【詩】大人になれた

大人に憧れた
子供の頃に憧れたミュージシャンは自由に見えた。好きな音楽を鳴らして、好きに楽しそうに生きているように映った。音は心を動かした。俺もそんな風に成りたいと思ってギターを手にした。今にして思えばあの人達は、大人と言うよりは、自分に成って行ったんだな。

大人に成れた?
そもそも大人ってなんだ?
「大人なんだから」と、シケた顔の、黒スーツの表情を欠いた目の、嘘くさい丁寧な口調で、諭すように、憐れむように言ってくる奴らのことか?それが本当に大人だと言うのなら、もっと楽しそうにしていてくれよ。

数字だけは一人歩きをして大人と言われる線を跨いだ。ただそれだけで大人だとは思わない。大人に成りたいのかと問われれば、そんな称号はいらない。ただ誰にも邪魔されることなく巣箱を飛びったって青空に行きたかっただけ。今も楽しいことが好きで遊んでいたいだけだ。

大人に慣れた
毎日の労働と金を稼ぐことに喘いで、将来の不安などに目を背けて、一日の疲れをビールで洗い流して忘れるような、いつしか気付かぬうちに俺も大人に成っていた。いつか嫌悪した奴らと同じ生気を欠いた目の、「仕事で忙しいから」と、決まり文句の言い訳で正当化する現状維持。いつかの夢は怠惰に負けているが、このまま変わらずに死んで行くのかと考えると、答えは判りきっている。シケた顔は、その他大勢ですと言う自己紹介。お前が何者なのか見えてこない。

大人を離れた
大人達が創り上げた豊かな社会に感謝しつつ、体と心に着せられたものを見つけて、一つ一つ脱いでいく。血に融け込んで同化したものは取り去れないけれど、生まれたままの裸に戻って行く。いつかの着地点で見た夢を拾い上げる。
湿気た花火と、ガス切れのライターが両手に残った。今からでも着くだろうか。恐る恐る擦ってみるが当たり前のように着かない。俺はこいつを咲かせてみたい。何度も何度も擦って指の血を混ぜろ。

ーー

「ガス切れのライター」
THA BLUE HERBの歌詞から引用。


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