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ジャズ記念日: 8月15日、1970年@ニューアーク

August 15, 1970 “Sookie, Sookie”
by Grant Green, Claude Bartee, Willie Bivens, Neal Creque, Idris Muhammad & Joseph Armstrong at Cliche Lounge, Newark, New Jersey for Blue Note (Alive!)

60年代後半から、米ソ冷戦に起因するベトナム戦争への本格介入と泥沼化といったアメリカの社会情勢や、それを受けたロックの普及と共にジャズが多様化していく。

ブルーノート専属のジャズギタリストとしてデビューしたグラントグリーンは、約十年後にこの潮流に乗り、ジャズとロックを融合させたジャズファンクなる独自のジャンルを開拓して、ロックやR&Bのヒット曲をインストゥルメンタルで披露して一定の評価を得る。

この曲のように、ロックのヒット曲にアレンジを加え、オルガンを起用して同じリズムやメロディーを何度も繰り返すコテコテな演奏によってグルーヴ感溢れるノリを生み出し、盛り上げる展開。
原曲は、「ワイルドで行こう」のステッペンウルフによる1968年の作品。

この曲には、「ブルースブラザーズ」に登場する敏腕R&Bギタリスト、スティーブクロッパーが共同作曲者として名を連ねている。

Booker T. & the M.G.'sバンドでもお馴染み

さて、本演奏に話を戻すと、夏の熱気が感じられると共に、何となく夏祭りの「わっしょい、わっしょい」的な盛り上がりがあって真夏に聴きたくなる。鉄琴とコンガがアクセント。前半にかけて前者は同じキーを異なるリズムで送り出し続ける事でグリーンのギターソロを盛り立てている。

上品な構成美で満たされるお手本的なウエスモンゴメリーの予定調和なオーケストラを交えたシングルトーンギターのフュージョンとは対極にあり、各奏者のアドリブが随所に織り込まれているが、バンドの一体感で押しまくるスタイルは、この録音で背景に聴こえる観客の掛け声のように一部の熱狂的なファンを生み出し、現在に至っている。

オルガンの驚異的にドラマチックなソロが異様な盛り上がりを見せる。その直後の3分半に渡るテーマメロディーのリフレインを背景にしたギター、鉄琴と手数を増やしたドラムの絡みも面白い。

この曲は、グリーンの死後、特徴的な主旋律をUs3が後年にサンプリングに使用した事で更に世に知られるようになった。一分過ぎから登場する「ワダダダンダダデ」は、何処かで耳にしたことがあるかも知れません。

それにしても、グランドグリーンのブルーノート後期のアルバムジャケットデザインのセンスの無さは、本人の意向だったのだろうか。これがグリーンらしさだと言われれば、確かにそうだろうな、と思う反面、もう少し気を遣えば商業的にも認知度も上がっただろうと勝手に思う。特に手を取るのをためらう本路線と同じ1972年の怪作のジャケットはこちら。これでは購入するにも値しないように思えてしまうが、中身は本アルバム同様に名演の宝庫。

期待値コントロールは十分なのかも、、、

因みに本アルバムのジャケット写真は、どこで撮影したのか知る由もないが、ブルーノート創設者の一人、フランシスウルフによるもの。

この泥臭いシングルトーンのギターに、バンドのアンサンブルというスタイルは、もちろん先のウエスモンゴメリーがいるものの、現代に流れるロック調の音楽というと、畑違いのように思われるが、洗練されたジャズギタリストのパットメセニーを思い起こす。バンド全体がギターのシングルトーンのメロディーで一つに束ねられてドラマティックな展開を見せる、その共通項があって色々調べたが、メセニーのインタビューでもグリーンについて登場するものを見た事がない。メセニーにとってのギタリストは、ウエスモンゴメリーがアイドルなのだ。

何故そう感じるのか。例えば本曲終盤の7:45からのギターソロの展開は、まさにパットメセニーでも異色のシーケンサードラム等を起用した何故か夏に聴きたくなるアルバム、”We Live Here”の全体を通して、特に分かり易いところで言うと冒頭曲、”Here to Stay”の終盤6:09からの主旋律をバックグラウンドにしたアドリブの全体的な展開が類似しているように聴き受けられるからだ。

何か共通項があるかもと思って調べたら、二人とも同じ中西部のミズーリ州の出身だった。パットメセニー本人に、グラントグリーンの影響や個人的な見解について、ぜひ聴いてみたいところ。

話を戻して、この演奏場所は、ニューヨーク便の一つのハブ空港がある、ニュージャージー州のニューアークにあったクリシェラウンジという場所。その昔、この地域で黒人が宿泊を許されたラグジュアリーホテルで、ビリーホリデイも宿泊したというダグラスホテルにあったとの由。

黒人差別に起因する公民権運動前の黒人の宿泊先問題については、傑作映画「グリーンブック」をご覧ください。公演でアメリカ各地を興行する黒人ジャズピアニストと、イタリア移民運転手の感動的な物語。

御用達ピアノとしてスタインウェイも登場

さて、グリーンをもう少し聴いてみたい方は、こちらもどうぞ。

本作と同じファンクジャズのライブ演奏の名作。

グリーンと相性の良いハモンドオルガンを含んだデビュー初期のハードパップのトリオ作品。

最後に、ミズーリ州のあるジャズの聖地の一つ、カンザスシティにご興味がある方は、こちらをご覧ください。

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