見出し画像

【プレイリスト】5月に聴く5月録音のジャズ

「May 皐月」のオリジナル解説書(CD一枚分)
※1日単位「今日のジャズ」の記事の元ネタです
※ 「今日のジャズ」が日付順に対して、こちらは録音年月日順で、内容が若干異なります
※録音日、曲名、演奏者、収録場所、レーベル、アルバム名の順で曲の情報が記載されています
※「今日のジャズ」選曲後記が最後にあります
※音楽を聴いてから解説を読む事をお勧めします 

May 11, 1956 "It Never Entered My Mind"
by Miles Davis Quintet with John Coltrane, Red Garland, Paul Chambers & Philly Joe Jones at Rudy Van Gelder Studio Hackensack for Prestige (Workin’ with the Miles Davis Quintet)

マイルス、30歳にして自らのスタイルを確立して量産体制に入った時期、4部作からなる短期集中録音、マラソンセッションの一枚からの作品。
マイルスのトランペットはまるで蝋燭の炎のように、ひとりぼっちで風が吹けば今にも消えそうなくらい儚くも、そうはさせないの芯の強さを表現しているかのよう。原曲に忠実にメロディーを奏でてアドリブはほぼ無く、だからこそトランペッターとしてのマイルスの表現力の深さが味わえる一曲。ピアノのレッドガーランドの伴奏も素晴らしく、ソロでもマイルスの余韻を踏襲して、美しい旋律が奏でられる。ドラムのフィリーによる、しっとりしたサ〜っと鳴るブラシもシンバルワークも雰囲気を盛り立てて秀逸。マイルスは、自身の理由で恋に破れた女性の寂しい気持ちの歌詞を意識した表現として、内に秘めた気持ちを切なく表現する。リチャード・ロジャース(作曲)とロレンツ・ハート(作詞)の名コンビ「ロジャース&ハート」によるコメディミュージカル”Higher and Higher”からの一曲。ジャズに取り上げた先鋒はフランクシナトラ。そのスタイルを踏襲しながら自己流に仕立て上げるマイルスの卓越さが味わえる。


May 24, 1956 “Tenor Madness”
by Sonny Rollins, John Coltrane, Red Garland, Paul Chambers & Philly Joe Jones at Rudy Van Gelder Studio Hackensack for Prestige (Tenor Madness)

前曲から13日後、マイルスが26歳のロリンズに交代したメンバーと同スタジオでのソニーロリンズ作曲作品のモノラル録音。同じプレスティッジレーベルなのに前曲ステレオからの逆戻りの理由は何なのだろうか。マイルスとの比較でいうと、音楽的な志向やリーダーシップの取り方が、30歳で同じテナーのコルトレーンとは、演奏のスタイルと成熟度比較が出来る録音。先ず、冒頭のテーマ曲の両者によるユニゾンで音色の聴き比べが出来るが、柔らかいロリンズに対して、硬派なトーンのコルトレーン。前月のプレイリストにあるコルトレーンを交えた三者テナーバトルは、この録音の約一年後ゆえ、聞き比べると、コルトレーンを軸に他の三テナーの比較が出来る。ゲストのトレーンが先行してソロを取り、ロリンズが横綱的に受けて立つという流れ。スタイル的にはフレーズの纏まりで空間を埋めるように畳み掛けるコルトレーンと、抑揚を効かせて独特の間合いで閃きのメロディーを朗らかにブローするロリンズという組み合わせ。ソロを経て8:30以降に両者がコールアンドレスポンス的に交互に絡みあう掛け合いで、その差が良く見てとれ、ロリンズの技術や表現力といった総合的な完成度が、この時点で傑出している事が分かる。前曲との比較で言うと、ロリンズは自由奔放に感性のままに吹きまくり、伴奏者にも強い統制を利かせずに同様のスタイルを求めているようで、比較的自由度とアドリブの余地が大きいノリ重視の演奏となっていて、まるで別バンドのよう。ピアノのレッドガーランドの存在感が抑え気味で随分異なることに気付くし、前曲で控え気味だったドラムのフィリーがダイナミックに爽快に叩きまくっている。


