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【取材記事】アートを通して廃棄物に価値を与える 環境問題をクリエイティブに立ち向かう

環境問題のソリューションのひとつとして「アート」という手段を用いて、廃棄物に新しい価値を与える——。サステナビリティを文化・芸術の方向から光を当て、自然と人との持続可能性を探るのが、山口県周南市にて廃棄物処理事業を展開する株式会社中特ホールディングスです。

2021年から新たな試みとして、廃棄物を用いた現代アート公募「COIL Upcycle Art Contest」を開始。2023年にはアートを起点にサステナブ ルな文化醸成を目指す事業を立ち上げ、アートとカルチャーを介したサステナブルな社会の風土づくりに取り組んでいます。本年度からは、名称を新たに「ACTA+(アクタプラス)」へとアップデートし、1月には新たに「廃棄物から出来たものだけを販売する」オンラインストアをオープンしました。

今回は、「ACTA+」でクリエイティブディレクターをつとめる橋本季和子さんに、アートを起点に事業を立ち上げた背景や活動を通して伝えたいメッセージについてお話を伺いました。

【お話を伺った方】

橋本季和子(はしもと・きわこ)さん
ACTA+共同創業者/廃棄物処理企業を家業にもつデザイナーとして、クリエイティブディレションやプロデュースを行う。海外にて建築やデザイン、アート事業などを経験。国内外のさまざまな空間デザイン・クリエイティブディレクションに寄与。中特ホールディングスのオープンイノベーションを目的としたプロジェクト(COIL Upcycle Art Contestなど)の企画・運営を複数実施。


■「アート」によって見えないものに想像力を働かせる

「COIL Upcycle Art Contest 2023」入選作品、記憶の記念碑/西村卓

mySDG編集部:ACTA+は、廃棄物処理事業を展開する中特ホールディングスから立ち上がった事業とのこと。立ち上げの背景について教えてください。

橋本さん:中特ホールディングスは、これまで山口県を中心に廃棄物の収集・運搬・リサイクル等の環境関連サービスを展開してきました。しかし未来を考えたとき、会社としてやらなければならないのは、廃棄物を減らし、有効活用していくこと。これらの新しい取り組みに対してどう動いていくかを考えたとき、たどり着いたのが「アート」でした。

当初は社内の仲間たちと、アートを起点に廃棄物の価値や存在を問いていこうという動きから始まったもの。それが、「COIL Upcycle Art Contest」という廃棄アート作品を公募・表彰するコンテストを立ち上げたことをきっかけに、2023年事業化に至りました。

mySDG編集部:廃棄物を減らし、有効活用していくための手段としてアートを選んだ大きな理由はどんな点でしょうか?

橋本さん:資本主義のもと、サステナビリティが後回しにされがちな今の世の中では、消費者として、モノを使い、捨てたあとはもうそれは自分に関係ないことのように感じることが多いのが現状です。大量生産・大量消費がさまざまな環境問題を引き起こしているけれど、便利な暮らしを当たり前に享受している私たちにとって、自分たちの行動がどれだけ地球に多くのインパクトを与えているかを実感することは簡単なことではありません。そういった自分たちの見えないところにも想像を働かせながら、今の社会の在り方に対して疑問や批判の視点を養うためにアートの存在は必要なんじゃないかと思ったんです。つまり、アートを介したサステナブルな文化の創造をACTA+は目指しています。

■廃棄アートを通して、サステナビリティを思考する

「COIL Upcycle Art Contest 2023」グランプリ作品 やおよろず / imoco  (害獣駆除された鹿などの野生動物の皮を使用した作品)

mySDG編集部:今回プレスリリースに掲載された「COIL Upcycle Art Contest2023」の入選作品を拝見しました。廃棄アートと聞くと、失礼ながら荒削りな作品が多いのかなと想像していたのですが、現代的でコンセプチュアルな素晴らしい作品ばかりで驚きました。作品を公募するにあたり、仕組みづくりをされたのでしょうか?

全国100件以上の応募の中から入選した7名の公開プレゼンテーション及び審査を実施

橋本さん:そうですね。当初はCSRの観点から始めた活動だったのですが、始める時から、CSRで終わらせることなく、社会にインパクトを残すためのビジネスとして発展させていくというビジョンを明確に掲げていました。だからこそ社会に共感や感動をもたらすアートへの探究には並々ならぬこだわりを持っています。人の心や社会の雰囲気を動かせるアートを発表しなければ意味がないだろうと。そのため、事前に作家さんをリサーチして、コンテストへの参加を一人一人お声がけしていきました。結果、3年間で350名を超える作家さんに関わっていただき、多くの素晴らしい作品とも巡り合うことができました。

「COIL Upcycle Art Contest 2023」準グランプリ作品 行為の気配/小畑亮平 
捨てられていた缶やペットボトルをシリコンで形づくり、捨てられていた場所で撮られた写真と同時に展示

mySDG編集部:ACTA+独自の「廃棄アート」の世界観を構築する中で、意識したポイントはどんな点ですか?

