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【プレイリスト】1月に聴く1月録音のジャズ

「January 睦月」のオリジナル解説書(CD一枚分)
※1日単位「今日のジャズ」の一月の記事の元ネタです
※「今日のジャズ」が日付順に対して、こちらは録音年月日順で、内容が若干異なります
※ 選曲後記が最後にあります
※音楽を聴いてから解説を読む事をお勧めします

19, 1957 “Star Eyes”
By Art Pepper, Red Garland, Paul Chambers & Philly Joe Jones At Contemporary’s Studio, LA for Contemporary (Art Pepper MEETS THE RHYTHM SECTION)

西海岸拠点のコンテンポラリーらしさが満載の名演奏名録音の歴史的名盤。何故か新年早々に聴きたくなるのは、フレッシュな演奏と録音に惹かれるからか。アルトサックスのアートペッパーが、当時のマイルスバンドの伴奏者を従えて、一世一代レベルの演奏を展開、それが高音質で捉えられた奇跡的な一枚。アルバム名にある”The Rhythm Section”の、”The”で、「あのマイルスのバンドの」という意味を暗示する程、誰しもが認識する当時最高峰のリズムセクションが、マイルスの統制から解放され、西海岸の開放感に溢れる環境で、伸び伸びとした演奏を展開するという好条件が揃い、若きアートペッパーも臆する事なく舞い上がるかのように歌心に溢れるメロディーを繰り出す。五月一曲目のマイルス作品の同リズムセクションと比較すると、リーダーシップのあり方、レーベルのポリシーの特徴が良く分かる。1:29からの「ガシー」三連発、2:05からのまな板を徐々に大きく叩くようなフィルインに象徴されるようにフィリージョージョーンズのタイトで溌剌としたドラミングが、このキレの良い演奏の源泉にある。ポールチェンバースのベース、特にソロの弓引きも中音太めのブルーノート調とは異なりクリアにフラットに捉えられていて新たな発見がある。曲はミュージカルコメディー映画の挿入歌で、チャーリーパーカーが取り上げてからスタンダード化していった。

31, 1957 “Old Devil Moon”
By Anita O’Day, Oscar Peterson, Herb Ellis, Ray Brown & John Poole At Universal Recording, Chicago, IL for Verve (Anita Sings the Most)

十月三曲目に登場するスタンゲッツと共演した同年のオスカーピーターソントリオに、ドラムのジョンプールが加わり、アニタオデイをバックアップ。プールはオデイに長きに渡って音楽とビジネスパートナーとして連れ添った間柄で相性が良い。元々流れの良い曲のテンポを更に速めるというボーカル息継ぎ泣かせのこの演奏では、冒頭からソロまでハーブエリスのスインギーなギターがフィーチャーされている。そのためか煌びやかなオスカーピーターソンのピアノは遠くで鳴っているような音量と録音で、プロデューサーがオデイを引き立てるために意図的に控え目に仕立てたかのように邪推したくなるほど。そう思うと、敢えてオスカーに耳を澄ましたくなるのがジャズ気狂い(ジャズキチ)の楽しみ方。脇役に回ってもオスカーのスイング力は遺憾無く発揮されている。が、オデイの歌の裏では、音量が下がったとしても少々騒がしいか。滑舌が良いが、にわかにしゃがれた声がオデイの特徴。ブロードウェイミュージカル向けに作曲されたスタンダード曲。オデイ出身地のシカゴ録音。

7, 1958 “Don’t Blame Me”
By Jean “Toots” Thielemans, Kenny Drew, Wilbur Ware & Art Taylor At Reeves Sound Studios, NYC for Riverside (Man Bites Harmonica!)