May 5, 1959 “Giant Steps”
by John Coltrane, Tommy Flanagan, Paul Chambers & Art Taylor at Atlantic Studio, New York for Atlantic (Giant Steps)

コルトレーンが、吹っ切れたかのようにブレークスルーした象徴的な楽曲がこれ。前々曲ではマイルスの指示に従い、前曲のロリンズには対等に挑むも引け目を感じるようにサイドマン的に吹くといった、これまでのモヤモヤ感が一切なく、艶のある音玉がこれでもかというほどに瑞々しく溢れる演奏とリーダーシップを発揮。「どうだ!」と技術も気力も充実して自由に確立した自分のスタイルを嬉しそうに吹きまくるコルトレーン、この後の目覚ましい快進撃はこの辺りから始まっている。そしてもう一人三曲続けての登場は、名ベーシスト、ポールチェンバース。誰であろうが何の楽曲だろうが器用にノリと心地よいグルーブを生み出せるのが天才的。音楽的には、かなり難しく挑み甲斐があるらしい。そんな曲でもしっかりそつなく弾き切るのが名盤案内人の名手トミーフラナガン。難しさを感じさせずに弾き切っている見事さに感服。そして多忙なドラマー、アートテイラーが活力とメリハリのあるリズムを生み出して、バンドの一体感を醸し出している。


May 21, 1959 “Five Spot After Dark”
by Curtis Fuller, Benny Golson, Tommy Flanagan,  Jimmy Garrison & Al Harewood
at Rudy Van Gelder Studio Hackensack for Savoy (Blues-ette)

オーディオマニアの中でも定評ある名録音版で、トロンボーンのカーティスフラーの唇の振動が生々しく再現される、ジャズスタンダードとして定着したテナーサックスのベニーゴルソンによるオリジナル楽曲。曲名はニューヨークの名門ジャズクラブ”Five Spotでの夜更け”ということで、楽曲、演奏に加えて、録音の背景に捉えられている落ち着いた静寂感が見事に調和して、しっぽりした雰囲気を醸し出している。前2曲と同じスタジオでの録音ながら、レーベルが老舗のSavoyとなり、曲名を彩る演出として、電気のノイズが相対的に少なく、静粛感を捉えられる深夜に録音したのではないかと推測する。ここで前者二人のソロは当然のことながら、燻銀のヘアウッドの渋いドラムとベースのジミーギャリソンに耳を傾けたい。地味な演奏ながら、「チッチ、チッチ」と波を打つように右スピーカーから定期的に刻まれるハイハットと、隙間の間合いで「ダダっ」と不定期に抑揚を付けるスネアドラムが合わさって曲の推進力が生まれ、縁の下の力持ち的に力強いジミーギャリソンのベースがアンカーとなって各演奏者の名演に大きな貢献をしている。20秒過ぎの左スピーカーから飛び出すベースの振動を感じたい。ここでも前曲のピアノ、トミーフラナガンがアクセントを利かせた渋い仕事を繰り広げている。


May 22, 1959 “Lonely Woman”
by Ornette Coleman, Don Cherry, Charlie Haden & Billy Higgins at Radio Recorders Studio, Hollywood for Atlantic (The Shape of Jazz To Come)

