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【MLB】大谷を迎え入れるための"大谷最適化"されたチームの条件とは

162試合のレギュラーシーズンも各チーム残り10試合を切り、ポストシーズンの枠も半数程度埋まってきました。
そして、来週には1か月のポストシーズンがあり、MLBはクライマックスを迎えます。


ポストシーズンが終わるとストーブリーグ。

待ちに待った、みんな大好き大谷がメディアの主役になる季節がまたやってくるのです。


大谷は先発投手としても打者としてもMLBトップレベルの成績を残せる選手であり、チーム力を一気に向上させることのできる、いわば劇薬。その分、チームにとって副作用的な面もあることも事実です。

2018年のMLBデビュー以降、大谷は肘や膝の怪我による離脱があるなど、エンゼルスは試行錯誤しながら6年間の在籍期間の中である程度、二刀流・大谷を最大限生かせるような環境を用意することはできたと思います。
ただ、残念ながらチーム強化へつなげることはできませんでした。

今回は、今オフFAとなる大谷の能力を十分に生かせ同時にチーム力強化にもつなげられることができるような、"大谷最適化"チームの条件についてまとめました。




シーズンを通してDHを空けられる

まず前提となるのが、シーズンを通してDHのポジションを空けることができること。
「空けることができる」という意味は単にDHに不動のレギュラーがいないというだけではなく、野手の半休養日としてローテーションしながらDHを利用する起用法をしていないこと、も含まれます。

大谷は二刀流を続ける以上、守備に就くことは現実的ではなく、どうしてもフルタイムでのDH起用となり、移籍先のチームではDHが完全にロックされます。


最近ではレッドソックスのオルティズやマリナーズのマルティネスのように、DHのレギュラーは少なくなっています。
今季でいうと、大谷を除いてDHとして規定打席に達してしているのはブレーブスのオズーナのみ。他はドジャース(DJ.マルティネス)、レッドソックス(ターナー)、パイレーツ(マカッチェン)、マーリンズ(ソレーア)、ホワイトソックス(ヒメネス)、ナショナルズ(メネセス)が特定の選手をDHとしてメインで起用(400打席以上)しています。

ただ、基本的にDHで固定されているのは中長期的にチームの主軸とは考えにくいベテランの選手であり、大谷加入へのネックとはなりにくいと考えています。


厄介なのが、もう一方の条件である「DHを固定せず、野手陣の半休養日として活用している」チーム。

例えば、ヤンキースは毎年チーム構成上ベテランが多く、今季はスタントンだけでなく、ジャッジ、トーレス、ドナルドソン、ラメイヒューを定期的にDHとして起用しています。歴史的にも2009年にワールドシリーズでMVPに輝いた松井秀喜を同年オフに、「チーム方針としてDHは固定しない」という理由で再契約しなかったのがヤンキースでした。

他にもブルージェイズ(ベルト、ゲレーロJr. 、スプリンガー、カーク等)や、意外にもオリオールズ(サンタンデール、ラッチマン、マウントキャッスル、ヘンダーソン等)も積極的にDHで出場するメンバーをローテーションしています。


しかし、大谷の加入によってこのような起用ができなくなり、チーム全体でDHを活用し体力をコントロールしながらシーズンを戦うということができなくなります。


そのため、シーズンを通してDHを完全に空けることができるかどうか、その覚悟はあるのかという点は大谷最適化のチームの第一歩となります。




長期契約の野手が少ない

また、DHを空けることができるかどうか、にも関連するのですが、長期契約の野手がいないことも重要な要素です。

近年、MLBでは30歳前後の野手に対して安易に40歳を超えるシーズンまでの長期契約を結ぶケースが多くあります。

それを可能にしているのは、MLB全体でバブル真っただ中で経済的な余裕があるというだけでなく、野手に関しては30代後半で守備力が落ちた場合もDHとして延命することができるというのも理由として挙げられます。特にナ・リーグでも2022年にDHが採用され始め、打撃特化のベテラン選手にとっては追い風となっています(最近でいうとフィリーズと契約したシュワーバーやカステヤノス)。

