あとがき

ここに納められた30の記事は、これまで断片的に書き溜めた文章を編集し、一続きにしたものです。
その企てが成功しているかはともかくも、時代の世相や空気とともに自分の経験を残しておきたいという気持ちが
随所に現れているように感じます。

失明という全く予期しなかった出来事とどう向き合うか、
これは永遠の課題です。
どうして見えなくなってしまったのか、もし見えてさえいればと思ったことは、
これまで数限りなくあります。
あるいはその問いに対する答えを探すために、
文章を書いたと言っても決して過言ではありません。

失明前と失明後を比べたとき、単純な図式では
前者が後者よりもいい時代であると思われがちです。
過去に持っていたものを失ったから、今がつらいのだ、と。
確かにある一面でそれは正しいのですが、
改めて書き留めた文章を読み返して気付くのは、
ことはそう単純でもないということです。
詳しくはそれぞれの記事に譲りますが、
見えていた頃がいい時代どころか、子供ながらにいろいろなオブセッションを抱えながら、
何とかぎりぎり生き抜いていたからこそ、失明の影響がよりいっそう大きかった、
そう言えるような気がしてなりません。

失明後の人生についても文章を書きたかったのですが、
入院生活を終えるところで筆が止まり、そのままになっていました。
まだ失明後を客観視できない事情もありますが、
ここまで書き上げたことで、ある意味では文章を書く目的の大部分は
達成されたからなのではないかとも感じています。

いささか中途半端な形ではありますが、
まずはここまでを一つのまとまりとして筆をおきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

※記事中、現代では使われなくなった用語や差別的表現が含まれている箇所がありますが、当時の時代背景を鑑み、そのまま用いることとしました。
 悪しからずご了承ください。