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謎は1つではない。

昨夜11時を過ぎた頃。
高校時代の同級生たちと、久し振りに食事を楽しんだ帰りのことだった。
家が近く電車が同じ友人と地下鉄に入った。
私たちのほかには、誰もいない。
よし、今だ!とばかりに彼は携帯を出し、写真を撮り始めた。
「?なに撮ってるの?」
「手すり」
見ると、階段の手すりがウェーブしている。
それも小刻みに。

「え?なんで?」わたしは思わず声をあげた。

「前から気になってたんだけどさ、周りに人がいると撮りづらくて」
インスタにあげるために撮っているという彼も、なぜこんなに波打っている手すりなのかわからないと言う。
「前からっていつから?」
「少し前。わりと最近」



営団地下鉄千代田線『明治神宮前』。
JR原宿駅の改札を出てすぐの入り口から繋がっている階段である。

友人が気づいたのは「少し前のわりと最近」(酔っていたので若干意味不明)だが、随分前から取り付けられている手すりのようだった。
どうやらその『波』は、階段の一段にひとつずつ波打っているらしい。
注視しながら進むと、『波の謎』はすぐに解けた。


この図解パネルから察するに、からだの不自由な人たちの昇降を手助けするためのものだ。
その場でググったら、斜めの手すりよりも安定性があるという。〈ウェーブ手すり〉や〈波形手すり〉と呼ばれ、全国に普及し始めていた。

しかし、『なぞ』は残った。
わたしが最初に発した「え?なんで?」の謎は、「なぜ波打っているのか」ではない。
「なぜ気づかなかったか」だ。

週に1度か2度、かならず通る階段である。
その殆どが、仕事の前後の移動で、一人。
昨夜のように誰かとおしゃべりしながら、とか、
音楽を聴いたりすることも滅多になく、
何かに集中しているわけではない。
なのになぜ、気がつかなかったのか。

日常の盲点、といえば解決した気になりそうだけれど、こうした手すりが存在していることさえ、知らなかった。ゆゆしき問題だ。

わたしは放送作家である。
パラスポーツ(障がい者スポーツ)の番組も月に一度ほど担当し、構成やナレーションを書いている。これまでには車いすテニスやブラインドサッカー、ボッチャやゴールボールの選手を紹介してきた。

知っているべきだったと大いに反省したうえで、
ふと、新たな疑問が湧く。

果たしてこのウェーブ手すりを利用し、
普段の生活の一助としている人は
どれほどいるのだろう?

たしかに昇り降りの困難は解消されるかもしれないが、エスカレーターやエレベーターを使った方が遥かに楽だ。実際にこの階段を使わずとも、地下鉄の構内へ続くそれらはある。

気づかなかったのは、利用者を見たことがないから、なのだろうか。

謎はなぞを呼ぶ。
答えはまだ、見つからない。

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