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問題提起の女王 -おーえるさん- <後編>

印象的だったテーマ2 縷縷夢兎選抜の意味

ミスiD2019ファイナリストのおーえるさんが提示した問題のうち、もう一つ印象的だったものが、縷縷夢兎選抜の是非だ。

ミスiDの結果発表が行われる「ミスiDフェス」では、授賞式の後、選考委員の東佳苗さんが展開するファッションブランド「縷縷夢兎」のファッションショーが行われる。このショーに出演できるのは、ファイナリストの中から東さんに選ばれた7~10人程度(年によって変動あり)。この「縷縷夢兎選抜」メンバーは、他の受賞者と同様、当日になるまで明かされない。

おーえるさんは、自身のブログで、「私はこの事をルッキズムの『選別』だと感じている」と述べた。
見た目が美しい人は縷縷夢兎を着せてもらえて、そうでない人は賞をもらえたとしても縷縷夢兎を着られない。その状況に対して劣等感を抱いてしまうという、率直な気持ちが綴られていた。

おーえる放浪記「私はきっと縷縷夢兎を着せてもらえないだろう。」:
http://unkosinagarayomubunshou.hatenablog.com/entry/2018/08/23/041510

学生時代、見た目が整っている子がスクールカーストの上位から見下してくることに苦しめられたというエピソードには、私も共感した。容姿という生まれ持ったもので人間の価値が決まってしまうなんて理不尽である。

校則でメイクは禁止されているし、中学・高校だと制服があって自分で服を選べないわけだから、メイクやファッションで自分を美しく見せるという選択肢はない。みんなが同じ制服を着ていることで、足の長さや顔の大きさなどの身体的特徴が比べられやすくなってしまう点も残酷だ。あのおかしなヒエラルキーの中で、可能性を潰された人も沢山いるだろうと思う。

しかし私は、こういったルッキズムの「選別」と、ミスiDの縷縷夢兎選抜は、性質が違うと思う。
私は縷縷夢兎選抜を、かわいい子をちやほやするためのプログラムではなく、見た目を商売道具にして生きてゆくことを選んだファイナリストの中で可能性を感じさせる子を後押しする儀式だと理解している。

世の中には、モデルやアイドルなど、「可愛い」「美人」という評価をもらえなければ仕事にならない職種が存在する。意地悪な言い方をすれば、ルッキズムのお陰で生活していける女性たちがいる。
もちろんこういう人たちを生み出しているのは、「美しい人間を見たい」と思っている私たちなので、彼女らには何の罪もない。むしろ私たちの欲求を満たしてくれるありがたい存在である。私はこういう人たちを「職業美人」と呼んでいる。

ミスiDには、グランプリを獲れば雑誌の専属モデルになれるといったような、今後の活動を保証する制度は何もない。だからその埋め合わせに、職業美人を志していて、見た目の美しさで誰かを幸せにできそうな子のために縷縷夢兎選抜を用意することで、「選考委員は彼女たちの美しさを保証します(から仕事を振ってあげて)」というメッセージを業界全体に送っているのではないかと考える。
縷縷夢兎選抜の選考では、容姿が整っているかどうかももちろんあるだろうが、見た目を商売道具にする人生を選んでいるかどうかも見られているように感じる。

参考までに去年の縷縷夢兎選抜を見てみると(敬称略)、

ろるらり(GP):被写体・モデル
やね:モデル
リオ:バーレスクダンサー
新倉のあ:アイドル
戸田真琴:AV女優
ほのかりん:シンガーソングライター
美鈴:被写体・モデル
藍染カレン:アイドル
正本レイラ:モデル
つぶら:被写体・モデル(グラビア)
早川実季:モデル・ゲーム

モデルやアイドル(志望者も含む)など、職業美人が多い。何になりたいのかはっきり言わなかった一般の女子高生などはいない(そういう子たちの中にも美人はいたけど)。
※ただ、唯一説明がつかないのが、ほのかりんさん。シンガーソングライターに見た目は関係ないはずなのだが…?

恐らくモデルやアイドルの世界は、競争の激しい過酷な場所なのだと思う。代わりはいくらでもいて、ある程度若いうちに結果を出せないと生き残ってゆけないのではないか。
しかも、可愛さや美しさは、数値化して比べられるものではない。「TOEICスコア〇点」みたいに分かりやすくアピールできない。有名な人に褒めてもらうとか、実績のあるデザイナーにモデルとして起用してもらうといったようなお墨付きがないと、美人かもしれないけど決め手に欠ける人材として埋もれてしまうのではないだろうか。
こういう世界に生きる女の子たちにとって、履歴書に「ミスiD2019縷縷夢兎選抜」と書けることは、間違いなく心強いだろう。その価値は多分、おーえるさんにとっての「中国語検定〇級」などに匹敵すると思う。

なので、文章力とか面白さとか芸術的センスとか優しさとか、見た目以外のことで勝負しようとしている人は、縷縷夢兎選抜に入れなかったとしても必要以上に落ち込まなくていいのではないか。
ファッションショーという空間では、見た目を認めてもらえなければ生活していけない人たちに花を持たせてあげてもいいのではないかと私は考えるが、どうだろう。やっぱり納得いかない?

遥かなる女女苑

私が特に考えさせられたテーマ2つについて書いてみたところ、かなり頭を使った。この原稿はモスバーガーで書いていたのだが、考えすぎて糖分が足りなくなり、玄米フレークシェイク(コーヒー味・小)を追加で注文してしまった。
おーえるさんが本気で考えて言葉にしたことに向き合うのは、かなりエネルギーを要することだが、結果的に今の日本社会を女として生きることについて深く考える機会を得られたと思う。
彼女のような人が一人いることで、ミスiDがただのミスコン以上の何かに昇華された気がする。

(なお、おーえるさんに触発され、写真家の荒木経惟が元モデルの女性に告発されたことについても自分のブログに書いた。長文です:
http://donichishukujitsu.blogspot.com/2018/10/kaori.html)

彼女が2回開催したフード&トークイベント「女女苑」も行きたかったのだが、生活圏が神奈川および東京西側の私にとって平日の終業後に江古田まで行くのは厳しかったため、断念した。焼肉屋「叙々苑」を意識したっぽいネーミングが素晴らしいなーと思う。真面目でありつつ笑いを求める心もちゃんとあって素敵。

フェスでお会いできるのを、楽しみにしております。
手相占いって、やってもらえるのだろうか。

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