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ピンボケした議論

はじめに

岸田内閣が特別職の公務員の給与を増額する法案が可決されました。この法案について、国民に負担を強いるのにも関わらず、自分たちは懐を温めるのかと批判されています。最近の岸田内閣の迷走ぶりを見ているとそう言われてもおかしくありません。しかし、こういった批判は的外れで何の意味のない批判です。今回はなぜ、このタイミングで特別職の公務員の給与増額をしたのかについて書いていきます。

法律が大事な公務員

まず、公務員には特別職と一般職が存在します。特別職は裁判所職員、国会職員、国会議員、防衛省職員などが含まれます。詳しくは国家公務員法第2条に規定されています。

(一般職及び特別職)
第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
② 一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。
③ 特別職は、次に掲げる職員の職とする。
一 内閣総理大臣
二 国務大臣
三 人事官及び検査官
四 内閣法制局長官
五 内閣官房副長官
五の二 内閣危機管理監
五の三 国家安全保障局長
五の四 内閣官房副長官補、内閣広報官及び内閣情報官
六 内閣総理大臣補佐官
七 副大臣
七の二 大臣政務官
七の三 大臣補佐官
七の四 デジタル監
八 内閣総理大臣秘書官及び国務大臣秘書官並びに特別職たる機関の長の秘書官のうち人事院規則で指定するもの
九 就任について選挙によることを必要とし、あるいは国会の両院又は一院の議決又は同意によることを必要とする職員
十 宮内庁長官、侍従長、東宮大夫、式部官長及び侍従次長並びに法律又は人事院規則で指定する宮内庁のその他の職員
十一 特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表、全権委員、政府代表又は全権委員の代理並びに特派大使、政府代表又は全権委員の顧問及び随員
十一の二 日本ユネスコ国内委員会の委員
十二 日本学士院会員
十二の二 日本学術会議会員
十三 裁判官及びその他の裁判所職員
十四 国会職員
十五 国会議員の秘書
十六 防衛省の職員(防衛省に置かれる合議制の機関で防衛省設置法(昭和二十九年法律第百六十四号)第四十一条の政令で定めるものの委員及び同法第四条第一項第二十四号又は第二十五号に掲げる事務に従事する職員で同法第四十一条の政令で定めるもののうち、人事院規則で指定するものを除く。)
十七 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人(以下「行政執行法人」という。)の役員
④ この法律の規定は、一般職に属するすべての職(以下その職を官職といい、その職を占める者を職員という。)に、これを適用する。人事院は、ある職が、国家公務員の職に属するかどうか及び本条に規定する一般職に属するか特別職に属するかを決定する権限を有する。
⑤ この法律の規定は、この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り、特別職に属する職には、これを適用しない。
⑥ 政府は、一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払つてはならない。
⑦ 前項の規定は、政府又はその機関と外国人の間に、個人的基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。

国家公務員法第2条

それ以外の公務員を一般職公務員と呼び、官僚と呼ばれている人や各省庁で務められている人が一般職公務員に該当します。国会議員という言葉はないものの、3項9号の「就任について選挙によることを必要とし、あるいは国会の両院又は一院の議決又は同意によることを必要とする職員」が国会議員になります。公務員は一般職と特別職を含めた言い方となります。そして、国会法第35条で一般職の公務員より高い給与をもらうことが決められています。一般職の公務員の給与は人事院という組織は決めており、それを人事院勧告と言います。ちなみにですが、人事院勧告の基準は民間企業の給与水準で、次官クラスになれば別ですが、民間と一般職の公務員で大きな乖離があるというのは嘘です。

第三十五条 議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける。

国会法第35条

この法律を見て、脊髄反射的に政治家は自らの利益のことしか考えていない不逞の輩と思われた方、それは間違いです。政治家のような公務員は地位の安定性も労働時間の制限もありません。それに対して一般職の公務員を解雇すること(懲戒を除く)は禁止されていて、地位が安定します。議員の報酬(歳費)は選挙での当落リスクと無制限の労働時間が考慮された結果、このような規定になっていると考えるのが妥当です。
政治家の仕事は自らの決断に責任を持つことと法律を制定させることです。一般職の公務員はその法律に従い、淡々と仕事をこなすのです。責任の重さや地位の不安定さを考えると政治家はかなり美味しい仕事ではありません。ですが、偏った報道と知識のせいで、歪んだイメージが作り上げられ、公務員は悪者にされています。公務員について以前書いているので、そちらも併せて読んでいただけると嬉しいです。



少し横道に逸れましたが、国会法の規定が示すように国会議員の歳費を上げないと一般職の公務員の給与を上げることはできません。今回の改正は人事院勧告により一般職の公務員の給与を上げたことに伴う賃上げです。政府が賃上げ促進をうたっているのに、公務員の賃上げがスムーズにできなければ示しが付かないのも事実で、公務員から率先していると考えるべきだと思います。

外部から人がほしい

この改正法案で政府がしたいことは外部から人を呼ぼうとしているのではないかということです。これはあくまでも僕の推測ですが、専門家対策ではないかと考えています。専門家を政府は呼ぼうとしていますが、他の引き抜き先より報酬が低いので、あまり人が集まりません。優秀な人は民間へ流れ、そして外国へ流れてしまいます。その流れを食い止めるための改正ではないかとも考えられます。
今の日本はデジタル化が遅れており、デジタル化を進めることは急務ですし、研究開発力も落ちています。日本でそういったことに携わっている人は報酬の高いところへ流れていくのは当然のことで、よっぽど熱い気持ちがない限り、安い報酬で引き受けようとは思いません。日本は今直面している課題の中に、優秀な人材の海外流出があり、日本の技術が外国に流れています。外国へ行かずに日本に留まってもらうために、今回の改正がなされたと考えます。
では、総理大臣の給与と専門家の引き留めにどういう関係があるかと思われるかもしれません。総理大臣が公務員で一番多く給与をもらっており、政府の専門家がそれを上回ることはできません。しかし、それが民間であれば上限はなく、いくらでも出せます。政府のような公的組織は法律によって動く組織で法律や規律を自らが破るようなことはしませんし、できません。専門家の世界に民間も公も国境もなく、高い水準の報酬を提示できれば、それに越したことはありません。

なので、今回の改正は総理大臣などの私腹を肥やすといったものではなく、賃上げの一環と優秀な人材の取り込みと考えるべきではないでしょうか?日本の政府の専門家への報酬は他国と比べて低いのが現状です。それを改善することも政府の大事な仕事の1つです。わけのわからない批判は自らの首を絞めるだけです。

最後に

公務員批判は昔からあるもので、公務員はサボっていても給与がもらえて、民間ではそんなことは許されないという単純な理論で構成されていますが、民間もサボっている人はいますし、公務員でも熱心に働いている人はいます。公務員や政治家の利益誘導だけで政治が動いていると本気で思うのであれば、そういったことを実践している北朝鮮へ移住してみてください。日本がそうでもないことに気付きます。公務員の給与の決定方法や上限が定められていることはそこまで知られていません。安易な国会議員の給与を減らせという意見は公務員を劣悪な環境で働かせろと言っていることになります。優秀な人材を逃してしまい、回りまわって日本にとって大きな損失を与えることになります。こういった仕組みを理解せずに感情論だけで物を言っていては良い方向に向かうわけがありません。ただ、それを口実に増税をされたら、たまったものではないですが、、、、

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