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【MLB】アストロズに迫り来るチームの過渡期

ポストシーズンでの結果で、その年のチームの出来不出来を述べることは無理があると思っています。

今季のポストシーズンではレギュラーシーズンで100勝以上を記録したブレーブス、ドジャース、オリオールズが地区シリーズで一方的に敗れたこととが印象的でした。これらのチームにとって終わり方はよくなかったのですが、2023年シーズンは十分成功だったと考えています。



ただ、レギュラーシーズンで好調だったチームのポストシーズンでの敗戦が、”チームの過渡期”を象徴するようなこともあります。





【ヤンキース】2004年 リーグチャンピオンシップシリーズでの敗退


例えば2004年にリーグチャンピオンシップシリーズで敗退したヤンキース。

ヤンキースは1997年、2002年の地区シリーズで、それぞれインディアンズ(現ガーディアンズ)、そしてワールドチャンピオンになるエンゼルスに敗れたものの、1996年から2003年の8年間で6回ワールドシリーズに進出し、そのうち4回もワールドチャンピオンに輝いていたチームでした。

もちろんレギュラーシーズンで101勝し、ア・リーグ東地区で優勝をした2004年もワールドチャンピオンを期待されてポストシーズンに臨みました。レッドソックスとのカードとなったリーグチャンピオンシップシリーズでは初戦から3連勝。特に第3戦は19-8の大勝であり、一気に王手をかけました。

第4戦も9回までリードするものの、クローザー・リベラが同点に追いつかれ延長12回にデビット・オルティスのサヨナラ弾で逆転負け。

その後もオルティスの神がかり的な活躍もあり、3連勝のあと4連敗し、ワールドシリーズ進出を逃しました。

結果的にこの年のポストシーズンの敗戦がチームにとって転換期となり、翌年以降、地区優勝はするものの毎年のように地区シリーズで敗退。また、2008年にはポストシーズン進出も逃しています。

同時期に同地区のレッドソックスが2004年、2007年とワールドチャンピオンになったこともあり、2004年のリーグチャンピオンシップの敗退以降、長らくヤンキースの勝負弱さが目立ちました。


【フィリーズ】2011年 地区シリーズでの敗退

もうひとつの例は2011年の地区シリーズで敗退したフィリーズ。

フィリーズは2007年にナ・リーグ東地区を優勝して以降、2011年まで地区5連覇を達成するなどまさしく王朝を築いていたチーム。2008年にはワールドチャンピオンに輝き、翌2009年もヤンキースに敗れるもののワールドシリーズまで進出しています。

この時代のフィリーズはライアン・ハワードのチームでした。

ハワードは2005年にジム・トーミの怪我で出場のチャンスを得ると88試合で22HRを放ち新人王を獲得。翌2006年には58HRを放ちホームラン王、そしてリーグMVPに選出されています。

2年後の2008年にもホームラン王(48HR)、打点王(146打点)に輝くなど、2007年以降もリーグ屈指の攻撃力を発揮し、チームの地区5連覇、2008年のワールドチャンピオンに大きく貢献しました。


さらに、フィリーズは2010年にロイ・ハラデイ、2011年にはクリフ・リーを獲得し、よりチームを強化。2011年はこの二人にハメルズを加えて強力な先発3本柱を形成してレギュラーシーズンで101勝を挙げ、自信をもってポストシーズンに臨みました。

ただし、ポストシーズンでは地区シリーズでカージナルスを相手に敗退。

最後のバッターとなったハワードは1塁への走塁中にアキレス健を負傷。結果的にこの怪我がハワード自身のキャリアに大きな影響を与えただけでなく、チームも翌年以降10年間もポストシーズンに届かず、長い低迷期を迎えました。


【アストロズ】2023年 リーグチャンピオンシップシリーズでの敗退


そして、今季のリーグチャンピオンシップシリーズで同ア・リーグ西地区のレンジャーズに敗れたアストロズ。


2017年以降、今季まで7年連続でリーグチャンピオンシップシリーズに進出し、4度ワールドシリーズに進出、2度ワールドチャンピオンに輝くなど、アストロズもヤンキース、フィリーズと同様に一時代を築いていたチームです。


アストロズのチーム作りの根幹はスカウティングと育成です。

2009年から2014年までの6年間で4回の地区最下位、最下位を逃れた2010年、2014年でも地区4位と低迷していたこともあり、それぞれの年の翌年のドラフトでは上位の指名権を獲得。

そのドラフトで上位指名したのが以下の選手であり、アストロズの一時代を担った、また今現在担っている選手です。

  • ジョージ・スプリンガー(2011年ドラフト全米11位)

  • カルロス・コレア(2012年ドラフト全米1位)

  • アレックス・ブレグマン(2015年ドラフト全米2位)

  • カイル・タッカー(2015年ドラフト全米5位)

他、アルトゥーベ、アルバレス、バルデス、ハビエア、ガルシア、マカラーズJr.といった選手も、ドラフトではないものの海外FAやトレードで獲得し、自チームでデビューした生え抜き選手になります。

