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【取材記事】100%植物由来のプロダクトが守る人と環境 土に還るエシカルな「ココナッツレザー」

2023年4月に創業したばかりの エシカリージャパン合同会社は、「世界と日本をエシカルでつなぐ」をミッションに、インド民族衣装のサリーのアップサイクル雑貨および、廃棄ココナッツを原料とした「ココナッツレザー」を輸入販売しています。ココナッツレザーから作られた「never leather(ネバーレザー)」は、役目を終えたプロダクトを土に還す、「さよならの作法」というサステナブルなサービスを加えローンチ。今回は、起業の経緯やブランドの魅力、製品を通して伝えたいメッセージなどについて代表の中川様に伺いました。

【お話を伺った方】

中川 雅里名(なかがわ まりな)様
エシカリージャパン合同会社代表
1987年栃木県生まれ。獨協大学外国語学部卒業後、教育会社を経て南アフリカ共和国へ社会人留学。初等教育支援のNGO活動に携わる傍ら、外資系出版社や貿易マーケティング会社に従事。2年間のインド生活を経て、2023年エシカリージャパン合同会社を設立。



■日本と世界をエシカルでつなぐ想いを社名に

mySDG編集部:ご社名に、エシカルとジャパンというワードが、わかりやすい印象を持ちました。やはり、エシカルに注力されるという想いがあったのでしょうか?

中川さん:はい。その名の通り「エシカルなことしかしない」という想いを社名にしました。「ジャパン」は、「世界と日本をエシカルでつなぐ」という弊社のミッションが、海外のお客様にも伝わりやすいと思ったのでジャパンと付けました。
日本の生活の中には素晴らしいエシカルな素材や方法がすでにあります。それを、世界と相互交流して広めていくための橋渡し役をしたいと考えています。

実は、海外から見た日本は「侘び寂び(わびさび)」という独自の美的感覚やシンプルな美しさがあり、モノを大切に長く使い、もったいない精神を持つ、とてもエシカルな国と捉えられています。着物の生地を加工して雑貨にしたものや、風呂敷など、憧れの目で見てくださるんです。

これは、今の流行という面もありますが、インドやヨーロッパではすでに一般的になっていて、素材やデザインに携わるヨーロッパの方から、日本のリサイクルやアップサイクルは評価は高く、取引の際にもジャパンというキーワードが社名にあることで心を開いてもらいやすくなります。

mySDG編集部:2023年4月に起業とのことですが、早くもTOKYOエシカルのパートナー企業にも名を連ねていますね。

中川さん:はい。TOKYOエシカルは、エシカルなことに取り組む企業や大学、団体を認定して協同し、共にムーブメントを起こそうという東京都主催のプロジェクトです。弊社は昨年の段階でパートナー企業になっています。

mySDG編集部:エシカルに取り組む御社が、どのような経緯でインド製品を扱うに至ったのでしょうか?

中川さん:インドの製品との出会いは、夫の転勤で転居したことがきっかけです。それは時期が悪くちょうどコロナ禍で日本人が帰国しているタイミング。とても覚悟のいる決断でした。現地に渡るや否や、すぐさまロックダウンになり、外出は制限されWeb検索やメールなどしかできない日々が続きました。
私は以前、日本とアメリカの貿易振興のマーケティング会社に勤めていたので、目新しいものを常に気にかけている習慣があります。ロックダウン中にもその習慣から検索し、見つけたインドのクラウドファンディングサイトで、ココナッツレザーに出会いました。これがインド製品と関わるきっかけとなります。

mySDG編集部:そこから、どのような経緯で、ココナッツレザーを扱うことになったのですか?

