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人の手を通して物語を伝える「身近な本屋さん」を目指して【修了生インタビュー】

移動する絵本屋さん「星のかけら」を運営されている下田 理愛さん。行動力を活かして順調に活動を進めながらも、今後の事業展開に悩みを感じていたことから、「MyWorkわたしのしごとプロジェクト」に参加されました。

プロジェクトの受講を通して、たくさんの変化やアイデアの幅が広がったとお話しされる下田さん。「移動する本屋さん」だからこそできることも考えはじめ、さらに大きく夢は広がっています。

家庭とのバランスを考えながら、絵本屋さんを運営することになったきっかけや本屋さんとして大切にされていること、そして受講して見えてきた夢や目標をお聞きしました。

MyWorkは移動する絵本屋さんをつくること

__下田さんのMy Workを教えてください。

2021年から、移動する絵本屋さん「星のかけら」を運営しています。本を貸し出しではなく販売することで、おうちにずっと置いてもらいたいと思っていて。「家の中に本がある」という目に見える場所に本がある環境が、気軽に本に触れるきっかけになると思うんです。

絵本は、生まれてから人が初めて出会う本です。絵や言葉があって……、絵本って総合芸術なんですよね。

そんな初めて出会う本だからこそ、子どもの成長段階に適した本を、慎重に選ぶ必要があるんじゃないかと思っています。真剣に子どものことを考えて作られた絵本を、限られた時間の中で読んでもらいたい。充実した読書体験を積んでもらいたい。そういう思いで、絵本屋さんの運営を始めました。子どもたちに、良い絵本に出会ってもらいたいといつも考えています。

__なぜ本屋さんを開きたいと思ったのですか?

子どもが生まれて絵本を選ぶために、本屋さんに行っていろいろな絵本を見ても、どれを選んだらいいのかわからなくて......。選んでも、「これでいいのかな」という思いが自分の中にありました。

そんなときに鳥取市の児童書専門店に出会い、いろいろと教えてもらいながら絵本を選びました。すると、子どもの反応が全然違ったんです。本に触ろうとするし、絵を見て何かを伝えようとしていたんですね。子どものことを考えて作られた絵本の魅力に感動しました。

そういった体験から、こういう素敵な本をすぐに手に取れる環境を作れたら、という思いが湧いてきました。

その頃は「何か事業を始めようか」「子どもと一緒に楽しめることはないかな?」と考えていた時期でもありました。もともと本が好きだったこともあって、絵本屋さんを開くことにつながっていったんです。

実は、本屋さんが少なくなってきていることも、私の中で1つの問題だと感じています。スマホだと自分の興味や考えにあった情報だけが出てきますよね。考え方が限定的で固定されてしまうのでは......と感じていて。心地良い情報、心地良くない情報どちらであっても、この世界しかないというふうに考えに固執しやすく、偏ってしまうような気がしています。

本屋さんなら、いろんなジャンルの本が置いてある。本屋さんがあることで世界が広がっていきますよね。

__移動する絵本屋さんにされたのは、なぜですか?

本屋さんをやりたいと思いはじめてから、自分にできることを探してみたら、現状では店舗をもつことは難しかったんです。車なら冊数は限られてしまうけど、「できるかもしれない」、「やらないよりはやってみてから考えたい」と思い、移動する絵本屋さんをスタートさせました。

また、子どもとの生活もあるので、この形態が今の自分に合った働き方でした。本当はたくさんの本を、ずらーっと並べたいという思いもあるんですけどね。今は、この状況だからこそできることがある、得られるものがあると思うので、結果オーライと感じています。

お客さんにとっても、子連れでのお出かけは大変なこともあると思うんです。でも、例えばイベントでの出店の場合キッチンカーと並んで出店すれば、絵本にアクセスしやすくて、子連れのお客さんも親子で楽しみながら絵本を選ぶことができます。

プロジェクトを通して、自分の軸やミッションが明確になった

__すでに活動を開始されている中で、「MyWorkわたしのしごとプロジェクト」に参加した理由を教えてください。

活動を開始してから、これまでいろいろなことにチャレンジしてきました。鳥取市を中心に、公園やイベント、レンタルスペースなどで出店してみたり、友人と絵本カフェを開いたりしたこともあります。