橋本さん:私たちは現代アートに絞って作品を募っているのですが、それは現代アートが作品を通して思考や対話を自由に楽しめるものだと考えているからです。作品のコンセプト一つから対話が深まるといいますか。鑑賞者が作品を介して作者の思いと交差させることができるのはすごく面白いことですよね。作者の伝えたいことが鑑賞者に絶対伝わらなければならないというのではなく、自由度があっていいし、むしろ対話を誘発することで世の中に考えるきっかけを与えようというところから、私たちの活動はスタートしています。

作家さんたちに対しても、作り上げる世界観をともに議論し、対話を重ねることを意識しています。彼らには作品を通して明確に表現したい思いがあるからこそ、その考えや表現方法を尊重した上で、彼らのメッセージがいかに多くの方々に届けられるかに私たちは注力しています。

■廃棄物から生み出されたものが売買される世界観

mySDG編集部:ACTA+の取り組みの中でも特に伝えたい活動はありますか?

橋本さん:はい、2024年2月1️日に“廃棄物から生み出されたものだけ”を販売するオンラインストアをリリースしました。廃棄物を活用した商品のみを扱うオンラインストアは日本において前例のないことだと思いますので、新しい価値を提供できるチャンスだと考えています。

mySDG編集部:プラットフォームを作った目的や背景についてくわしくお聞かせください。

橋本さん:私たちのミッションは「サステナブルな文化を醸成する」です。そのミッションを達成する上で、同じく「廃棄物という言葉をなくしていく」ということを重要視しています。サステナブルな風土を実現させていくためには、廃棄物が完全に資源として扱われなければいけません。しかし、まだそこには至っていない現状がある中で、まず第一歩目のソリューションとして「アート作品の素材として活用する」ことを実践しています。

とは言っても、アートに廃棄物を使用しているだけではあまり意味がないと思っていて、私たちはそのアートをきっかけに社会でより多くの対話を生み出そうという試みを行なっています。それは例えば、使用されている廃棄物の発生理由や、その背景にどんな私たちの暮らしが紐づいているか、といったことをアーティストや鑑賞者のみんなで考え、対話をしていくようなイメージです。廃棄物を大量に発生させているのは間違いなく私たち人間の営みが起因しているので、アートを起点により多くの人が廃棄物の持つストーリーを知ってもらえたら意識が芽生え、その意識がやがて私たちの文化として根付くのだと思っています。その一歩として、今回オンラインストアをオープンしました。

mySDG編集部:このようなプラットフォームを通して社会にどんなインパクトを残したいとお考えですか?

橋本さん:廃棄物という「捨てられたもの」から生み出されたものが資本主義社会の中で価値を認められ、売買されるという世界観を社会に打ち出していきたいです。廃棄物という言葉がなくなる世界観の実現、そして廃棄物から生まれたアートが表現する文化や世界観を人々が憧れ、追い求める社会の形成を目指しています。

■廃棄物を起点とした思考的なインフラを目指す

mySDG編集部:これまでのお話をうかがって感じたのは、アートを通して普段は目を背けている現実と向き合い、社会のあり方を問うきっかけをもたらしてくれるように思います。

橋本さん:そうですね。環境問題は差し迫った問題となっていて、その原因のひとつでもある大量生産・大量消費の社会を生きている私たちは、自分の頭で考え、物事を選択していくような主体性のある生き方がこれから求められていきます。しかし物事をどう考え、行動すべきかといった難しい話題はなかなか好まれないので、私たちの取り組みとしては、お買い物に行って気に入った商品を手に取るような感覚で、廃棄物を活用した商品を気軽に買える世界観が作れたらと思っています。そうしたことがサステナブルな社会とは何かを考え、行動を変えるきっかけになればと。そして社会課題に対するひとつのソリューションとして、アートを起点にサステナブルな文化を社会に根付かせていきたいです。

mySDG編集部:最後に今後の展望をお聞かせください。

橋本さん:廃棄物の問題は日本に限られたことではなくて、人類全体の問題です。そのため今後はアートという、どの国でも、どんな民族でも鑑賞できる媒体を使って、日本から世界に発信を広げていくことを目標にしています。そして廃棄物を起点とした思考的なインフラになることを目指して、少しずつチャレンジを続けていきたいと思っています。


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