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【結果報告】恋愛普及幻想について

※ 本記事は高知大学人文社会科学部オープンキャンパスにおける模擬講義「日常と恋愛」で実施された調査体験の結果を報告するものです。

前置き

 2019年8月3日(土)に高知大学人文社会科学部のオープンキャンパスがありました。僭越ながら私は,心理学の模擬講義を担当しました。
 模擬講義のタイトルは「日常と恋愛」。たまたま2019年7月24日に開催された夢ナビで模擬講義を行なっていたため,そのときとほぼ同様の内容の話をしました(夢ナビの講義は以下でご覧になれます,ご興味のある方はどうぞ)。

 内容をかなりざっくり言うと以下の2つです。

恋愛を理解するためには,「日常」との関連の中で「恋愛」を考えていく必要がある
「社会心理」学とは,ある現象を手がかりに,その背後にある人々の日常を捉えて,「心」について考えていく学問である

 概要だけ見ても何を言っているのか意味不明だと思いますが,模擬講義の内容がわからなくても以下で記載する本題はわかりますのでご安心ください。

本題:恋愛普及幻想の説明

 ふだんの講義では講義中に簡単な調査をして,その結果を受講生にフィードバックしています。その体験を模擬講義でもしていただきたいと思ったのですが,模擬講義は当日だけなので結果のフィードバックができません。そこで,本記事で結果をフィードバックすることにしました。もちろんこのことは調査に参加していただいた人に伝えています。

 模擬講義を受けていない人は,いきなり調査結果を説明されても何が何だか分からないと思いますので,まず今回の調査した恋愛普及幻想について説明いたします。

 模擬講義では,「恋愛心理学」において有名な二つの幻想を取り上げました。恋愛普及幻想と恋愛ポジティブ幻想です。

恋愛普及幻想とは「恋愛をすることが標準的だと考え,恋人がいる人を現実よりも多く見積もる」という現象
恋愛ポジティブ幻想とは「恋人がいる人にポジティブなイメージを,いない人にネガティブなイメージを持つ」という現象

 どちらの幻想も若尾(2003)で提案されています。今回は恋愛普及幻想についてだけ書きます。

補足
 ちなみに,「若尾(2003)」とは「若尾先生が2003年に書いた論文」ということを意味します。以下で記載する「(国立社会保障・人口問題研究所, 1997)」も同様の意味です。つまり,国立社会保障・人口問題研究所が1997年に書いた論文(正確には報告書)ということを意味しています。慣れていない人にはこの書き方は読みにくいかもしれませんが,この書き方の方が文章を短く書けるため,この書き方にしています。ご了承ください。

 恋愛普及幻想のポイントは2つ。

1. 恋愛をすることが標準的だと考えること
2.その結果,恋人がいる人を現実よりも多く見積もること

 この2つのポイントを若尾(2003)ではどのように調べているのかを確認します。

1. 恋愛をすることが標準的だと考えること
 「恋愛をすることが標準的だと考える」とはつまり,恋人がいる人が多数派であると推測するということです。そのため,若尾(2003)では,回答者と同年齢の未婚者において恋人がいる人の割合がどの程度であるかを0から100%の間で推測するように求め,この値が50%を超えている場合に,「恋愛をすることが標準的だと考えている」と解釈していました。ちなみに回答者は看護学生50名(男性10名,女性40名)で,平均年齢20.9歳(範囲19-31歳)でした。

2. 恋人がいる人を現実よりも多く見積もること
 ここでいう「現実」とは,全国調査の結果です。すなわち,全国平均でどの程度の人に恋人がいるのかを「現実」の値とし,先の推測の値が「現実」の値を超えているかどうかを調べました。若尾(2003)では,1997年に実際された全国調査(第11回出生動向基本調査,国立社会保障・人口問題研究所, 1997)を基に「現実」の値を算出していましたが,若尾(2006)にて,より若尾(2003)の調査と近い時期に実施された全国調査(第12回出生動向基本調査,国立社会保障・人口問題研究所, 2004)の結果を「現実」の値として比較対象にしていました。ですので,今回はこちらを紹介します。

 それではいよいよ,若尾(2003, 2006)の結果をみてみます。

 まず,「回答者と同年齢の未婚者において恋人がいる人の割合がどの程度であるか」についての結果,つまり,回答者は自分と同年齢の人に恋人がいる割合をどの程度であると推測したか(推測値)についてです。

・女性回答者の推測値の平均値:62.1%(SD = 13.46)
・男性回答者の推測値の平均値:52.8%(SD = 8.66)

 この結果から,男性回答者も女性回答者も,恋人がいる人が多数派であると推測しており,「恋愛をすることが標準的だと考えている」ことが示されました。

 次に,「現実よりも多く見積もっているかどうか」について,「現実」(18-24歳の未婚者で「恋人」がいる者の割合)は女性36.3%,男性24.5%であり,先の推測値を大幅に下回っていました(図1)。すなわち,回答者は,同年代の未婚者において恋人がいる人の割合を「現実」よりも過大視していました。

