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芋ねえちゃん

子供の頃、学校から帰るといつもおやつがあった。
母の手作りがほとんどで、あまり手間のかからない素朴なもの。
ホットケーキやドーナツ、牛乳寒天、塩をふっただけのふかし芋。

ふかし芋は、秋冬の定番おやつだ。見出しの写真にあるような太い芋ではなく、細くて小さなサツマイモ。母の好きな品種があったのか、近所でいつも売っている芋だったのか。とにかくペロリと3本くらいは食べてしまう、あまり甘くはないけれど美味しい芋だった。

「食べ過ぎたらいかんよ、ご飯食べれんといかんで」と小言を言いながらも、嬉しそうな母の顔が浮かぶ。「よう食べるねえ。芋ねえちゃんだわ、芋ねえちゃん」

芋が大好きな「芋ねえちゃん」
芋みたいに垢ぬけない「芋ねえちゃん」
芋のようにぽっちゃりの「芋ねえちゃん」

まあ、そんな意味合いの、「芋ねえちゃん」である。

今日は友人に付き合い、少し離れた街の商店街を歩いていたら、ふいに焼き芋のいい匂いが鼻を掠めた。『焼きいも専門店』である。
めずらしい店もあるものだと驚きながら、いったんは通り過ぎたのだが、帰りにもう一度その店の前を通ると、我慢できなくなった。やはり買わずにはいられない。

ちょっとオシャレな店構えで、まるでアイスかクレープのように様々な種類の「焼きいも」が売られている。
迷いに迷った挙句、『パープルスイートロード』という名の紫芋と、一番人気の『安納芋』を購入した。

どうして芋は、女の子を幸せにするのだろう。

ホクホクした幸せを噛みしめながら、もはや「女の子」ではなく「おばさん」になってしまった自分を振り返る。

いや。芋ねえちゃんでいいのだ。
長年言われ続けた「芋ねえちゃん」のほうがしっくりする。たしかにもう「女の子」ではないけれど。
母にとっては永遠に「芋ねえちゃん」だ。

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