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ドラマ「カルテット」 〜欠点のあるあなたが愛おしい〜

自分の人生が今どういう状況か次第で、今まで見ていたドラマも顔を変える。
ずっとお気に入りだったシーンも、急に胸が締め付けられるように見ているのがしんどくなるし、
今まではどうってことのなかったセリフも、急に頭にぐわんぐわんと反響し胸に残り続けるスーパーワードになったりする。
これだから本もドラマも映画も面白いと思う。

私はドラマ「カルテット」が好きだ。異様に好きだ。
どうにも好きでたまらなくなって、シナリオ本にまで手を出した。
シナリオ本を通してみると、知らないセリフがあったり(私が忘れているだけ?)、今まであの時のセリフの意図や感情はこうだと思っていたのが違っていたり、これまた面白い。

このドラマにはたくさんの魅力が詰まっている。
キャラクターの個性と魅力がぎゅっと濃縮されているセリフの面白さ、奥深さ。
起承転結。どんどん引き込まれていくストーリー展開。
「巻 真紀」さんの印象がストーリー展開ごとに変わっていく。この自分自身の心の変わりようが面白い。こんなに予想できない展開が、今までのドラマであっただろうか?まさに「上り坂、下り坂、まさか」。
そして何よりも、とても魅力的な登場人物たちと冬の軽井沢という街の美しさ。このドラマの世界観全て愛おしく、なんどもなんどもこの世界に戻りたくなる。

一つ一つをここで全て書き出したらきりがないので、今回は私がこのドラマのセリフや登場人物たちを通して改めて感じた「人が持つ欠点の魅力」について書いていこうと思う。

「何かが欠けてる奴が奏でるから音楽になるんだよね」

欠けていることは短所に捉えがちだし、どうしても隠したくなってしまう。
もしかしたらドーナツ自身も、穴は隠したい部分なのかもしれない。
でも、穴があるからドーナツであることが一目でわかるし、一つの個性になっている。
最近になって「個性」という言葉がだんだんと広まり大切にしなければならない風潮が広まりつつあるけれど、この日本ではまだまだ穴は隠し、隠される対象になっている気がする。
特に今の大人たちは、今更「その腹の真ん中に空いた穴を見せろ!」と言われても、今までひた隠しにすることが正義となっていたのだから、それはそれは恐ろしいだろう。
それに「私の穴ってこんな感じでちょっと形が三角形なんだ〜」「ハートみたいでかわいい〜」なんて平然と見せ合う若者を見ても、「こんな時代に自分はどう順応したら良いのだ・・・!」なんてより一層混乱・・・なんてこともあるかもしれない。
だけど、ベンジャミンさんの言葉に、はたと立ち止まる。
そしてカルテットの4人を見て、この4人の愛おしさを思う。
完璧な人間なんていないのだが、そうであるように偽ることはなんて悲しいことなんだろう。この人たちの大切なドーナツの穴が、個性が隠されてしまったら、それは悲劇だ。
声の大きい真紀さん。二度寝をしないすずめちゃん。屈折のない家森さん。皆んなにも厳しい別府さん。
欠点があるから人は愛おしい。

「私たち、欠点で繋がってるの」

漫画「ワンピース」の”麦わらの海賊団”みたいに強烈な個性や飛び抜けた才能があるわけではないし、みんなが真っ直ぐに太陽みたいに光り輝いて肯定しあっているわけじゃない。
それぞれの欠点を笑い合って、認め合って、補い合って生きていく。
ひっそりと、でも全員を確実に必要として、前に進んでいく。
憧れの的になりやすい海賊団と見た目は違うけど、実は共通しているところも多いように感じていて、仲間の定義ってこういうことなのかもしれないなんて思ったりする。
本当に大切な存在は、ちょっと弱くて、頼りなくて、捻くれているところも笑い合えて、例えその場にはいなくなってしまっても、いないという時間が早く終わる日を指折り数えて待ち続けることができる、そういうことなのかもしれない。
カルテットの4人のことを考えると、不器用な優しさが胸を切なく締め付ける。ずっと笑っていて欲しい。そして、あぁ、人ってやっぱり幸せになっていいんだよなって、肩の荷がふと降りた時の感覚で胸が少し軽くなり、目頭が熱くなる。

このドラマに出てくる人たちは特別に見えるけれど、実はそうでもないと思っている。
人間はそんなに強くない。完璧じゃない。
でも、皆んなそれを笑いあって、それぞれを必要としている。
誰かと一緒だと、こんなにも面白く感じられる時間がある。
それこそが幸福なのだと、とても温かい気持ちになる。
他のドラマにはない人間臭さがあって、愛おしいと私は感じる。

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