ハーモニカがジャズに融合する、それも凄まじいレベルで。それを開拓したのが、このベルギー人、トゥーツシールマンス。ここでの黒人伴奏者達は、ちっぽけなハーモニカを手にする欧州白人の堂々たる演奏に驚嘆したに違いない。アメリカ的なブルースハープではなく、音階が揃ったクロマチックハーモニカを巧妙に扱い、活き活きとしながら枯れた演奏が、この時点で完成されているのだから、ジャズハーモニカの第一人者は登場時点から凄かった。欧州人は黒人差別意識が当時の白人米国人ほどなかったことも影響して好演奏に繋がったのではないか。こういった共演や、欧州ツアー時の黒人ジャズミュージシャンに対する好意的な姿勢が、差別に嫌気の差した米国人黒人ジャズミュージシャン達の渡欧を促したのかもしれない。その渡欧組の第一人者が、ここでピアノを演奏するケニードリュー。多作に思えるドリューの1950年台の数少ない伴奏作品の一つ。アルバム名は、”Man bites harmonica”、直訳すると「男がハーモニカに噛み付く」となるが、恐らくは”Man bites dog”、「滅多に起こらない事」というフレーズにかけての命名と思われる。曲は”On the Sunny Side of the Street”、”Let’s get lost”や”Say it”等を手掛けた多作家のジミーマクヒューによるもの。

4, 1960 “Mack The Knife”
By Jimmy Smith, Quentin Warren & Donald Bailey At Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ for Blue Note (Crazy Baby!)

ギターを交えたオルガントリオ。オルガンとギターの相性は良く、それを定番化させたのはジャズオルガンの先駆者、このジミーの貢献によるもの。両手で旋律、足でベースを弾きながら、スピーカーもコントロールするという煩雑な技を最も簡単に簡単にこなしてしまうのが第一人者、ジミースミスの凄さ。左からギターの地味ながら堅実にリズムを刻むバッキング、右からブラシを使ったドラム、そして中央にジミースミス。エコーの効いた場末風な音色で、小刻みに指を動かしてビブラートをつけながらの進行を経て、2:52からのグチャグチャフレーズが繰り出されるのは遊び心の塊か。ドラムのドナルドベイリーは、タイトでメリハリの効いたスタイルでオルガンと相性が良く、特にジミースミスと長い共演歴を誇った。この頃のジミースミスの演奏は、洗練されつつも、若さゆえか泥臭いコテコテ感と若干の荒さが感じられる。ベースラインを追うと、所謂単体のアップライトベースとは若干異なる展開なのが面白く、旋律と合わせて一人オーケストラしている全体像を掴むと新たな発見がある。曲は音楽劇『三文オペラ』の劇中歌。

13 & 14, 1960 “This Here”
By Bobby Timmons, Sam Jones & Jimmy Cobb At Reeves Sound Studios, NYC for Riverside (This here is Bobby Timmons)

コールアンドレスポンスのゴスペルスタイルの楽曲と演奏で終始、作曲者であるピアノ奏者のボビーティモンズの個性が最大限に活かされたファンキーな楽曲。ジャズの有名曲、「モーニン」を作曲したのもティモンズで、これもまたコールアンドレスポンス。この演奏では、コールとレスポンスを一人で演じていて、一人でボケツッコミするピン芸人のよう。サムジョーンズによる、芯のあるベースの「ブンブンブン」、ノリの良いジミーコブによるドラムの「ツッツッタ」の間合いが絶妙に噛み合って、この曲のグルーブ感が生まれている。このトリオメンバーの共通項、ソウルフルさの相性が奏功した形で、本作以降も複数枚アルバムを残している。ティモンズは、玉手箱をひっくり返したようなジャグリング奏法で万華鏡的な展開を見せるのが聴きどころ。それが特に発揮されているのが、1:31からの次から次へと予期せぬカーブや落差が待ち構えるジェットコースターのような展開を見せるフレーズ。このような楽曲からインスパイアされ、電化され、その後、ファンクジャズが確立される。

21, 1960 “Too Close For Comfort”
By Mel Tormé, Art Pepper, Joe Mondragon, Mel Lewis etc arranged by Marty Paich At LA for Verve (Mel Tormé Swings Shubert Alley)

名アレンジャー、マーティペイチがビッグバンドを手掛けた編成をバックに名歌手のメルトーメの開放感に満ちた底抜けに明るい歌声が満喫出来る。一聴しても良く分からないが、やや脳天気に聴こえる歌声の裏には、スキャットの技量、声の強弱やビブラートといった巧みな技術があって、ジャズボーカリストからも一目置かれる存在だった。声量に課題があったため、口元とマイクの距離まで手で細かくコントロールしていたらしい。それを意識して改めて聴いてみると、オーケストラの楽曲のトーンに合わせた、かなり周到に工夫されたパフォーマンスと分かる。その歌声を右斜め上から聴こえる、ドラム名手のメルルイスが颯爽と響かせるハイハットが導き、中盤では一曲目に登場したアートペッパーが参加して鮮やかなソロを披露、一糸乱れぬビッグバンドが最後まで飽きさせる事なく展開していく。録音も良好でビックバンドボーカルのレファレンス音源としても活用出来る。楽曲は、サミーデイヴィスJR主演のミュージカル、”Mr. Wonderful”向けに作曲されてスタンダード化した。