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図1. 恋人がいる人の割合の現実と推測
(現実は国立社会保障・人口問題研究所, 2004, 推測は若尾, 2003)

 以上の結果をまとめますと,回答者は「恋愛をすることが標準的だと考え」,「その結果,恋人がいる人を現実よりも多く見積もって」いました。すなわち,恋愛普及幻想が示されたわけです。
 「若尾(2003)の調査人数は少ないから信用ならない」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが,若尾(2006)によると,大学生数百名を対象に複数回の調査を実施した結果,同様の結果が得られたそうです。

本題:恋愛普及幻想の調査結果

 さて,いよいよ今回の調査結果です。若尾(2003, 2006)は大学生(に相当する年代)を対象に調査していましたが,今回はオープンキャンパスなので,高校生(に相当する年代)への調査です。
 オープンキャンパスで私の模擬講義を受けていただいた人に若尾(2003)と同様の質問をし,恋愛普及幻想が示されるかどうかを調べてみました。なお,「調査結果を公開すること」「個別の回答は公表しないこと」「ご協力いただける場合は調査用紙を提出してほしいこと」は事前説明しています。

 調査した項目は以下です。

・性別,年齢,恋人の有無
・恋人がいる人の割合に対する推測
・恋人がいない人,いる人に対するイメージ
 → これは恋愛ポジティブ幻想に関わる質問です,詳細は次回

 続いて基礎情報です。

・高校生(15-18歳)115名(回答者の総数は141名
・女性85名,男性29名,その他1名
・2割(29名)の人には恋人あり

 恋愛普及幻想に関して,繰り返しになりますが,ポイントは2つです。

1. 恋人がいる人が多数派であると推測していること
2. 恋人のいる人の割合が現実よりも過大視されていること

 まず,「恋人がいる人が多数派であると推測していること」に関しては,恋人がいる人の割合に対する推測,つまり「あなたと同年代の未婚の人々で,恋人がいる人の割合はどのくらいだと思いますか?0から100の間の数字で答えてください。」と尋ね,同年代の人の恋人のいる割合を推測してもらいました。その結果は以下です。

・女性回答者の推測値の平均値:39.6%(SD = 15.0)
・男性回答者の推測値の平均値:36.2%(SD = 12.8)

 すなわち,恋人がいる人が多数派であるとは推測していないことがわかりました。

 この時点で恋愛普及幻想は示されなかったわけですが,一応「恋人のいる人の割合が現実よりも過大視されているかどうか」も確認しておきます。

 高校生の年代の「現実」,つまり全国平均でどの程度の人に恋人がいるのかについては,第7回青少年の性行動全国調査(日本性教育協会, 2013)を基に算出しました。同調査では,恋人の有無を確認するために以下のように質問しています。

問:
「あなたにはいま現在,付き合っている人がいますか。」

選択肢(どれか1つを選ぶ):
「1人いる」
「複数いる」
「いないのでほしい」
「いないが,特にほしいと思わない」

 今回は,「1人いる」および「複数いる」と回答した人を「恋人あり」と判断しました。そうすると「現実」には高校生女子の28.2%,高校生男子の20.9%に恋人がいることがわかりました。これらを「現実」の値として,先ほどの推測値と比較すると,「現実」よりも過大視していることが示されました(図2)。

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図2. 恋人がいる人の割合の現実と推測(本調査の結果)

 まとめますと,高校生も恋人がいる人の割合を「現実」よりも過大視していたわけですが,恋人のいる人が多数派と推測しているわけではなかったので,恋愛普及幻想は示されませんでした。

 そもそも我々人間は,数値の推測があまり得意ではないので,過大視してしまうのは仕方のないことだといえます。ですので,恋愛普及幻想が示されなかった理由を考える上で大事なのは,「恋人のいる人が多数派と推測しなかった」理由を考えることですが,その理由は色々とあると思います。

・大学生の年代(18-24歳)に比べて,高校生の年代は「現実」に恋人のいる人の割合が少ないため,恋人がいる人が多数派だと思いにくい
・高校生は,恋人がいる=「不純異性交遊」とみなされやすい(つまり,付き合うことはダメなことだと思われやすい)ため,恋人がいる人が多数派だとは思いにくい
・サンプルに偏りがある                                       などなど....

 そして,今回の調査結果の理由を考える上でもっとも重要なのは,高校生の「日常」を捉えることだと思います。つまり,高校生のふだんの生活を見たり聞いたりして,彼/彼女らの「日常」を知る。それが,恋愛を理解するためには,「日常」との関連の中で「恋愛」を考えていく必要がある,ということの意味であり,「社会心理」学とは,ある現象を手がかりに,その背後にある人々の日常を捉えて,「心」について考えていく学問である,ということの意味です。この点については夢ナビTALKで簡単に話しましたので,ご興味のある方はご覧ください(また夢ナビかよっ!というツッコミはなしでお願いします。笑)


 またしばらくしたら,恋愛ポジティブ幻想の結果についても報告します。分析に少し時間がかかりそうですので,申し訳ございませんがしばらくお待ちください。それではまた。

出典

追記

 2019.09.01 出典を追加しました
 2019.09.01 出典を追加しました


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