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~福井を舞台に。福井の若者たちが波及させる「創造的希望」~第4章続き

(4)主体の再確認―関係人口とはー

 主体であるポジティブなUターン者とその友人たちは、既存のカフェ(クマゴローカフェ)を間借りすることで本イベントカフェを開催することができた。地域に根付いたカフェという場がそこに既に存在していたからこそ、もっと言えば、このカフェを築いてきた主体がいたからこそ、そこに新たな娯楽の場を創造することができた。さて、地域で愛され続けるクマゴローカフェを築いてきた主体とは、いったいどのような人物だろうか。近年、「地方圏が、地域づくりの担い手の育成・確保という課題に直面していること、また、国民各層が居住地以外の地域と関わる機会が多様化していることに鑑み、その地域に住んでいる、もしくは移住した「定住人口」でもなく、地域外から旅行や短期滞在で訪れる「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者である「関係人口」」(総務省地域力創造グループ地域自立応援課,2020:p.1)に注目が集まっている。クマゴローカフェオーナー牛久保さんは、群馬県出身で、都内でスープ専門店の店長等を務めたのち、地域おこし協力隊として福井県を訪れ、その後、福井県に移住しクマゴローカフェをオープンされた、まさに「関係人口」だった方なのであり、現在は、地域に価値を生み出し続けるという意味で「関係人口」としての在り方を貫きながも、「定住人口」として福井県で活躍される方である。「(東京に居た頃は)面白いのは会社であって私ではない。ちゃんと「自分の旗」を立てなきゃなと思うようになりました。福井のまちって誰もが主人公になれる可能性を秘めていると思っています。」(#たしかに編集部,2021)という彼女の言葉からは、地方には「「関わりしろ」や「チャレンジしろ」が都会よりもずっとある」(指出,2016:p.647)、そして、これこそが地方の魅力なのであり、都会に暮らす人々に求められているのだということが伝わってくる。つまり、「個人にとっては、地域や社会に貢献するよりも、自分がしたいことと地域の課題解決の方向性をすりあわせていく、そうした社会のデザイン能力が花開く場所として地域が受け皿になっているようである」(高橋,2016:p.71)。一方で、「私はいわゆる『カフェ』をやりたかったわけではなく、人が気軽に来れる場所をつくりたかったので。毎日店主が変わってもいいと思っています。365日店主が入れ替わると、いつ来ても違うチャンネルが楽しめるわけじゃないですか。そっちの方が絶対に楽しいなって」(#たしかに編集部,2021)という彼女の語りは、自己実現を達成させながらも同時に、その地域に「創造的希望」の種を蒔き、地域の方々と共に育み、福井に希望の花を咲かせていくという、本質的な主体としての在り方に気づかせてくれるのである。

(5)関係人口との協働から地域住民への波及

 クマゴローカフェオーナー牛久保さんと、本イベントカフェの運営メンバーに共通するのは、第一に自分たちがワクワクできるかどうか。そして、その中で自分たちにできることを実践し、地域に貢献する。では、こうした共通意識を持った両者はどのように協力体制を築いてきたのか。本イベントカフェにおいては、クマゴローカフェのオーナーが実は初期主体としてカフェの間借り体制を地域住民に提供し、ポジティブなUターン者が初期準主体として、本イベントカフェを思い付き、その過程で間借りできるカフェを探していたところ、カフェを営む彼女と出会ったのである。ポジティブなUターン者がその友人たちを誘う段階においては、既に初期主体(クマゴローカフェオーナー)と初期準主体(ポジティブなUターン者)の間にゆるやかなつながりが生まれ、第二次初期主体化していたとも言えるのかもしれない。ここに第二次準主体として、先述した動機で賛同したポジティブなUターン者の友人たちが加わり、「秘密基地Mahalo第一弾」は第三次初期主体となった(杉本,2020)。その後、ソーシャルメディアを通じて、第三次準主体として元々は傍観者であった地域住民を惹きつけ拡大し、「秘密基地Mahalo第二弾」は一度目の開催から一ヵ月足らずでの開催となった。「このフローの実現は、主体と準主体とのactive-passiveが固定された状態を超えて、interactiveな関係へ転換していくことに他ならない」(杉本,2020:p.165)と言われているように、初期主体としてのクマゴローカフェオーナーによる日々の活動や間借りに関する情報発信があったからこそ、初期準主体としてのポジティブなUターン者がスムーズに初期主体に働きかけ、本イベントカフェを開催することができた。初期準主体としてのポジティブなUターン者、第二、三次準主体としての地元の友人たち、地域住民を含め、準主体の誕生パターンにおいて、「発信型(主体者の積極的な協力要請)と誘引型(準主体が自ら働きかけ、主体の活動を認知)という二項対立を超え、いずれの側面をも持つ人材(地域創生人材)の有無とその誕生の連鎖」(杉本,2020:p.198)が必要であり、地域に希望を創造する上では不可欠であろう。本イベントカフェでは、主催者自身の経験や客からのリクエストを元に、毎回異なるテーマを設定し「今、ここにしかない、というオーラを持った「今だけ空間」(ナカムラ,2013:p.84)を提供することで、幅広い客層を惹きつけたと同時に、地域住民の中から新たな運営メンバー(第三次準主体)が誕生した。

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