前曲翌日にLAにて録音された、フリージャズというジャンルを発明・普及させた巨人の一人、オーネットコールマンによる作曲でジャズスタンダードとして定着したオリジナル録音。フリージャズは、リズムやコード進行といった制約もなく、各メンバーが感性で他のメンバーを意識しながら弾きたいように奏でるという、従来の予定調和前提の音楽を超越したスタイル。各演奏者が好き勝手やる中で、ハプニング的に調和が生まれた瞬間の恍惚感やスリリングさを味わえるかどうか、がフリージャズの聴きどころ。実は、各演奏者はそれぞれの奏でを傾聴して敏感に反応、反響していくという、一見聞くと無茶苦茶ではあるものの、相当高い演奏レベルが求められている。ベーシストのチャーリーヘイデンは目をつぷって弾くと自ら語っていたが、譜面ではなく感性に頼る音楽のフリージャズのスタイルだからかも知れない。ここで登場して頭角を表して主流派となるドラマーのビリービギンズの後任、サニーマレイがリズムでは無くパルスという表現を使っているようにドラムに対するアプローチも革新的。前衛絵画にコンセプトを得て、即興の要素を多分に持ったジャズ音楽で実践・表現したのでは、というのが個人的な仮説。芸術という観点では映画等も含めてフォーマットを超えて影響し合っているのは間違いない。典型的な中低音太目の東海岸的な録音の印象を受けるが、実はLA録音という意外さは、フリージャズというスタイルならではかも。もしかすると、前々曲と同じプロデューサーが西海岸に移動して東海岸の雰囲気を持ち込んだという背景もあるかもしれない。この曲では、フリージャズ初期という事で主旋律があり、それが故にジャズスタンダード曲になったのかもしれない。


May 19-20, 1961 “Filthy McNasty”
by Horace Silver, Blue Mitchell, Junior Cook, Gene Taylor & Roy Brooks at the Village Gate, NYC for Blue Note (Doin’ the Thing)

ミスターファンキー、ピアノ奏者ホレスシルバーのクインテットバンドによるニューヨークのジャズクラブでのライブ録音、”Doin’ the Thing”からの一曲目、オリジナル曲。MCから始まる記録が全て収めらていて、冒頭のアナウンスには、ホレスによるレコーディングの告知と楽曲の紹介と背景にはピアノとベースの音合わせ。ジャズクラブではよくある光景ながら、レコーディングでは録音時間の制約等から収録されるパターンは多くない。これはニューヨークの名門ジャズクラブ、ビレッジゲートを味わうという演出と思われる。トランペットのブルーミッチェルの若々しい、勢いあるソロから始まり、それを踏襲したジュニアクックの熱く盛り上がるのテナーの演奏を経て、ゴスペルスタイルのコールアンドレスポンスを繰り返して徐々に盛り上がりっていくのは、観客の顔が見えるライブ録音だからこそ。ライブでスタジオ演奏のクオリティーが維持されるどころか、それを凌ぐことがあるのがジャズ。同じ音楽は二度と再現できない。だからこそ思う、ジャズライブに行ったら肩肘張らずに楽しんで、音楽に合わせて体を揺らし、手を叩き、掛け声を上げて演奏者と一緒に盛り上がろう。それを感じた演奏者はさらに白熱して良い演奏を繰り広げる事になる。遠慮してはいけない。歌舞伎は良くて、ジャズの掛け声がダメなはずはない。9:32の男性の「イエー」と言う掛け声が、まさにそれ。そして曲が終わったら惜しみない拍手を。観客も立派な演奏者になりえることを示した好録音。一曲目からこの盛り上がりは流石、ミスターファンキー、最後のトークでは会場の盛り上がりに自身の驚きを隠していない。


May 22, 1961 “Willow Weep for Me”
by Baby Face Willette, Grant Green & Ben Dixon at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for Blue Note (Stop and Listen)

