【詩】機械化


おはようございます。本日の製造数は956個です。昨日は不良品が一つ出てしまったので気を引き締めて業務に当たってください。それでは社是唱和!……!……!……!本日もよろしくお願いします。

俺は会社のロボットだ 周りを見渡すと同じ服装をしたロボットで一杯だ
各々が定位置に着く 白く無駄のない部屋が照明で明るい 我々は夜を克服したと誇らしげだ
目は画面になり頭は指示を遂行する 腕はアームになり物を持ち上げる  足はベルトコンベアになり物を運ぶ  心だけが黙らずに喋り続けている  作業の邪魔だ
ピンポンパンポーン「皆さんお疲れ様です。本日も安全第一でよろしくお願いします。……」一字一句を暗誦でもさせたいのか合成音声が反復する。反復するように作業を流す。AからBへ AからBへ AからBへ AからBへ……
いつになったらCへと進めるのだろう いつになったら明日が来るのだろう 今日は昨日で昨日は明日?
時間の流れがいやに遅い 「遅いよもっと早くやって。みんな出来てるよ」 早く速く疾く 次へ…!
ロボットに疲れはいらない 失敗はいらない 個性はいらない 感情はいらない 壊れたら次へ
疲れた体に同情して心が苦しいと訴えている 作業の邪魔だ 早く終われせないといけない 就業時間中は会社のロボットになる契約書を交わしている 早く終われせないといけない 早く速く疾く 次へ…!
AからBへ AからBへ AからBへ AからBへ……

指示書がどんどん画面に流れてくる 「これAIが自動で流しているらしいよ」
かつてはAIに仕事が奪われると話題になっていたが 今では確かに一部の人の仕事が奪われて 一部の人はその道具になった 完全に機械仕掛けのロボットを作るより人をロボット化して使ったほうが安価で簡単に手に入る 金をそれなりに提示するだけだ

忙しい作業に掛かり切りで心も喋る余裕をなくしている 黙ったら本当の機械になる日は近い 仕事を立派にこなす人間になるつもりが 鉄のYESマンロボットにでもなるつもりか
ほんの小さな隙間から心が顔を出す 息苦しいよ
広大無辺の闇のような 突き抜けた空のような心が 白く無駄のない部屋の規格品に押し込められて泣いている
出してよ 痛いよ 苦しいよ
作業から一呼吸離れて心に触れる うん 俺も苦しい 俺らはまだ人であるらしい
不完全で 規格外品で B級品で 不良品 それでいて完全な命 それが人だろう


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