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情報戦を見極める目

 10月7日、イスラエルの景色は一変してしまった。ガザからロケット弾が数千発打ち込まれ、国境を越えて数百人とも言われるテロリストがイスラエルに侵入し、一般市民の居住区で殺戮・陵辱・略奪を繰り返し、女子供や老人を人質として連れ去った。これはイスラエルの建国史上、経験したことのない蛮行だった。かつてユダヤ人がヨーロッパで体験したホロコーストを想起させるほど凄惨なものだった。


ヨムキプール戦争が再び

 前例がないほどの衝撃を受けたイスラエルだが、今の状況を50年前のヨムキプール戦争(第四次中東戦争)時の状況に似ていると指摘する向きがある。1973年10月6日、ユダヤ人にとって最も神聖な日であるヨムキプールの日、エジプトとシリアがこの日に狙いを定めて奇襲攻撃をかけた。緒戦で大打撃を受けたイスラエルは、まさかこんな展開になろうとは誰も想像だにしなかった。6年前の6日戦争(第三次中東戦争)でイスラエルは大勝利を収め、「向かうところ敵なし」の気分に全国民が高揚していたからである。

 6日戦争後もエジプトとの火種はくすぶっており、いずれ再び戦火を交えることになると予測はされていたが、少なくとももっと先のことだろうと高をくくっていた。イスラエルでその後「コンセプツィア」と呼ばれるようになる固定観念が、軍関係者をはじめイスラエル国民の間に広がっており、完全に油断していた矢先の戦争勃発だった。

 ヨムキプール戦争時の「コンセプツィア」については、『モサド最強のスパイ――エンジェルと呼ばれたエジプト高官 その謎の死を追う』に詳しいので、参照されたい。

 今回も、イスラエルは国内では様々な政治問題が噴出して毎週のようにデモが起きていたが、経済的には右肩上がり、おまけに外交面では2020年の「アブラハム合意」を皮切りに、アラブ諸国と次々と国交正常化が進み、遂にイスラムの盟主サウジアラビアとも水面下で交渉が進められるほどの成果を上げていた。この隙を突かれた形となったのである。

Xの拡散力

 ところでこの2週間あまり、あらゆる情報をフェイスブック(FB)やエックス(X、旧ツイッター)で発信しつつ、いろいろと考えるところがあった。

 私の場合、フォロワー数から見てFBのほうがリーチ数が多いと思っていたのだが、このところXのほうがフォロワーの何倍にも拡散されていることに気づいた。特に次のポストにおいてこの傾向が著しい。

 10月23日未明の時点で、いいねは170を超え、リポストは90、リーチ数は5万に達しようとしている(投稿してから丸2日の動きで、今も増え続けている)。ここ数日でXのフォロワーは100人以上増加したが、それでもフォロワー数に対して50倍以上の人にリーチしている。これはリポストの力である。FBではリーチ数が提示されないので予測の範疇ではあるが、それでもFBでは万に届く数にはなっていないだろう。それほどXの拡散力は凄まじい

日本のメディアでは「専門家」と称するコメンテーターが発言していますが、イスラエルへの不理解が目立ちます。パレスチナ問題を論じるにあたって、押さえておきたいポイントを整理してまとめました。 Job Jindoさん、ありがとうございます。

Posted by 谷内 意咲 on Thursday, October 19, 2023

 さらにFBとXの決定的な違いは、FBは基本的に本名なのに対して、Xは匿名の利用者が多い点である。この匿名性が拡散力にも影響しているのだろう。匿名だと比較的気楽に拡散できるからである。私はXでも社名を晒して実名でやっている。そんな中で、ちらほらとアンチらしき人も絡み始めた。本名vs匿名というのはアンフェアな感じもする。ふっかけ目的の人は論外だが、それでも真面目な投げかけについてはできる限り応じようと思う。

テロと向き合う現実

 残虐なテロと戦うイスラエルの切迫した現実を無視した日本のメディアにうんざりしつつ、やむにやまれぬ思いで毎日情報を発信している。

 私がイスラエルにいた1990年代、オスロ合意の後、毎週必ずどこかで自爆テロが1件は起きていた時期があった。通学するのにバスを利用していたが、その恐怖たるや計り知れないものがあった。主に市中バスがターゲットになっていたからだ。不審者と思しき人物が乗車してきた際、怖くなって途中で降りたことが何度かあったほどである。

 私が乗るはずのバス停付近で自爆した事件もあった。いつもより遅れてバス停に到着すると、運転手によって乗車拒否されたテロリストがその場で自爆したらしく、そこにはまだテロリストの死体が転がっていた。早朝だったのもあって、幸い負傷者は出なかった。不審に思った運転手の機転によってテロが防がれた事例である(翌日の新聞で知った)。いつもの時間に到着していたらと思うと、背筋の凍る思いがした。

テロリズムとは

 念のため申し上げておくが、私は盲目的にイスラエルを支持するものではない。もちろん、イスラエルに留学していた身として贔屓目に見てしまうことは否めない。けれども、ガザという無法地帯に巣食うテロ集団の蛮行をまず止めることが先決だと考えるのは当然のことだろう。彼らには国際法もへったくれも通用しない。テロール(terror)とは、無差別攻撃によって一般市民に恐怖を植え付け、自分たちの政治目的を達成する行為だからである。

 ハマスやイスラム聖戦にとって、テロのターゲットはイスラエル市民でもガザ市民でもさほど変わらない。イスラエル人を殺すことができればベストだが、間違って(あるいは意図的に)ガザ市民を殺してしまっても、彼らは何とも思っていない。イスラエルがやったと喧伝すれば、国際世論を振り向かせることができるからだ。どちらに転んでも彼らにとっては「おいしい」のである。

情報の戦い

 そんなテロリズムとの戦いで重要なカギを握るのは、情報戦である。ガザのアルアハリ病院爆破事件から、世界の同情はパレスチナに傾き始めている。この事件については次々と西側諸国がパレスチナ側の誤射であったとの見解を示している。

 しかしハマスはこのタイミングで、人質の中から米国籍の母娘2名を釈放することにより、次なる情報戦にすり替えようとしている。そしてメディアはガザ住民の困窮ぶりにスポットを当て、世界各地で反イスラエルデモが起き始めている。今のところ情報戦ではハマスに利があると言わざるを得ない。

 一刻も早く拉致された人々(10/23時点で222人、中には外国籍の人も多数いる。IDF発表)を救わなければならない。同様に、無辜のガザ住民も然りである。地上戦がカウントダウンに入った今、人質に関してもこれからあらゆる情報が飛び交うことだろう(多数の外国人がふくまれているため、特定に時間がかかっているとのこと)。

 その主戦場はネットである。かくいう私もこの2週間はネットに釘付けとなっている。先述のとおり、ネット上では瞬時にあらゆる媒体・個人から様々な情報が洪水の如く溢れ出ては拡散されていく。その真偽を確認することはさることながら、この戦いは「無法地帯のテロ集団」vs「法治国家のイスラエル人+ガザの一般住民」であることを念頭に置いた上で、内容を見極めていくことが肝要である。

谷内意咲(ミルトス編集代表)


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