ、世界を歪めて見てしまうということでしょうか?」

ぼく:「そうかもしれません。莢子は人との関わり合いの中で、他人の言葉を受け流すことが難しく、それが彼女を苦しめているようでした。」

マスター:「それは、他人の言葉によって内なる世界が圧迫され、矛盾と向き合うことの苦しさからくるものかもしれないですね。」

ぼく:「最後に彼女は、お見合いをやめ結婚を諦め、修道院に入る選択をしました。それが彼女にとって、他人の言葉から解放される場所だったのかもしれません。」

マスター:「言葉の力、それは時に私たちを苦しめることもある。しかし、もし言葉がない世界があったら、私たちは世界をどのように感じるのでしょうか?」

物語の中で交わされた言葉が「ぼく」の心を過ぎる。
莢子:「好きになろうとしたのよ、でも一度もできなかった。」
友人:「莢子が自分から好きになったのって一度も見たことないな。」

ぼく:「莢子が本当に求めていたのは、言葉のない世界だったのかもしれない。そんな場所は現実にはないけれど。」

マスター:「もしもそんな場所があったなら、多くの人が救われるのかもしれませんね。」

夜の静けさの中、哲学対話BAR「Sole e Luna」は、言葉の船として静かに時を刻んでいた。

AIを使えばクリエイターになれる。 AIを使って、クリエイティブができる、小説が書ける時代の文芸誌をつくっていきたい。noteで小説を書いたり、読んだりしながら、つくり手によるつくり手のための文芸誌「ヴォト(VUOTO)」の創刊を目指しています。