中川さん:実際に、南インドにある工場を見に行きました。南インドの方には、ココナッツの木が多く自生していて、殻から葉まで活用できる「生命の木」とも呼ばれているんです。実の中の液体(ココナッツウォーター)はスポーツドリンクのような感じでヘルシーな飲み物として親しまれていますし、殻の外側の繊維の部分は素材として活用できます。
ココナッツレザーの原料は、実の中に入っているココナッツウォーターを使うのですが、発酵するとナタデココになり、そこに麻やバナナの茎の繊維を入れ、頑丈にした後、和紙のように紙をすくような工程でシート状にします。
余ったココナッツウォーターが大量に廃棄されてしまうと、土壌の酸性化を招き環境破壊につながりますので、廃棄されるココナッツを買い取り、アップサイクルすることで環境保全と雇用創出にもなり、貧困問題に対してもエシカルなココナッツレザーに惚れ込んでしまって、日本の総代理店契約をさせていただきました。これが、「never leather(ネバーレザー)」の始まりです。

I WAS A  SARI

mySDG編集部:事業内容にはもう一つ、サリーのアップサイクル事業もありますね。

中川さん:インドの女性が纏う伝統衣装サリーをアップサイクルした「I was a Sari(アイ ワズ ア サリー )」私はサリーだった、というブランドを扱っています。

私はインドのムンバイという都市に住んでいたのですが、そこにはアジア最大のスラム街のダラビがあります。ダラビは映画『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台にもなっていて、男性が働き口を見つけるのがやっとで、女性はスラム街の奥で自己決定権もなく住むことを強いられています。
そんなスラム街の女性に、デザインやミシンのスキルを身につけていただき、サリーをアップサイクルで素敵な雑貨に仕立ててもらいます。

これは、私のライフワークのボランティアがきっかけで、ビジネスの形で女性支援をしたいと思ったところから始まった事業です。イタリア・ミラノ出身のCEO兼ファッションデザイナーがインドで行っているブランドで、私が尊敬しているこの起業家と「I was a Sari」を日本で広めていきたいと思い、総代理店契約をさせていただきました。

■究極のモノの循環、土に還る「never leather (ネバーレザー)」

never leatherができるまで

mySDG編集部:プロダクトの魅力を教えてください。

中川さん:まず、「never leather (ネバーレザー)」のneverは、レザーへの否定ではないんです。アンチテーゼというか疑問を言葉に込めています。
例を挙げると、合皮は加工しやすく扱いやすいのですが、石油由来の原料が混ざると土に還すことは難しく、燃えるごみとして埋め立てや焼却処分するしかありません。プラスチックに至っては土に還るまでに400年かかると試算されています。長く使っても10年程度の使用期間に対し、土に戻るまでのサイクルが長すぎる。本当にそこまでの耐久性が必要でしょうか?

それに対し、ココナッツレザーは100%植物からできています。ココナッツウォーター、いわば「水」からできているので、3〜4ヶ月のコンポストで土に戻り、ミミズのエサになるほど自然な状態に戻すことができます。とてもエコな素材の上、商品の耐久性は十分あり数年間、問題なく使用できます。今回、私たちが責任をもって土に還すという「さよならの作法」というサービスを始めたのは、雑貨販売をするだけではなく、モノの一生のサイクルにも責任を持ちたいという想いが込められています。

mySDG編集部:土に還るのに3〜4ヶ月とは、とても早い自然回帰ですね。

中川さん:ボタンなどを除いた生地の部分は、麻や天然樹脂、染料など全部インドの植物由来のものなので土に還りやすい原料なんです。染料は植物の茎や葉、花弁から採取していますから、化学染料は不使用。「never leather」は、新素材を使って最新技術で作られたように思われますが、実は昔からある日本の草木染や和紙の製法と酷似しているんです。手触りもざらざらしている、繊維質な表面も和紙とそっくりで、エコな雰囲気が漂っている素材なんですね。ココナッツレザーは原点回帰。インドで大量廃棄されてしまうココナッツが姿形を変えて、日本の和紙のようないで立ちで、私たちの生活にやってきたようなイメージで、大きなエコサイクルの一助になればと思っています。

never leather 名刺入れ

mySDG編集部:名刺入れは、色もデザインもとてもシンプルでジェンダーレスなイメージですね。

中川さん:メインのアースカラーは渋さが特徴で、性別や年代問わず持っていただけます。新色のブラックは廃棄石炭から染色しています。エシカルに関心がある方は30〜40代の女性が多いのですが、エシカルとは縁遠い男性にも、日常のビジネスシーンで使っていただけるように、ブラックもリリース予定です。使いやすい名刺入れは、ブランドを目立たせるより、極力シンプルにロゴも素押し。傾けるとうっすら文字が見える程度にしました。製品を手に取ってよく見ると、個体差があったり、繊維のばらつきがあったり、100%自然由来ならではの個性を楽しんでいただけるのではないかなと思っています。

mySDG編集部:今後、BtoBへの販路はお考えですか?