28, 1960 “Airegin”
By Wes Montgomery, Tommy Flanagan, Percy Heath & Albert Heath At Reeves Sound Studios, NYC for Riverside/OJC (THE INCREDIBLE JAZZ GUITAR)

ジャズギターの金字塔とされるアルバムの一曲目。何処に着地するか予測不能なウエスのギターのスリリングな展開。泉が湧き出るかのように絶え間なく次から次へと噴き出すメロディーと、それを支えるテクニックは随一。ギターの音色も太く暖かみがあるのは、通常よりも太い弦を親指で弾いているから。作曲は、テナーサックスの大御所、ソニーロリンズで、曲名は”Nigeria”の逆読み。スタンダード曲の逆読みには他に人名の”Nardis”がある。共に名前にゆかりのある旋律や雰囲気がある。残念なのは録音品質だが、それを超越する凄みがここに捉えられている。ウエスのギターは勿論の事、ピアノのトミーフラナガンも好演。そのソロの裏で控え目な音量ながら和音でさりげないバッキングを送り出してグルーブさせるウエスは横綱のように受けて立つ優雅な懐の深さ。ウエスは速弾きしても余裕があるので、演奏が性急にならない技術力と無駄な音を弾かないメロディーセンス、間合いのタイム感は天性のもの。ここでは、地味ながら息の合った渋い働きをするベースとドラムのヒース兄弟にも耳を凝らしたい。ベースソロ中のウエスとフラナガンの息の合ったシンプルに呼応するバッキングもさりげなくて良い。ここまで四曲続けて1960年の一月録音。如何にこの時期のジャズが充実していたかを象徴するかのよう。そして、ここまでで、リバーサイドレーベルのReeves Sound Studioの組み合わせは三曲目。リバーサイドのオーナーのオリンキープニューズによると、映像用音楽録音スタジオとして利用されていた同スタジオは主に日中に利用されているため、夜間については安価な定額料金で契約できたそう。そしてジャズクラブで演奏して暖まったジャスメンを深夜に受け入れて録音するというような創意工夫もあって頻繁に登場、名作が生まれた舞台となった。

5, 1962 “These Foolish Things”
By Chet Baker,  Chet Baker, Rene Thomas, Benoit Quersin & Daniel Humair At RCA Italiana Studios, Rome for RCA (Chet is Back!)

欧州リズムセクションを従えてのチェットベイカー、イタリアのローマ録音。アルバム名は、ドラッグによる投獄から釈放されて「復帰」した、という意味で、釈放されてから三週間後に録音されている。このアルバムではベルギー人ギタリスト、ルネトーマのアルペジオを主体とする巧みなバッキングが堪能できる。音色は二曲後のジムホールに近いが、欧州独特の哀愁に満ちたトーンと、映画にもなった同じベルギー生まれのジプシーギタリストの大家、ジャンゴラインハルトのような音階を扱うのが特徴。この音色が何となく冬らしさを醸し出している。誰と組んでもリリシズムの個性が光るチェットベイカーの堂々たるプレイは、ジャズ界の詩人と呼んでも遜色無い程に、音を選んで紡いで重ねていく事でドラマチックな印象を残す。50秒からの意表を突くハイトーンも計算されたかのように美しい響き。六月にも登場する欧州名ドラマー、ダニエルユメールの若き日の爽やかなブラシ演奏も聴ける。上品なベースがバランスを取っているのが組み合わせの妙で、この人もベルギー人。作詞作曲は、イギリス人コンビで、書き記された詞は作曲家に電話で伝えられたという。その歌詞はフランス語にも翻訳されて定番化している。その翻訳名は「取るに足りないこと (Ces Petites Choses)」。

8, 1963 “Midnight Blue”
By Kenny Burrell, Major Holley, Bill English & Ray Barretto At Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ for Blue Note (Midnight Blue)

