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【第二弾】恋愛普及幻想について:恋人の有無による比較

※ 本記事は高知大学人文社会科学部オープンキャンパスにおける模擬講義「日常と恋愛」で実施された調査体験の結果を報告するものです。

※ 結果報告の第一弾については以下の記事をご覧ください。

前回の簡単なおさらい

 結果報告第一弾では,「恋愛普及幻想とは何か」「オープキャンパスの調査で恋愛普及幻想がみられたのか」を報告しました。

 恋愛普及幻想とは「恋愛をすることが標準的だと考え,恋人がいる人を現実よりも多く見積もる」現象のことです。この現象のポイントは2つ。

1. 恋愛をすることが標準的だと考えること
2. その結果,恋人がいる人を現実よりも多く見積もること

  1は言い換えると,恋人がいる人が多数派(50%を超える)と推測することです。2は,実際に恋人がいる人の割合(全国調査の結果)よりも過大に恋人がいる人の割合を推測してしまうことです。

 調査の結果はどうだったかというと,女性回答者(高校生)の推測値の平均値は39.6%(SD = 15.0),男性回答者(高校生)の推測値の平均値は36.2%(SD = 12.8)でした。すなわち,恋人がいる人が多数派であると推測していないことがわかりました。この時点で恋愛普及幻想はみられないことが示されたのですが,一応,全国調査(第7回青少年生行動全国調査,日本性教育協会, 2013)の結果と比べてみると,「現実」に恋人がいる人の割合は高校生女子で28.2%,男子で20.9%であり,推測値の方で値が大きいことが示されました。すなわち,「現実」よりも恋人がいる人の割合を過大視していることは示されました。

今回の報告:恋人の有無による比較

 このような恋愛関係に関する調査をすると必ずと言っていいほど受ける質問があります。それは「恋人がいるかどうかによって結果は違うのではないですか?」という質問です。確かに,自分に恋人がいる場合,「私にも恋人がいるから他の人もいるだろう」と思って過大に推測してしまうとか,反対に「私の周りで私以外に恋人のいる人はほとんどいないな」と思って過少に推測してしまうとか,そういうことはありえそうです。ですので,今回のデータでも恋人の有無による比較をしてみました。

 まず基礎情報です。なお,今回の調査では高校生115名を対象に分析しています。

・恋人がいる人は2割(29名)
・内訳:女性20名,男性9名

 次に,恋愛普及幻想のポイント1「恋人がいる人が多数派(50%を超える)であると推測していること」に関して,恋人の有無別に比較してみました。

・恋人のいない人における推測値の平均値:39.1%(SD = 15.1)
・恋人のいる人における推測値の平均値:38.5%(SD = 12.9)

 恋人のいない人といる人で推測値の平均値には0.6ポイントしか差がなく,ほとんど違いはないことが示されました。ちなみに,恋人の有無別および性別の結果は以下の通りで,ここでも大きな違いはありませんでした。

恋人のいない人における推測値の平均値
|女性:39.8%(SD = 15.1)
|男性:35.8%(SD = 14.5)
恋人のいる人における推測値の平均値
|女性:39.1%(SD = 14.6)
|男性:37.1%(SD = 7.7)

 ポイント1にそこまで違いがなかったため,ポイント2「現実よりも恋人がいる人の割合を多く見積もること」に関しても,恋人の有無で違いはないということになります。

 ただし,前回は「現実」として,第7回青少年の性行動全国調査(日本性教育協会, 2013)を基に算出しましたが,より新しい調査データである,第8回青少年の性行動全国調査(日本性教育協会, 2019)を入手しましたので,それを基に「現実」の値を再計算しました。

 第8回調査では,現在の恋人の有無を確認するための項目が第7回調査と変わっています。第7回調査では,「あなたにはいま現在,付き合っている人がいますか。」と単純に尋ねていたのに対し,第8回調査では以下の手続きで,現在の恋人の有無を確認しています。

 まず,今までに付き合ったことのある人数を以下のように尋ねています。

問(a):あなたは,いままでに,何人の人と付き合ったことがありますか。
選択肢(どれか1つを選ぶ):
「付き合った人はいない」
「1人」
「2人」
「3人」
「4人」
「5人」
「6人以上」

 問(a)に対して,「付き合った人はいない」と回答した人は,問(c)「付き合う相手が欲しいと思うか」へ,1人〜6人以上のいずれかを回答した人は,問(b)「あなたには,いま,付き合っている人がいますか」へ移行します。

【1人〜6人以上のいずれかを回答した人が回答】
問(b):あなたには,いま,付き合っている人がいますか。
選択肢(どれか1つを選ぶ):
「いない」
「1人いる」
「複数いる」
【「付き合った人はいない」と回答した人,および,問(b)で「いない」と回答した人が回答】
問(c):あなたは,いま,付き合う相手がほしいと思いますか。
選択肢(どれか1つを選ぶ):
「ほしいと思う」
「ほしいとは思わない」

 つまり,現時点で恋人がいない人というのは,問(a)で「付き合った人はいない」と回答した人+問(b)で「いない」と回答した人であり,現時点で恋人がいる人というのは,問(b)で「1人いる」「複数いる」と回答した人ということになります。というわけで,恋人がいる人の割合を以下のように算出しました(ただし,日本性教育協会(2019)では正確な人数は載っていないためあくまで概算です)。

問(b)で「1人いる」「複数いる」と回答した人の数 ÷ 問(a)の回答者数

 その結果,「現実」には,高校生女子の23.2%,高校生男子の15.6%に恋人がいることになります。男女を混みにすると19.4%の高校生に恋人がおり,今回の調査でも同程度の割合でした。また,冒頭でも書きましたが,第7回調査では女子が28.2%,男子が20.9%,全体で24.6%でしたので,高校生の恋人のいる割合は6年で5%くらい減少しているようです。

 というわけで,調査にご協力してくれた人の恋人の有無によって恋愛普及幻想に違いはなさそうだということになりました。この結果は,若尾(2003)でも同様です。恋愛普及幻想は自分の状況(つまり自分に恋人がいるかどうか)というよりも,周囲の状況に左右されて生じるのかもしれません。

出典


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