前曲とほぼ同時期に同じ名エンジニア、ルディバンゲルダーによって録音されたオルガニスト、ベビーフェイスウィレットのトリオ録音。ハモンドオルガンは、旋律を奏でながらベースを指か足で弾き、スピーカーや音色までコントロールするという何とも複雑な楽器。大作曲家のジョージガーシュウィンと恋愛関係にあった女性作曲家、アンロネルによる同氏に捧げられた曲がスタンダード化したもの。ドラムのベンディクソンによる終始テンポを保つ右から聞こえるハイハットの艶のある金属感が素晴らしい。全曲同様にコールアンドレスポンスを交えたメロディーを奏でるウィレット、その裏方でリーダーアルバムではシングルトーンで押しまくるグラントグリーンがソロ以外は和音で渋いバッキングでサポート、実はとても味と旨みのあるグルーブを生み出していて、この曲の聴きどころでもある。7:01、7:08で聞こえる「ピュイッ」というギター音につられて暖まったディクソンが即座に反応、「ドコッ」と応戦するのも勝手知ったる仲間だからこそできるアドリブ。仲睦まじく面白い。


May 23, 1963 “Scrapple From The Apple”
by Dexter Gordon, Bud Powell, Pierre Michelot & Kenny Clarke at CBS Studio, Paris for Blue Note (Our Man In Paris)

60年代に入ると、米国での黒人差別や低待遇に嫌気がさした黒人ジャズマンが、芸術を高く評価し、比較的差別に寛容な欧州に渡り定住し、欧州でのジャズ普及に貢献し始める。当時の欧州は、現代の日本のようにジャズが評価され、尊敬され、お金を稼げる聖地だったようだ。フランス人ベーシストを除く三名は欧州移住の黒人ジャズ演奏家。時代的には前月プレイリスト7曲目の一ヶ月後。現代ジャズの根底を創出した巨人、アルトサックス奏者のチャーリーパーカーによる作曲作品。曲名はペンシルベニアに移住したオランダ人の豚肉ホルモン料理から来ているらしい。欧州は米国で流行していた南米音楽には大きく感化されず、純ジャズを踏襲していたように思われる。ここでは、テナーの大物で映画の主役も演じたデクスターゴードンが激しく骨太ブロー、ピアノの巨人であるバドパウエルも全盛期のキレと凄みはないものの、成熟と冴えを感じさせる演奏が記録されている。5:04からのソロでは、特徴あるうめき声共々、ノリの良い指さばきが記録されている。欧州に移住した屈指で顔馴染みの米国ミュージシャンがパリに結集して、東海岸にもゆかりのある楽曲を録音したからかも。組み合わせの妙、これもジャズの楽しさでもある。オーディオ的には低音が低音が控え目に捉えられていて、バスドラムの再現が特に難しい。


May 6, 1964 “Night and Day”
by Stan Getz & Bill Evans with Ron Carter & Elvin Jones at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for Verve (Stan Getz & Bill Evans)

ジャズの巨人同士が対峙すると、どうなるか。四月のエバンスとジムホールのデュオ作品も巨人同士の録音ではあるが双頭リーダーシップ的なアプローチに対して、こちらは当時のボサノバ旋風で存在感を示したスタンゲッツの方が格上で名前もエバンスより前に記載され、リーダシップを握っている。フレッドアステア初演のミュージカル「陽気な離婚」からの名作曲家コールポーター作曲作品。デュオではなく、コルトレーンの名盤”Love Supreme”録音前の同じ年で脂の乗った重量級ドラムのエルビンジョーンズを交えたカルテット作品。両者一歩も譲る気は無いがペースは完全にゲッツ。ゲッツが先に吹きエバンスがついていくという、エバンスには殆ど見られないパターンが貴重な記録。ゲッツはエルビンと度々演奏しているが、エバンスとの共演は、ほぼこの録音として残っていない。この共演のトラウマか、、、その意味では、1:03からのゲッツを除くエバンスがリードするトリオ演奏は興味深い。ゲッツが戻った後は、ゲッツは容赦無く自分のペースで吹きまくり、ほぼペースを乱す事のないエバンスが追っていくという貴重な記録が見られるのが本盤の素晴らしさ。そして、本盤は録音されてから10年近くお蔵入りとなったが、この二人が演奏に満足していなかったという説があるのも頷ける。ここでの聴きどころは、漁夫の利的に誰よりも、独特の粘りとうねりのあるリズムを刻んで我が道を行くドラムのエルビンジョーンズだったりする。ゲッツやベースのロンカーターとの相性は悪くないし、共演歴も複数あるので、指名したのは恐らくゲッツで比較的自由に演奏させているように見受けられる。一方、キレ派リズム隊(清音派)との演奏が多いエバンスには粘り(濁音派)のエルビンとの相性も今ひとつだったのかもしれず、共演録音は、恐らくこれだけ。珍しく伴奏でも余裕が少なく頑張った感が見受けられる。