ギタリスト、ケニーバレルの極み、ここにあり、という音色も楽曲も演奏も三拍子揃ったブルージーな名演奏で録音も良い。出だしの、渋みのある「チャッ、チャッ」と心揺さぶるリズムギター、その後に続く「ジャーン」と枯れ響くコード、メロディーの粘りあるシングルトーン、どこを取ってもジャジーに洗練された形で弾きこなすのが、バレルの真髄だが、その中でも指折りの名演と言える。五曲前と同様に、一人コールアンドレスポンスのスタイルで、その独り言のようなノリツッコミの絶妙な間合いが気持ち良い。ソロもシングルトーン主体から後半にはコード主体に切り替わり、2:21からの泣きの和音のクライマックスを経ての展開も、単音と和音を絡める流れで飽きることが無い。コンガのアクセントと調和する、タイトでキレが良くて「ダダっ」や「カシッ」とバレルに合わせながら不定期に絶妙なタイミングでフィルインする勢いのあるドラムの絡み方がこの曲の肝で、バレルのギターに呼応しつつ、共に心地良くスイングする。作曲はバレルで同曲名のカラーとロゴを配したアルバムジャケットは、部屋に飾っておきたくなるほどお洒落。録音もアルバム名のコンセプトを受けてか深夜の静寂の雰囲気が感じられる。そこには、アメリカ東海岸の冬のしんみりとした環境が作用している事は間違いないだろう。どこを取ってもアルバムの完成度が高く、ブルーノートレコードの集大成の一つと言える。

29, 1963 “Now’s Time”
By Sonny Stitt, John Lewis, Jim Hall, Richard Davis & Connie Kay At Atlantic Studios, NYC for Atlantic (Stitt Plays Bird)

リーダーのソニースティットの演奏は、モダンジャズの始祖、チャーリーパーカーと瓜二つと言われていて、開き直ってパーカー作曲作品に徹したのが、このアルバム。似ているとはいえ本人では無くてフレーズの閃きや煌びやかさで比較すると及ばないものの、アルトサックスの鳴りの大きさと勢い、構成は、やはりパーカー譲り。リチャードデイビスのうねりあるベースの鳴りと重さが錨のように中央に配置されて演奏の安定感とスイング感を醸し出している。それとは趣の異なる上品で軽快なトーンのピアノのジョンルイスとドラムのコニーケイは、タキシードを着てジャズを上品に演奏するモダンジャズカルテットのメンバーで、この両極端な組み合わせのマッチングが妙。その間でジムホールのギターがスティットのアルトに絡みつくように浮遊する。右にピアノ、左にギターが配置されて、よく聴くとジムホールがフォービートのリズムを刻んでいることがわかる。ピアノとギターが伴奏に回ると音が重なるので演奏が難しくなるが、大人な二人は干渉しないように控え目な演奏をしている事が分かる。ちなみに、ここまで四曲続いたギターの聴き比べも面白い。ダイナミックでスリリングなウエス、繊細で哀愁の漂うルネトーマ、スタイリッシュでブルージーなバレル、そして自由自在なホール。曲はパーカー作曲のスタンダード。このアルバムジャケットのスティットを描いた抽象画は、1960年10月録音のコルトレーンのアルバム、『コルトレーンサウンド』と同じマービンイスラエルが手掛けたため、それぞれの肖像画とはいえ瓜二つ。個別だと誰だか見分けがつかないが、二つ並べて本人写真と比較すると、それぞれが誰なのか見分けがつけられる。いずれにしても印象に残るアルバムジャケット。

30, 1967 “One Note Samba”
By Frank Sinatra, Antônio Carlos Jobim, Dom Um Romão, Al Viola, Jose Marino arranged by Claus Ogerman At United Western Recorders, LA for Reprise (Francis Albert Sinatra & Antônio Carlos Jobim)

ボサノバの巨匠、ジョビンはシナトラを敬愛していたとのことで、共演が実現したのが、このアルバム。実はボサノバは、歌手付きのモダンジャズに影響を受けたブラジルの音楽家がサンバのリズムに洗練さを加えて発明したという説が濃厚で、シナトラ自身がボサノバの誕生に貢献していたのかもしれない。歌詞が秀逸で、この曲を表現しているので、解説は歌詞にお任せする。作曲はジョビン、LA録音、シナトラとワーナー・ブラザースの共同出資レーベル作品。

