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#36 英雄の英雄たる所以

 2月になると、やはり春って感じがぐっとしてきますね。1日にセパ12球団が一斉にキャンプイン、ニュースやYouTubeで選手たちの練習を見ていると、シーズン来たぁぁぁ!!!っとちょっと興奮してきます。

 ですが練習だけでは飽き足らず、過去の試合動画をあさってしまうのですが、毎回毎回、何度も見てしまう個人的名場面がいくつかありまして、ひとつずつ記事にしていこうかなと思います。気になった方はYouTubeで検索してみてください。ベタなので必ずあります。


 今日取り上げるのは、2014年9月25日ニューヨーク・ヤンキースの本拠地ヤンキースタジアムで行われた一戦。このシーズンを最後に現役引退を表明していた、英雄デレク・ジーターにとっての本拠地最終戦であり、後に伝説として語り継がれるであろうあの試合です。

 全てがジーターのための日

 この日のヤンキースの先発は、広島とドジャースでも活躍した黒田博樹投手でした。ジーターの花道を飾るべくマウンドへ上がりますが、いきなりつまづきます。初回に2ランを浴び、お祭り騒ぎはブーイングへと変わります。

 しかしその裏、ランナー1塁からレフトフェンス直撃のタイムリー2塁打。その後相手のエラーが重なりすぐさま同点に。スタジアムも再びお祭り騒ぎです。黒田投手は2回以降立ち直り、8回3安打2失点9奪三振の快投を見せます。3回3アウト目以降8回まで16人連続アウトという圧巻の内容。ジーター自身も1安打2打点1得点、7回のショートゴロ(相手のエラー)も合わせればとチーム5得点中4得点に絡むというラッキーボーイぶり。これだけでも、かなりのインパクトを残した最終戦といます。ジーターはこの試合送球エラーも記録しており、いいところも悪いところもファンはしっかり目に焼き付けたことでしょう。

 5-2とヤンキースリードで迎えた9回表、満を持してセーブ成功率9割超えのクローザー、ロバートソンがマウンドに上がります。このまま有終の美を飾ると思ったのもつかの間、ここでまさかの2被弾3失点。勝利ムードは一変、黒田投手の勝ちは消えチームに暗雲がたちこめます。

 伝説は一瞬にして訪れた

 そして9回裏。ヒットと送りバントで1アウト2塁の一打サヨナラのチャンス。ここで打席は、ジーター。満員のスタンディングオベーション、あちこちで湧き上がる「デレク・ジーター」コール。かつての名物アナウンサー故ボブ・シェパード氏のアナウンスさえ、まるで応援のように聞こえます。異様な興奮が冷めやまぬまま迎えた初球、左わきを大きく開ける独特の打撃フォームで捉えた痛烈な打球は1-2塁間を抜けライト前へ。2塁ランナーがヘッドスライディングで生還し、サヨナラ勝ち。最後は彼が現役時代に何度も見せた、芸術的な流し打ちでした。漫画でも出来すぎなこの展開は、何度見ても鳥肌が立ちます。

 ちょっと小話

 実は8回終了時点で、ヤンキースのジラルディ監督は黒田投手に9回途中まで続投を提案していたそうです。イニング途中でファンに見送られてマウンドを降りてはどうかと。黒田投手は日本復帰を見据えて、複数年契約のオファーを断りあえて毎年単年契約を結んでいました。この提案はこのシーズン限りで退団の可能性もある黒田投手に対する、最大限の敬意の表われでした(結果的に黒田投手は翌シーズンから日本プロ野球界に復帰しました)。しかし、指揮官の粋な計らいを「今日は僕の日ではない」と固辞したそうです。たらればの話ですが、この日の黒田投手の調子であれば9回も抑えていた可能性は高かったでしょう。

 英雄の英雄たる所以

 ヤンキース一筋20年、ワールドシリーズ制覇5回。通算3465安打(歴代6位)、544二塁打は球団記録であり、遊撃手としてはMLB歴代最多です。これだけの実績がありながら、打撃だけでなく守備でも度々ビッグプレーで魅了するわけですから、英雄と慕われて当然です。

 また、ジーターは人格者としても知られています。ジョー・トーリ前監督は「最初から教育するところがあまりなかった」と語り、イチローに「欠点がないところが欠点」と言わしめました。超一流のプレイヤーは、世界一厳しいといわれるニューヨークのマスコミ、ファンへの対応も超一流だったのです。彼が英雄たる所以は、こういうところにもあるのかもしれません。


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