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仕事とギャラと必然性と人工知能

僕はソフトウェア開発系の仕事やテクニカルライティングをしたりしているのだが、仕事を受ける場合は僕のギャラは高い。たぶん一般相場と比較して。だから僕のところにはあまり仕事が来ない。そして僕のギャラの高さを知っているクライアントから仕事が来る場合、それはもうどうにもならない状態になっていることが多い。

一般的に仕事を依頼する場合、発注予算は決まっている。それをいかに少ない金額で満足した結果を得るかが、発注側の技量になる。もっとも難易度が低い仕事や、「誰が作ったって同じようなものができる」仕事では業界的な相場観も決まっていて、値引き余地は少ない。

でも駆け出しの新人や、たまたま予定がぽっかり空いているクリエーターとかが「安い値段でもやりますよー」とか手をあげてくれることもあるので、相場よりも安く発注することは可能だ。でもそういう仕事をしてくれた人は発注側に「この人は普通より安く仕事をしてくれる便利な人」というグループに仕分けされてしまい、それ以降は正規のギャラを貰うことが難しくなる。
「今度、美味しい仕事回すから」と言われても、たぶん美味しい仕事は永久に回ってこない。次の安い仕事が来るだけだ。

そんな風に「俺って安く便利に使われているのではないか?」と警戒し始めたクリエーターとかを口説く常套句が、「XXさんのこと頼りにしてるから」「XXさんしかできないんだよ」とかで、要するにギャラではなくその人が密かに飢えている承認欲求を満たすことで安い仕事をさせているんですよね。

僕はこういう風に仕事を頼まれちゃうと、プロとしてはこの先難しいのでは?と思っている。才能や能力ではなく、低ギャラだけが評価されているからだ。もしもっと安い価格で同じ仕事をしてくれる人がいるなら、そっちに仕事が流れてしまうことになる。

話は変わるが、最近は「人工知能が発達したら、仕事がなくなる人が多くなる」という脅しのような記事を時々見る。これはある意味は正解で、ある意味では不正解だと僕は思う。

奪われてしまう仕事は、ギャラが高くてインプットとアウトプットが楽な仕事。この「ギャラが高い」というのがポイントで、要するに人工知能を開発する工数に見合う仕事が取れるか、という判断基準になる。インプット・アウトプットは人工知能に学習をさせやすいかどうか、ですね。弁護士・会計士・医師・フィナンシャル系とかが将来的に人工知能に取って代わられそう。人工知能は「いろんな情報から事実を掘り出す仕事」にとても向いているからだ。

逆に人工知能が奪わないのは、「開発しても赤字になる」低ギャラの仕事だ。あるいはギャラは高くても需要が低いとか、問題が発生した時に賠償金リスクが大きすぎるとか、要するにトータルでペイしない仕事ですね。こういうのは人工知能うんぬんより、置き換える必然性が低い。弁護士は裁判で負けても仕事がなくなる心配はないので人工知能向きだが、託児所で赤ちゃんが死んでしまったら大変なことになってしまう。タクシーの運転手も人工知能にはならないかも?事故起こした時の損害賠償が怖いから。

僕は個人的に古文書の「くずし文字」を解読する人工知能を作ってみたいのだけど、予算は軽く5000万円(うち学習用のデータ集めと入力に3000万円はかかりそう)。しかも5000万円出して作ったところで、「この古文書をぜひ読んでみたい」「掛け軸に何が書いてあるか知りたい」なんて人はたぶんいないので、大赤字になることが必須。利用率も低そうで、文化的な貢献も望めない。残念ながら。

コンピュータが登場した時、「これで仕事がなくなる人が増えて大変なことになる」と言われたが、実際にはコンピュータ制御のロボットが単純な肉体作業を置き換えたくらいで、逆にコンピュータが登場したことで増えた職種の方が圧倒的に多い。プログラマーとかWebデザイナーとか、ゲーム関係とかね。自動車も同じだ。自動車が登場したことで馬車はなくなったけど、産業全体の土台の拡張に成功して経済は発展した。だから人工知能が登場することで、増える仕事も多くなると僕は思う。

話を元に戻すと、ギャラが高いと分かっている僕のところに来る仕事は、どうしても失敗できない仕事だったり、他の人が「こんな短い期間じゃ無理です」「技術的に無理です」とさじを投げた仕事が多い。あるいは最初は値段の安さから別の業者に発注したが、出来上がったものはボロボロでスポンサーが激怒り中…というトラブル案件も多い。

だから僕のところにくるクライアント(多くの場合は営業さん)は、たいてい雰囲気が暗い。本当なら「楽な仕事を低価格で発注する」のを数をこなして営業成績にしたいのに、1か月以上仕方なくトラブル対応させられているのだから、無理もない。僕に仕事を頼むのが、いやもっと正確には「僕に仕事を頼むしかない状況になってしまった」のが本当にイヤなんだろうなーと思ってしまう。

それで僕はとても高いギャラを要求するけど、受けた仕事は完璧にこなす。「ありがとうございました。でももうこういうキツイ仕事は来ないと思います」とか営業さんは言うのだけど、そういう人のところにはそういう仕事が回ってくる運命なので、僕はニコニコしている。

そしてニコニコしながら心の中で、「そういったトラブル対応があるから、あなたの仕事は人工知能に置き換わらなくて済んでるんですよ~」と言いたくなる。たぶん理解してもらえないだろうけど。


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