これは一つの音でできた、ちっぽけなサンバ
他の音は、その音に従うだけ
基本は、やはりその音
新たな音は、これまでの音の流れの顛末で
それは私があなたに出会う不可避な運命なようなもの

巷には、喋って喋って喋りまくる人が沢山いるけれど
その中身は些細なことばかり
私も知る限りの全ての音を使ってみたけれど
大したものは生まれなかった

だから、私はその音に立ち返る
私があなたの元に戻らなければいけないように
あなたへの愛情の全てを、その音にこめる
全ての音、レミファソラシドを使いたくなるけれど
結局、自分らしさは、そこには無いから
自分にしっくり来る音を使うのがいい

5-6, 1971 “One More Chance”
By Grant Green, Clarence Thomas, Houston Person, Ronnie Foster & Idris Muhammad At Club Mozambique, Detroit for Blue Note (Live at the Club Mozambique)

一聴しても良くわからないかもしれないが、マイケルジャクソンが歌ったジャクソン5の名曲をファンクジャズ調に手がけたのがこの演奏。原曲の良さを活かしつつ、それを凌駕するアレンジを施して、メロディアスに滔々とシングルトーンで唄うグリーンのギターを軸にしたバンドのライブ発掘音源で、モノラル録音しか存在していないが、演奏の素晴らしさでリリースされるに至った。デトロイトのライブハウスにおける録音で、バンドが一体化して演奏の完成度の高さが捉えられている。オルガンの雰囲気を盛り立てるバックグラウンドミュージック、サックスのアンサンブル、そしてグリーン独特の演歌的なコブシとタメの効いたファンキーながら優しさに溢れるギターが存分に味わえる。そしてファンクジャズにこの人ありという、イドリスモハメドのキレとコクのあるパワフルなドラムが、このノリの源泉となっている。収録場所は、アフリカ南東部にある国、モザンビークの名を冠したデトロイトのジャズクラブで、既に閉店しているが、このような演奏を導き出した場所には、とても興味が湧く。グリーンの陽気で気分を高揚させるファンクジャズ楽曲は唯一無二で、今でも幾つかのラジオ番組のBGMとして起用されている。仕事始めの気合いを入れるには最高のアルバム。

20, 1972 “Mystic Brew”
By Ronnie Foster, Gene Bertoncini, George Devens, George Duvivier, Gordon Edwards & Jimmy Johnson At Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ for Blue Note(Two-Headed Freap)

前曲でオルガンを弾いたロニーフォスターによる翌年の自曲演奏。ジャズスタンダードというよりも、印象のあるメロディーと展開から、局所が切り取られて多数のDJにサンプリングされて有名曲となった。ベースから始まり、ギターが乗り、鉄琴が加わり、そこにミステリアスなオルガンがピヨーんという浮遊感でコンテンポラリー音楽のように調和して進行する、独特の展開と雰囲気を持つ、ラウンジミュージックの元祖的な楽曲。フュージョン主体の伴奏者に、7月のサラボーンに寄り添った演奏で登場している重鎮アコースティックベース奏者のデュビビエがいるのが人選の妙。全てを電子楽器で纏めると人工的な音楽となるので鉄琴と図太いベース音の生音を入れてバランスを取ったのだろう。2:13から顕著なオルガンによるフレーズの繰り返しで盛り立てるスタイルは、前曲のグリーンの得意技で、ツアーを共にする中でロニーがー吸収していったものかもしれない。ここにはグリーンは参加していないが、リズム主体の都会的なギターが加わっているのも、何らかの影響があるとみる。ヴァンゲルダー録音のブルーノート作品。

7, 1974 “Daydream”
By Al Haig, Gilbert Rovere & Kenny Clark At Olympic Studios, Barns, UK for Spotlite Records (Invitation)

アメリカ白人ピアニスト、アルヘイグによるロンドン録音トリオ作品。ヘイグはパーカー、マイルスやゲッツと50年代のビバップ創世記に共演歴のある実力者。70年代にイギリスレーベルのスポットライト創設者に招かれて欧州に拠点を移し、幾つかのアルバムを遺した。この作品では、背筋の伸びるような端正で華美な演奏を繰り広げる。ここでは大人しめのドラムのケニークラークは、両手両足を分離させることで生まれるオフビートによる多彩なリズムによって演奏に刺激をもたらすスタイルを確立したモダンドラム創始者の一人。後年は欧州に移住してジャズの欧州定着に貢献した。前曲のような電化音楽が主流になる中でも欧州でアコースティックジャズが生きながらえていたのは、こういった欧州移住ミュージシャンの貢献が大きい。録音はビートルズ、ローリングストーンズやジミヘンドリクスらが度々収録したロンドンの著名スタジオ。時期的にこの作品は同スタジオが関わったレッドツェッペリン全盛期の「聖なる館」と「フィジカルグラフィティ」の間に位置する。キレの良い音の裏にある空気の冷たい張り方が何となくイギリスの冬のように感じられる。曲はエリントンの右腕、ビリーストレイホーンの作曲。