中川さん:はい。各業界からご興味いただいています。サステナビリティの側面からいうと、ファッション業界は製造業に次いで、CO2排出をする業界と言われているので、各社新素材を模索中です。ある企業と共同開発を試みていますが、アパレルの素材となると洗濯に耐えられることが必須です。今の段階では雑貨として堅牢さは十分にありますが、現地と共に耐水性を向上させる研究を進めています。色落ちテストなど、さまざまな課題をクリアした上で、天然原料レザーの耐水性を上げられたら、素晴らしいサステナブルファッションの素材となり得るので、ぜひ実現したいですね。

■見えない背景を保障し、ギルトフリーな選択を

mySDG編集部:「never leather (ネバーレザー)」を通して伝えたいことはありますか?

中川さん:伝えたいことは、廃棄予定だった植物が素晴らしい新素材になるということ。海外ではこうした素材のことを、バイオマテリアル、ヴィーガンレザーなど呼び方はさまざま。しかし私は、環境と動物愛護の要素が伝わりやすいように「プラントベース/植物性レザー」と呼んでいます。しかし、「never leather 」にはもう一つ、エシカルな要素として「人道的な配慮」が含まれています。

現在生産されている安い牛革の裏には、犠牲になっている労働者の方がたくさんいます。インドのスラム街の労働者は、手袋もせずに染料のタンクに素手で手を入れ、大きなローラーのある工場の中を裸足で歩いています。こうした労働者は未だに何万人といるんです。Informal Economy(インフォーマル経済:法令上または慣行上、公式な取決めの適用を受けていない、または十分に適用を受けていない労働者及び経済単位によるすべての経済活動)です。

彼らは平均寿命も短く、常にガスを吸うので肺も壊しやすい傾向にあるのですが、経済的な理由で医療機関を利用できません。インドから来ている安価な本革はこのようにして生産され、タラビで鞣(なめ)されている革の輸出先は日本とバンコクが多いようです。やはり、他人事ではありません。その革はどこから来たのか、大きなピラミッドの下、声なき声の犠牲の上に成り立っています。
それを実際私は見ているので、本当にクリーンで環境負荷もなく、廃棄農産物からできている製品が私の中で今のベストアンサー。このココナッツレーザーを普及させたい思いがあります。「アンフェアトレード」がまだまだ多い中、おしゃれで環境によく、作る人にも使う人にも心地がいいものって、とても難しいんですけど、あえてそこを保証するものだけを世に出していきたいという思いが強い。

もし、認証マークだけでは不安を拭えないなら、エシカリージャパンを信じてもらえば、見えない部分のクリーンさは保証していますので、安心してギルトフリーな(罪悪感の無い)お買い物を楽しんで欲しいと思います。

mySDG編集部:広がって欲しいSDGs活動はありますか?

中川さん:SDGsの意識の高まりから、製品の製造過程やゴミとして捨てた後の環境負荷などを想像する人が増えていると思っています。さらに捨てない方法など、生活レベルでの工夫もあるのではないでしょうか。
ココナッツレザーは、ご自宅で簡単にコンポストできるので、生ごみだけでなくレザーも堆肥化して、土の有機的なサイクルを体感して欲しいと思います。私の方でも、使い終わって返送いただいた製品を責任をもってコンポストしたり、畑で土に還すワークショップなどをして、使い終わったら終了ではなく、その後の自然との関わりも意識してもらえるようにしていきたいと思ってます。

mySDG編集部:今後の展望を教えてください。

中川さん:「never leather 」は新しい素材を使ったブランドなので、多くの方に知っていただきたい。これからオンラインショップやセレクトショップ、百貨店などでのお取り扱いを増やしていきたいです。
日本以外でも、エシカルの意識はすごく高まっていて、アジア諸国のバイヤーさんからもお声がかかります。今後は日本だけではなく、こうしたアジア近隣の諸国にもお届けできるよう体制を整えていき、made in India・made in Japanの大きなサイクルを作れたらと思っています。


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