見出し画像

今日のジャズ: 2月15日、1954年@ロサンゼルス

Feb. 15, 1954 “But Not For Me”
By Chet Baker, Russ Freeman, Carson Smith & Bob Neel At Capitol Studios, LA for Pacific Jazz/Capitol Records (Chet Baker Sings)

大作曲家のガーシュイン兄弟が手掛けて1930年に初演されたミュージカル、”Girl Crazy”から複数生まれたジャズスタンダード曲のひとつ。軽快なサウンドのウエストコーストジャズの初期作品の一つで、チェットベイカーの口ずさむようなボーカルに焦点が当てられた初ボーカルアルバムとなる。その一曲目が本作。

西海岸特有の乾いたサウンドとはいえ、レーベルが解像度の高いコンテンポラリーではなくて、パシフィックジャズなので、どちらかと言うとシビアではないバックグラウンドミュージック的な趣向。良い意味でトゲやメリハリがなく、トランペットも軽やかで最初から最後まで耳触りが良い。とはいえ、何度聴いても飽きない奥深さがあるのが名演奏たるところ。

元々、歌を歌っていて、トランペットで名を成してから、歌とトランペットを駆使したパフォーマンスをするようになった経緯は、先人で二十八歳年上のルイアームストロングと同じ。だが、白人と黒人でスタイルも全く異なる。お互いにどう意識していたのだろうか。ゴリゴリのダミ声のルイに対して、囁きで爽やかなチェット、両者共に自らの天賦の個性を存分に発揮して成功したのが共通項。そして、2人共に一つだけでも難しいのに歌もトランペットも気張る事なく軽々と上手にこなしてしまうのが凄い。力みが無く歌でもトランペットでも一貫したメロディーがとめどなく溢れ出る。

演奏ではピアノソロ後の2:33からのテンポを外したバンドのアンサンブルが粋。

正直、チェットの歌は甘過ぎる印象を受けていて、聴かず嫌いもあって、好きになれずに長らく敬遠していたが、聴いていくうちに、その良さに気づくようになった。表面的には聴きやすい大衆音楽であるが、聴き込むうちにチェットが安請け合いせずに真摯に音楽に向かい合っていて、決して手を抜いていないことが伺えるようになったからだ。その証として何度聞いても飽きない。優しく聴こえる音楽は、ジェンダー的な観点から中性的と形容されるが、聴きようや受け止め方によっては、硬派にも受け止められるという点においても当てはまる表現だと思う。

本投稿の実施を2/15日に失念してしまったので、遅ればせながら他の記事の合間に掲載しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?