11-12, 1983 “I Fall In Love Too Easily”
By Keith Jarrett, Gary Peacock & Jack DeJohnette At Power Station, NYC for ECM (Standards Vol. 2)

※アルバム収録曲ではない、ライブ録音音源

キースジャレット、フュージョン全盛期に純ジャズで挑む。これもまた欧州レーベルのECMだからこそ成立した企画と言える。本アルバムは、Vol.1と、その二年後に2として分けて販売されているが、両者は同日録音であり、どういう基準で分割されたのかが気になる。この曲はVol.2からの選曲。印象としては、前者がフレッシュなエネルギー色が強く、後者が落ち着いたバラード主体で、厳選されたスタンダード曲を腕利きのトリオがアドリブで聴かせるスタイルの原点がここにある。ECM録音だけに透明度が高く、デジョネットのシンバルのきめ細やかさや、キースのダミ声も捉えられているのはこの最初の作品からトリオ終了まで一貫したスタイル。若干ベース音が控えめで中音寄りなのが80年代の特徴か。この年にカセットテープがレコードの売上とほぼ五分五分となるが、このアルバムはカセットでは販売されず、レコードと当時生まれたばかりのCDで発売された。作曲は、“Let it Snow”を手掛けたジュールスタインで、この曲はジーンケリー主演映画、『錨を上げて』で、フランクシナトラが歌ってヒット、アカデミー賞の作曲賞を受賞してオリジナルソング賞にもノミネートされたものの、同じくジャズスタンダード曲となった巨匠コンビのロジャースとハーマンシュタインによる“It Might as Well Be Spring”に軍配が上がった。

3-4, 1988 “Three Little Words”
By Branford Marsalis & Milt Hinton At Astoria Studios, NY for Sony (Trio Jeepy)

年齢差50歳のベースとテナーサックスのデュオ演奏。当時77歳の年齢を感じさせない、ベース奏者のミルトヒントンによる若さに溢れるイキイキとしたリズム、グルーブ感、音量とビート力に驚かされる。何よりも演奏することの喜びが伝わってくるのが、この録音の素晴らしさ。一方、サックスのブランフォードは、当時27歳。ここでは奔放で豪快なソニーロリンズのスタイルで、若くして成熟したプレイを聴かせる。ブランフォードは、この前年にスティングの”Englishman in New York”で、ソプラノサックスを吹き込み、デビットフィンチャー監督による同ミュージックビデオにも登場している。録音は、音の反響からすると、かなり天井が高い印象を受けるが、場所はニューヨークのクイーンズにある、アカデミー賞にノミネートされた「グッドフェローズ」等の映画撮影スタジオ。熱気を帯びた演奏からすると一月の季節感は薄いが、クリスマス直後で暖かい気持ちを保ちつつ、暖まったスタジオ、その場の雰囲気で、このような演奏が生まれたのだろう。生音をそのまま捉えたリアルなアコースティック感が、当時の電子楽器最盛期においては、特に斬新で売れ行きも良く、行き過ぎた末の原点回帰のトレンドが垣間見え、その後にロックもアコースティックに回帰してMTVの「アンプラグド」が生まれる。曲は1950年に公開されたアメリカ合衆国のミュージカル映画、『土曜は貴方に』から。レーベルは弟のウィントンと同じくソニー。発売当初はLPとカセットテープで販売された。

23-25, 1998 “You Go To My Head”
By Steve Grossman, Michel Petrucciani, Andy Mckee & Joe Farnsworth At Studio Davout, Paris for Dreyfus (Steve Grossman with Michel Petrucciani)

