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「ガールボス」または「リーン・イン」の終焉

女性が華々しくビジネスの場で活躍をする「ガールボス」や「リーン・イン」文化は、なぜ批判を浴びるのか。
女性のCEOの失敗が注目を集めるのはなぜかをまとめてみた。

ガラスの天井を打ち破ろうとする女性CEO

ガールボスを世間に浸透させたのは、eBayでの古着販売から、ファッションブランドNasty Galの立ち上げで成功者となったソフィア・アモルーソ。
2014年に出した有名な回顧録「 #GirlBoss 」を執筆し、3年後にメディアプラットフォーム「#GirlBoss」を立ち上げ、世界中の女性がこの言葉を使うようになった。
莫大な売り上げと資産を得て、フォーブスの「自力で億万長者になった女性」や、ビジネスインサイダー紙の「最もセクシーなCEO」に名を連ね、数々のメディアで取り上げられるように。

自分たちのブランドビジネスを行うミランダ・カーやグウィネス・パルトローもガールボスを名乗るように。Netflixでアモルーソの本を元にドラマも作られた。
ガールボスから派生して「bossbabe」「SHE-E-O」「the boss bitch」など野心的な若い女性を表す言葉ができた。

シェリル・サンドバーグの「リーン・イン」は、ハーバード大学院卒業で世界的企業フェイスブックのCOOとして、独自のフェミニズム 論をビジネス書の体裁で展開。
「真に平等な世界とは、女性が国や会社の半分を運営し、男性が家庭の半分を運営するような世界である」というエンパワーメントとポスト・ジェンダーの思想で2013年以降、世界中でベストセラーとなり支持を得た。


ミレニアル世代ブランドの女性CEOの成功と失敗

「ガールボス」や「リーン・イン」な女性のCEOが頭角を表していったが、多くがハラスメント告発で表舞台を去り、その様子はセンセーショナルに報じられた。


Away
スーツケースブランドのAwayは女性二人で創業。ミレニアル世代向けの優れたブランド戦略を行い、投資家から累計100億円の出資を受ける。

しかし、従業員がTwitterでSlackのスクリーンショットを流布させるハラスメント告発でCEOのステフ・コリーは辞任に追い込まれた。


Refinery29
若い女性をエンパワーメントするメディアとして有名なRefinery29の共同創設者兼編集長であるクリスティン・バーベリッチは、黒人女性の従業員の給与が同じキャリアの白人従業員よりも不当に低いと告発を受けて辞任。


The Wing
女性むけのクリエイティブなコワーキング・スペースThe WingはAirbnbやWeWorkなどから約83億円の資金調達
しかし、CEOのオードリー・ゲルマンは、事業拡大のため白人会員獲得優先になっていたことが発覚し辞任。


THINX
フェムテックのパイオニア的ブランド生理用ショーツのTHINXの創業者ミキ・アグラワルは、女性部下の胸を触ったり、裸でオフィスを歩き回ったり、トイレから社員とビデオチャットしたことでセクハラで訴えられ辞任。性に対し、オープンな人物として知られていたが、従業員は全てを受け入れられなかった。


Facebook
近年のフェイスブックの悪評(プライバシー侵害や選挙プロバガンダへの加担)が「リーン・イン」を打ち出したシェリル・サンドバーグへの批判につながっている。


Girlboss
「ガールボス」という言葉を広めたソフィア・アモルーソも、過去にNastyGalのCEO時代、産休や育児休暇中の従業員を解雇したことで訴えられている。さらに破産申請後NastyGalはイギリス企業に買収される。その後立ち上げたマルチメディア企業Girlbossは、2020年6月にコロナによる売り上げ低迷で去ることとなり、2020年はガールボス終焉の年と言われた。


女性だから失敗が注目される

女性の起業家が劣悪な職場環境を作るとか、女性は搾取しないと成功できないというわけではない。資本主義で成功することは他者の機会を公平にしながら成立させることは難しい。

女性らしい特性に対して思いやり、共感というステレオタイプがあり、一般的なCEOの特性の野心家、冷徹、破天荒というイメージの解離も関係して注目されているのかもしれない。
ガールボス・フェミニズムは担がれて失敗することで一般化され、政治でもビジネスでもマイノリティの女性の野心を揶揄する危険性もある。

アメリカではCEOの77%は白人またはコーカソイドで、ベンチャーキャピタルの65%に女性パートナーがおらず、81%に黒人投資家がいない。日本の女性社長比率は2020年でわずか8.0%)圧倒的に女性が少なくても、彼女たちは目立つため報道もされてしまう。事業が「ブランド」になっているものは、世界観が投影される。

事業が「ブランド」になっているものは、世界観が投影される。
企業として必要な倫理基準と目指したい世界観————クリエイティブで多様性がある———は組織がよほど成熟しない限り合致させるのは難しい。

リッツ・カールトンは「ブランドとは約束である」と言っているが、約束事が守れなかったことが企業内での告発をさらに加速させている可能性がある


Glossier
企業価値12億ドルと言われるGlossierは、CEOのエミリー・ウェイスの美容ブログから始まってインスタグラムを通じて多くのファンづくりに成功したブランド。
しかし、店舗内での人数差別行動の黙認や人事面での不均衡の告発がインスタグラムで起こった。

Glossier側もインスタグラムで公に声明を出してやりとりして謝罪し、包括性への取り組みとして、人種差別やトランスジェンダー差別を是正するトレーニングの実施を実行するに至った。


多様性への視点

一般的にフェミニズムは、すべての女性の選択肢を増やし、向上させることで平等を主張している。他方、「ガールボス」や「リーン・イン」は主にホワイトフェミニスト文化でもある。
以前感想を書いた『99%のフェミニズム』でも女性間の格差を生み出す「リーン・イン・フェミニズム(コーポレート・フェミニズム)」は資本主義の侍女として批判対象になっていた。
一部の女性の権利を守るものよりも、人種・格差・セクシュアリティを包括的に考えて、平等を目指すことが現代ではとても重要な課題だからだ。

資本主義社会で成功=ジェンダー平等ではないという大前提で、野心ある女性を揶揄するのではなく、男性と同じく失敗から学ぶ機会を認めるべきということ。

「ガールボス」のようなジェンダー化された言葉があっても、実際の職場で女性が平等に活躍できる場はまだまだ少ない。このnoteでも「CEO」の前に「女性」を付けて書いているが、本来は必要ないはずのもの。

特権に対する意識、公平性、包括性が如何に重要かということは「ガールボス」や「リーン・イン」文化の終焉から学ぶことはとても多い。

日本での問題は、批判対象となる「ガールボス」や「リーン・イン」らしき文化も未成熟だ。そもそも特権を持った女性すらわずかで、いけすかない成功者の女性をディスることすらできない。

Photo by Brooke Lark on Unsplash

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