ただ、後々にまだまだバッティングではチームに貢献できるベテラン選手がいたとしても、DHに大谷が固定されている状況ではなかなか試合に出場させることができません。そうなると、ベンチを温めることが増え、結果的にサラリーに見合った成績を残せなくなるのです。


日本のファンならこの例のさんざん見てきたでしょう。

エンゼルスは2012年にアルバート・プホルスと10年契約をするのですが、プホルスはエンゼルス加入後は足の怪我もありDHとしての出場が増え、36歳となる2016年からはほぼDHとして固定して起用されていました。
ただ、2018年にチームに大谷が加入するとDHとしての出場も限定的に。無理してファーストの守備についてはいたもの、痛々しさがあり、打撃成績もOPS.700前後と期待される役割を果たすことができていませんでした。

結局、プホルスはエンゼルスと後味の悪い別れ方をし、ドジャースを経由して2022年に古巣カージナルスへ再加入。主にDHとして起用され、キャリアの最終年ながら24HRを記録。シーズン終盤に通算700HRも達成するなど有終の美を飾りました。


プホルスだけでなく、禁止薬物使用のお勤め明けのA-RODや、ミゲル・カブレラ、ネルソン・クルーズもDHの恩恵で延命できた選手です。


延命とは意味合いが異なりますが、昨季、肘を故障したハーパーが試合に出場できたのもDHがあったためです。


このように、チームの主軸として依存度が大きい選手が長期契約を結んでいる場合、将来的にDHのポジションに空きがあるかは重要になります。ただ、大谷が加入することによってDHを使うことができず、長期契約をしている野手の守備力の低下はダイレクトに出場機会の減少につながり、チームとして一気に大きなリスク要因となるのです。



大谷をサポートできるバッターがいる


もはやMLBを観る者にとっての共通認識、大谷がいるチームに、大谷をサポートできるバッターがいるかどうか。

MVPを獲得した2021年、そして今季と、大谷の次のバッターの重要性は細胞レベルで実感したことでしょう。

後続に打撃が強くないバッターがいるケースでは、チャンスで大谷の打席になると明確に敬遠し、特にタイブレークの延長戦ではまともに勝負されているケースはほぼほぼ見ていません。

また、後続のバッターと比較して、リスクを背負ってまで無理して大谷でアウトを取る必要がないと判断されると、四球覚悟で厳しいコースをついてきます。ストライクをあえて投げなくてもいいというのは、勝負は圧倒的にバッテリー有利になります。今季は執拗にインハイ、インコースへの食い込むボール、アウトローへ攻める打席を多く見ています。


そして、それは今季のエンゼルスでいうと後続を打っていたトラウトの離脱や、モニアックの不調でより顕著になりました。

また、今季は出塁率の高いトラウトを2番で起用し、3番に大谷という打順も多くありました。トラウトがランナーとして1塁にいることで大谷と勝負せざるを得ないケースを作るというのもサポートのひとつだと思います。



エンゼルスでさんざん見たように、大谷一人ではチームの攻撃力を爆発的に上げることは難しく、前後に大谷をサポートできる打者がいることでシナジーを生み出すことができます。


そのためには大谷と打撃力で差が少ない、具体的には最低でも今季のトラウトのような存在(出塁率は.350以上、OPS .850以上のバッター)がチームに二人以上ほしいところです。




中5日で回す先発ローテーション


さて、次は投手大谷を生かすことのできるチーム編成について。

まずは、中5日でローテーションを回しているチームであることが理想です。


今季、大谷は中3日で登板した4/21のロイヤルズ戦(前の試合は2イニングで降板)を除いて、基本的には中5日で先発登板していました。
本格的に二刀流として活躍した2021年や2022年は中6日が多かったのですが、今季さらに登板間隔を短くしています。

ただし、シーズン中盤以降、登板を飛ばすケースも見られ、結果的に右ひじを故障し離脱。

降板後も野手として試合に出場し、登板翌日以降(場合によって登板した当日のダブルヘッダー2試合目)も出場し、先発投手に必要な完全なオフを取りにくいため、これ以上登板間隔を短縮することは現実的だと考えています。