アストロズは2020年以降、コールやスプリンガー、コレアといった中心選手がFAでチームを抜けるも、昨季のペーニャを筆頭にその育成力から代わりの選手がすぐに台頭し、チーム力を維持していました。


そんなアストロズですが、今季のリーグチャンピオンシップシリーズではレンジャーズに敗退。第7戦までもつれ込む展開ではあったものの、第6戦では2-9、第7戦では4-11と大敗し、勝敗以上に力の差がついたシリーズであり、同時に、今後チームの過渡期が確実に迫っていることも感じるものでした。


ベテランに依存していた打撃陣


このポストシーズンにおいて、打撃陣はベテランに大きく依存していました。
アブレイユ(36歳) 4HR / OPS .945
アルトゥーベ(33歳)4HR / OPS .906
ブレグマン(29歳)4HR / OPS .932
アルバレス(26歳)6HR / OPS 1.487
タッカー(26歳)0HR / OPS .517
ペーニャ(26歳)0HR / OPS .463
ディアズ(25歳) 0HR / OPS .142

若手はアルバレスの爆発があったものの、タッカー、ペーニャ、そしてマルドナードの後継者として期待したいキャッチャーのディアズはそろって打線の中でブレーキに。

特に長年チームを支えていたアルトゥーベは来年34歳になります。データ上では今季スピードが低下し、守備範囲も狭くなりつつあります。また、まだまだMLBで優秀なほうですが、空振りもアルトゥーベにしては増えてきており、来季以降パフォーマンス低下の可能性が考えられます。

アルトゥーベやブレグマンがベテランに差し掛かったチーム状況の中、このポストシーズンでは彼らの後を継ぐように、若手の選手がチームを引っ張る姿を魅せたかったのですが、不調。世代交代はそう簡単にはいかないと感じました。

コアメンバーの流出リスク

さて、そんなワールドチャンピオンに輝いた2017年からアストロズを支えた生え抜きのコアメンバーもFAが迫ってきています。

これまでもアストロズは2017年時点の生え抜きレギュラーのうち、2021年にジョージ・スプリンガーがブルージェイズへ、カルロス・コレアがツインズへ移籍しています。

そして来季終了後、アルトゥーベ、ブレグマンもFAとなり、他球団へ移籍の可能性があります。


これらのメンバーはジーター、ポサダ、ペティット、リベラのようなヤンキースのコアフォーのような存在。チームが低迷していた時期に加入し、チームの成長と共にMLBでのキャリアを築いてきた選手であり、まさしくヒューストンのハート&ソウル。チームから離れるとなると、憎たらしいほど勝負強かったアストロズの”コア”が失われる可能性があります。


アストロズは2022年に106勝を記録しましたが、今季は90勝止まり。1年で16も勝利数を減らしています。来季に限ってはまだ大きくメンバーの入れ替えはなさそうなので、同じようにポストシーズンに進出の可能性は高いと考えられます。

ただ、彼らの後を継ぐようなアストロズのベースボールを体現できる選手の世代交代が求められており、来季中にそれができないとなると翌2025年以降にチームの根本的な再構築が必要になる可能性があります。

アルトゥーベ、ブレグマンが抜けるとなると、打線はアルバレス、タッカー頼みとなり、仮にどちらかが故障、長期の離脱をするとなると片方が孤立。ここ数年エンゼルスで観たようなシチュエーションが、アストロズでも起こりうるかもしれません。



強すぎた時代の副作用


そして、今後の世代交代のハードルとなっているのがマイナー組織の枯渇問題。

近年は長くレギュラーシーズンで好成績を残してきたこともあり、ドラフトで上位指名権を得ることができていません。また、2020年、2021年はサイン盗みのペナルティとして、上位1位、2位の指名権をはく奪され、2年続けてトップレベルのアマチュア選手を指名することができませんでした。ようやくペナルティが空けた2022年も、1位指名した選手を今季夏のバーランダーとのトレードで放出しています。

MLB全体としてはトッププロスペクトとされていなかったペーニャが急成長した例もありランキングがすべてではないのですが、現在のMLB全体のプロスペクトランキングトップ100にアストロズの選手は皆無であり、最新のマイナー組織のランキングではMLB全30球団中最下位の評価となっています。


マイナー組織の充実は次世代の選手の供給に留まらず、トレードでチームのウィークポイントを柔軟に補強するために必要なリソースにもなります。持続可能なチームには必ず優秀なマイナー組織が必要なのですが、今のアストロズにはそれが備わっていません。



以上、アストロズが迎えうる過渡期と世代交代の必要性についてまとめました。


もちろんドジャースのように、一度ポストシーズンで敗れたとしても毎年のようにレギュラーシーズンを制圧し続けるチームも存在します。


ただ、今季のアストロズのポストシーズンの敗退は、純粋にレンジャースよりも1敗多かっただけという以上に、今後のチームの行方を映すようにも見えました。



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出典、画像引用元
https://www.houstonpublicmedia.org/articles/news/sports/2023/10/24/467566/cristian-javier-struggles-as-houston-astros-lose-to-texas-rangers-in-alcs-game-7/
https://www.mlb.com/
https://www.baseball-reference.com/
https://baseballsavant.mlb.com/


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