May 16-17, 1966 “Summer Samba”
by Walter Wanderley, Joe Grimm, Bucky Pizzarelli, Urbie Green & Bobby Rosengarden
at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for Verve (Rain Forest)

ボサノバブームを受けて米国でのジャズとの融合が進行していく。ブラジル人のオルガニスト、ワルターワンダレイによるブラジル人作曲家マルコスヴァーリの米国録音作品。サンバ由来でテンポが速く明るいポップなブラジル録音とは明確に異なり、アメリカ市場向けに落ち着いたらリズムにアレンジされた、プロデューサーの意図が明確に反映された録音。結果、米国でイージーリスニング化してポピュラー音楽となっていく。三曲前の同じオルガンといえどもスタイルがなんと違うことか。左手でベースとなる和音を小さな音で地味に長きに渡って流しつつ、右手で際立った旋律を奏でるというスタイルも面白い。この曲はスタンゲッツのボサノバの名盤、”Gets/Gilberto”で名を成した女性ボーカリスト、アストラッドジルベルトにも取り上げられている名曲。その名盤の中で最も有名な曲、「イパネマの娘」に至ってはジェームスブランやアレサフランクリン等のミュージシャンが数多登場する映画の名作、ブルースブラザーズでもブルースでは無い異色の音楽として象徴的な場面で使用されている。さて、それは何処でしょう。


May 22-24, 1967 “Wave”
by Antonio Carlos Jobim, Urbie Green, Jimmy Cleveland, Jerome Richardson, Ron Carter & etc at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for A&M (Wave)

前曲に引き続き、ボサノバの創始者の一人、アントニオカルロスジョビンによるオリジナルでジャズスタンダード化した名曲の米国ミュージシャンを交えた録音。録音場所とトロンボーン奏者は前曲と同じだが、こちらはオーケストラ編成。ルディバンゲルダースタジオはジャズ録音のメッカだが、当初の自宅スタジオから移設している。その際に、物理的な制約だった狭い空間の問題を解消する意図があったとの話。その結果、引っ越して、この楽曲のようにオーケストラ録音ができるようになった。ジャズの大物プロデューサー、Creed Taylorが立ち上げたCTI Recordsからの一作。純ジャズではなく、より大衆的な音楽でフュージョン等を交えて躍進していく。音楽もさることながら、カラフルな色使いをする写真が主体のスタイリッシュなアルバムジャケットも大変個性的で、既存のジャズレーベルとは異なる路線を象徴している。本アルバムは、大草原の地平線を背景にキリンがポツリと一頭、という構図の写真で、赤地と緑地のバージョンが存在している。Pete Turnerというカラー写真の大家が、当時のLPジャケットに印象的な写真を提供することで、レコード店でのアルバムの存在感に大きく寄与したことは間違いなさそう。そのキリンはブラジルには生息していないので、なぜ採用されたのか、教えて欲しい。エキゾチシズムだろうか。。。


May 21-22, 1974 “All Blues”
by Kenny Drew, Niels-Henning Orsted Pedersen & Albert Heath at Copenhagen for SteepleChase (Dark Beauty)