一方で、チームによっては先発ローテーションを中4日で回しているケースもあります。

例えば、ヤンキースやマリナーズ、ダイヤモンドバックスは、それぞれコール、カスティーヨ、ギャレンを中心に基本的には中4日で回しています。

中4日で回しているローテーションを5日に変更するには、既存メンバーの調整方法を変えるだけでなく、6人の先発投手を用意しなくてはいけません。

年間を通して好成績を残せる先発投手は市場でも大変人気で獲得競争が激しくなります。先発ローテーションをそのような投手で固めることはなかなか難しく、現にエンゼルスも大谷と大谷以降の選手との格差は明確でした。

先発投手が穴だから大金を払ってでも大谷を獲得したい、というチームよりも、十分に先発ローテーションを中5日で回すことのできるリソースに目途が立っっているチームのほうが大谷を迎え入れやすいのではと考えられます。


量と質を兼ねるリリーフ陣


さて、先発を中5日で回すとなると、中4日のローテーションを組んでいるチームに比べるとリリーフに割ける選手枠が少なくなります。

大谷は一人二役なので相殺できるかもしれませんが、やはりしっかりと年間通してイニングを消化でき、また試合を壊さない"量"と"質"を兼ねた少数精鋭のリリーフチームが必要になります。

また、大谷は責任感の強い選手です。
リリーフの調子を鑑みて無理に長いイニングを投げることはケガのリスクも増えます。

2025年以降になりますが、今後は大谷がある程度チームの勝敗が見えていたら余力を残して降板できるよう、強いリリーフ陣を用意することが必要です。


充実したマイナー組織


最後に、マイナーの若手選手が充実しているということ。


大谷を獲得するには過去になかった競争の中で好条件を提示する必要があります。

シーズン序盤の記事ですが、大谷を獲得するための契約内容は$500 millionや$600 millionといった数字が挙がっています。


肘のケガのため来季は投手として出場できず、またその後もどうしても怪我の懸念を残す中でのフリーエージェントとなってしまい、今ではもう少し現実的な数字になるかもしれません。

とはいえ、大谷はべーブ・ルース以来、世紀を超えて出現した金輪際現れない完璧で究極のベースボールのカリスマ。MLB史上最高のサラリーとなる可能性は非常に高いです。

一方で、大谷との契約は経営を圧迫し、チーム編成のために柔軟に使える予算は毎年限定的になります。

そうするとその年その年にあった課題に対処するために、インパクトのあるFA選手の獲得は難しくなるでしょう。

必然的にチーム編成の手段はトレードがメインとなり、その時重要になるのはマイナーに若手の有望株をどれだけ抱えら続けることができるか、ということが重要になります。

今人材が豊富であるだけでなく、大谷が在籍するであろう10年スパンで常に高い育成力を保っておけるマイナー組織である必要があります。


この失敗例もやはりエンゼルスで観てきました。


大谷に限らず、トラウトやレンドンといった高額なサラリーの選手がおり、投打ともに課題があったにもかかわらず、昨オフはなかなか新たに$100 million、$200 million、$300 millionの契約を結ぶことができませんでした。今のMLBではオールスターランクの選手を獲得するにはその金額感は最低ラインです。
また、マイナーも枯渇気味だったため夏のトレード市場でも、結果的にインパクトのあるような選手は獲得できず。
FAもトレードでも、頭数はそろえたけど結局中の上程度の選手しか獲得することができませんでした。


上記のようなスパイラルになると、チームの行先は再建という建付けでタンキングし、ドラフト上位指名の権利に依存するしかなく、それは大谷が求めるチームとは合致しません。


そのため、大谷獲得時点で如何に優秀なマイナー組織を用意できているか、これは大谷最適化のチームを作るうえでは重要なポイントとなるのです。




出典、画像引用元
https://mainichi.jp/english/articles/20230825/p2g/00m/0sp/006000c
https://www.baseball-reference.com/
https://www.espn.com/mlb/insider/insider/story/_/id/37413674/shohei-ohtani-free-agency-contract-predicted-mlb-insiders
https://www.latimes.com/sports/angels/story/2023-04-06/shohei-ohtani-free-agent-market-value-contract-angels

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