前曲から10年後、新興フランスレーベルのドレフュスが頻繁に起用したパリの名門スタジオ録音。リーダーのスティーブグロスマンは、コルトレーン的な演奏スタイルでマイルスのバンドに加わったが、前曲のブランフォード同様にソニーロリンズにも影響を受けていて、ここではロリンズのスタイルで優雅に豪快に芯と艶のあるサックスを吹かす。ドレフュスの顔となったピアノのペトルチアーニが参加する事で、その特徴あるメリハリある録音もあって生命感に溢れるダイナミックな演奏となっている。2:18から二十秒近く続く南京玉簾的に続く高速16部音符メロディーはペトルチアー二の得意技。これに触発されてグロスマンの演奏も後半につれて熱くなる。張りのある透き通った深みのある響き方からするとピアノはペトルチアーニと相性の良いスタインウェイ。曲は「サンタクロースがやってきた」を作曲したフレデリッククーツによるスタンダード。三曲前のロンドン録音の空気感と似通っているようだが、録音の仕方が、何処となくクラシックっぽく聴こえる。

3, 1996 “People Get Ready”
By Eva Cassidy, Hilton Felton, Keith Grimes, Lenny Wiliams, Chris Biondo & Raice McLeod At Blues Alley, Washington, D.C. for Eva Music (Live at Blues Alley)

天使の歌声と形容される、夭折の歌姫エヴァキャシディによる、ワシントンD.C.にある名門ジャズクラブ、ブルースアレイでのライブ録音。キャシディの声の感性への訴えかけ方は尋常ではなく、英国ラジオが取り上げたところ、問い合わせが殺到して全英一位になり、その波がアメリカにも押し寄せて母国の全米一位にも到達したが、その時点でキャシディは天に召されていた。更に有名になったのは、当時アメリカ代表のアイススケーター、ミシェルクワンがエキシビジョンの音楽としてスティング作曲の”Fields of Gold”を採用した事による。このオリジナル曲の良さにキャシディの声が合わさると、心が持っていかれてしまう。それに留まらず、このライブでの歌唱とバンドのパフォーマンスは、この上なく素晴らしく、ジャンルに縛られずに、サッチモの名演で有名な「このすばらしき世界」、R&Bの名曲「ピープルゲットレディ」、サイモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」等の名演が、繰り広げられる。演奏のみならず、録音も上質でオーディオ用レファレンスとして活用できるアルバムの一つ。通しでアルバムを聴くと、ジャズは、やっぱりライブが良いな、と改めて教えてくれる貴重な一枚。それも臨場感ある録音があってこそ。キャシディに感謝して一月の終わりとしたい。

【後記】
お正月には、何故かこのアートペッパーのアルバムを聴く。フレッシュで解像度の高いサウンドで心情的にリセットしたいのと、改めて年始にこのレファレンス的な録音を聴いてオーディオの状態を確認したいから。

一月は幸先良くローマ、パリ、ロンドンといった欧州録音が欧州アーティストと共にバランス良く組み入れられた。米国録音とは異なるテイストと空気感が感じられたら嬉しいし、ホリデーシーズン直後の落ち着き的な雰囲気もあるかもしれない。

今回、個別に紹介するにあたって掘り下げたのは、ソニースティットのアルバムジャケットを手掛けたマービンイスラエルとグラントグリーンが登場したクラブモザンビークのふたつ。どちらも調べてみたら、面白い発見があった。前者の抽象画に似た写真選びは、やり甲斐があったし、後者の移り変わりもアメリカ的な印象を受けた。

それと、シナトラとジョビンのサイドストーリーとして、トリビュートアルバムを制作したジョンピザレリを取り上げた。ステージもステージを降りても、まさにエンタテイナーで、とても気さくな人という印象。

最後のエヴァキャシディの演奏は、心に迫るクオリティから、どうしても入れたかった。選曲によってかなり印象が変わるので結局、CDとしては、本編に加えて「Field of Gold」と「What a Wonderful World」の三パターンを作成した。元気を出すなら本編、しっとりするなら二番目、ほのぼのしたければ三番目という感じで気分に酔って使い分けるイメージ。

写真は、ビルフリゼールのテレキャスター。チャールズロイドのコットンクラブ公演時の写真。この翌日に出張で成田空港に行くと、なんと同じ便にフリゼールを発見。一緒に写真を撮ってもらった。フリゼールは当時シアトル在住でサンフランシスコ経由で去って行った。

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