欧州に移住した黒人ジャズピアニスト、ケニードリューとドラマーのアルバートヒース、欧州の技巧派白人ベーシスト、ペデルセンを交えてのデンマーク拠点のスティープルチェースレーベルによるトリオ録音。北欧、コペンハーゲンでの春は待ち遠しかったのだろうか。春の息吹を感じるエネルギッシュな演奏で、リーダーのケニードリューが縦横無尽に弾きまくるが、ベースもドラムも同レベルで弾き、叩きまくるという力強い生命力が感じられる。録音が鮮やかに楽器の生音を捉えているのは、その後に連なるECM同様に北欧ならではかもしれないが、前月プレイリストのペトルチアーニ録音同様に低域が浮いている印象で、これもまた欧州の傾向かも知れない。燻銀のドラマー、アルバートヒースが熱いプレイを繰り広げるのも、若きペデルセンの活力みなぎるプレイを受けてのものだろう。そのドラムソロに諦聴すると、裏側でしっかり主旋律をなぞっている事が明確に分かる。黒人のブイブイというノリが優先するスタイルではなくて、グイグイというクラシカルでテクニカルな力強さが欧州の白人ジャズベーシストの血のなせる技で、だからこそ黒人の二人との化学反応的な融合と疾走感が生まれているように感じられる。ドリューは米国で活躍していた時とは異なる端正で軽やかなスタイルで盟友ペデルセンと名盤を輩出していく。ドラムのアルバートは、ベースのパーシー、テナーのジミーと共にジャズに貢献したヒース三兄弟。これに匹敵するのが、ドラムのエルビン、トランペットのサド、ピアノのハンクのジョーンズ三兄弟。そして現代ではマルサリス兄弟。偉大なる才能の遺伝子が羨ましい。曲はマイルスの名盤、”Kind of Blue”からのマイルス作でスタンダード化したもの。本曲は、オリジナル作品に比べると、かなりテンポが速い。


【後記】
5月は全般的に春らしい生命力や朗らかさが感じられる演奏が多数あって、耳心地が良い感じ。その中で一曲だけ異色なのがオーネットコールマンのロンリーウーマン。曲の流れを断ち切る程の個性があるが、名曲なのと時期や制作側にコルトレーンの名盤とのつながりがあるので組み入れた。その間に含めた演奏を加えた1959年のこの作品群はジャズの殿堂入りクラス級で、この時期のジャズの活況を象徴しているかのよう。コルトレーンは冒頭から三曲続けて登場。「今日のジャズ」に書いた冒頭曲の最後に僅かながらだけ登場する謎が解きたい。そして「ジャイアントステップス」の旋律の音符をなぞる映像が良かったので、そちらも「今日のジャズ」で紹介した。ライブ録音のホレスシルバーの一曲では、ライブの素晴らしさとその楽しみ方を伝えたかった。春らしいボサノバの定番を二曲続けて含めてある。どちらもアメリカの大衆を意識した制作で、ジャズと上手く調和させた結果として良作になっているが、共に録音がゴリゴリジャズのルディバンゲルダーとは知らなかった。そのジョビンのアルバムでCTIレーベルの制作陣の勝ちパターンがあることを知ったのは、個人的に新たな発見だったので「今日のジャズ」に記述した。録音場所としては、大半が米国だが、デクスターゴードンのパリ録音と、それに纏わるストーリーを「今日のジャズ」に含めてみた。今月は取り上げた作品の録音日に偏りが多く、19日から24日の間に7つの録音が集中していて、録音日と同じ日に文章を掲載しているので、1日に二本掲載もあって、ご覧になる方も大変だったかも知れない。それでも一曲、掲載しそびれたケニードリューのコペンハーゲン録音演奏があるので、こちらでお楽しみください。年代的には80-90年代が入っていないのが心残り。タイトル写真は、本プレイリスト七曲目に登場しているグラントグリーンのアルバムジャケットに採用された場所(サンフランシスコ)で撮影したもの。冒頭曲のマイルス作品の紹介で、「今日のジャズ」に書いたアルバムジャケット写真の背景を探すストーリーに沿って採用。

この記事が参加している募集

私のプレイリスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?