それぞれの活動は充実していたものの、周知がいまひとつ進まないという感覚がありました。もっといろんな人に本を手に取ってもらいたいけど、自分の中にはアイデアもコネクションもないと感じていたんです。いろんな場所で行われている相談会などにも行きましたが、自分の事業にしっくりくる解決策になかなか出会えなくて、煮詰まってきていました。

そんな時、このプロジェクトを知り、「プロジェクトに参加することでいろんな繋がりもできるかもしれない」「もっと本の魅力を伝える工夫ができるんじゃないかな」と思い、参加しました。

__プロジェクトに参加して、変化はありましたか?

受講生同士での会話や、佐々木 よしみさん(プロジェクトの企画運営を担う「合同会社cocoto」代表)とお話しする中で、自分では気づけなかったようなアイデアをたくさんもらいました。どのようにして多くの人に知ってもらえばいいのか、どうすれば多くの人に本を手に取ってもらえるのか。そういったアイデアの幅がすごく広がりました。大きく飛躍できそうだなという喜びを感じています。

このプロジェクトのように、自分の事業について誰かに相談することや、意見交換できる機会ってなかなかないんです。参加する以前は、生活と事業のバランスをとりながら自分のペースで進めていく方法や、事業を続けるための軸を見つけられていなかったんですね。なので、プロジェクトの内容はとても身になりました。

また、文章を書くことに苦手意識があったので、「広報・情報発信講座」もとても参考になりました。硬くなり過ぎず、ラフ過ぎず、自分の伝えたいことを伝える方法を学べました。本の紹介文を書いたり、広報活動をしたりするときに活かしたいです。

__どのような軸が見つかりましたか?

私自身、本は絵本に限らずいろいろなものを読むので、もっとおすすめしたいものがあるけれど、販売するのは絵本でなければいけないという思い込みに縛られていました。でも、佐々木さんの「自分のやりたいを見つける・言葉にする講座」の「軸を立てる」というお話しの中で、自分のミッションはどこにあるのかを考えることができ、そこからブレなければ、やりたいことに挑戦してもいいというふうに背中を押してもらいました。

今では、病院などの「本を手に取ることが難しい人のところへ本を届ける方法」を考えて、実践したいと思っています。そういった施設へ絵本に限らずいろんな種類の書籍を届けることができるように、これから動き出そうと思っているところです。

人から人へ、絵本を届ける。そして、手渡すときの物語をそこに

__今後の夢や目標はどんなことですか?

身近な本屋さんと言えば「星のかけら」と言われる存在になりたいです。

「身近な」というと固定の店舗でなければいけないかなという思いも自分の中にありましたが「移動する本屋さん」だからこそできることもあるはずです。

本屋さんになることがもともとの夢だったけど、実際になってみると叶えたという実感はまだなくて、「夢の途中」という感じがしています。今できることにどんどんチャレンジしていきたいですね。

今は鳥取市での出店が多いですが、いろんな地域に行ってみたいなとも思っています。

__最後に、下田さんが絵本屋さんで一番大事にしていることを教えてください。

「本を手渡すこと」です。本を家に置いていてほしいという思いがあるのですが、それだけでなく、本を手に取るときには人の手を通して届けたいという思いを強く持っているんです。

その本は何を伝えたいのか、どんな作者なのか......、本をただ売り買いするだけでなく、手にするときに物語が生まれたらいいなと思っていて。本を手に取ったときの思い出を、一緒にお渡ししたい。なので、お店に来られた人とはなるべく会話をして、「おうちで楽しんで読んでくださいね」と一言添えて本をお渡ししたいと思っています。

人が本を求める時には、この本には「気持ちを晴れやかにするものがあったらいいな」という潜在的な思いがあるのではないかと感じています。その人が求めているものに出会うお手伝いをしたいし、それがきっかけになって一人ひとりの新しい物語に繋がっていけばと願っています。

下田さんのお話を伺う中で、絵本への愛情がどんどん溢れ出すのを感じました。そしてそこには、人に対する愛があることも伝わってきます。

「鳥取の人たちは、私の活動を遠巻きに見るのではなく「これ何ですか?」と近くに来てくださって。人のあたたかさに元気をもらっています」とお話しする下田さんは、県外から引っ越してこられたそうです。鳥取県に素敵な方が来てくれたことを嬉しく思います。

本を通して、人の居場所を作り人の心に大事なものを届けてくれる下田さん。お店に足を運べば、本を買うだけではなく、大切な思い出ももらえるという素敵な体験ができるに違いありません。


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